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偽善者と暗躍の日々 十八月目

偽善者と赤帝の墳墓 その06

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 赤帝の墳墓 五十一層


 二十層分の魔物を駆逐し、さらに歩行系スキルに磨きをかけるウィー。
 その度に何かを失うような愁いた瞳を見せるのは、きっと何か俺のやり方に行き届かない点があったからだろう。

 時々視線を向けてくるのだが、その視線が威圧効果も持つようになってきた。

 某覇王の覇気的な感じなのだが……なぜそのような力を、このタイミングで習得したのだろうか?


「あっ、ここからは普通なんだな……まあ、あれだけの改築をやっていたんだから仕方ないとも思うけど」

「そうなのか?」

「国家の財政でたとえるなら、繋げるだけで小国の一年分ぐらいは飛ぶな。ただ、それだけならそれぐらいで収まるんだが……反転やら魔法禁止とかは、神聖国で一年間に集まるお布施ぐらいはあると思うぞ」

「億はくだらんではないか! ……そこまでして、貴公を貶めたいのだな」


 憐憫の瞳は、いったいどこへ向けられたものなのか……それは彼女のみぞ知る。
 とにもかくにも、これまでとは異なり天上の高さは一層分のものとなっていた。


「うーん……今回はトラップだな。しかも、地面以外にも仕込んでいる」

「壁や天井にも、罠が起動する仕掛けがあるということか」

「そうじゃなくてだな……ああっと、外線視スキルを共有してくれ」

「ああ、分かった…………これは──っ!」


 ご理解いただけたようで何より。
 いったいどこでそんな技術を知ったのか分からないが、いわゆる熱源センサー的な罠まで仕掛けられていたのだ。

 そこを通っただけで罠が起動するのだが、いちおうは通る道があるため、迷宮の禁則事項である完全通行不可能には反しておらず、嫌がらせの極みな罠を置けてしまう。


「選択肢は二つ──そのまま通過して罠ごと突破する、熱を操作して通過前と通過後をすべて一致させる」

「……後者の難易度は?」

「瞬時に魔力の属性を読み取り、反属性で障壁を張るぐらいか?」

「…………いや、分からんのだが」


 ちなみにこれ、アルカがよくやっている。
 対消滅させるのが吸収などのチートな手段以外では、もっとも効率よく攻撃を無効化できるので愛用しているみたいだ。

 解析能力や属性適性、魔力変換や適切な魔力量など……求められる能力は多い。

 だがそこは天才であり秀才、スーパーツンドラなアルカさん──人に可能なことであれば、それを成し得てしまうのだ。


「空気中の温度と自身の温度を同化させて、あれを回避するんだよ。そして、その温度とまったく同じ温度で線を受信側に送り返す必要がある。これをすべて同時に、常にやり続ければならない」

「不可能では、ないのだな?」

「限りなく不可能。俺は無理、『メルス』ならできる」


 たまにやる表現だが、改めて説明すると縛り中か全能かどうかである。

 今の俺にはできないが、眷属がための偽善中ならば可能だ──そもそも罠をぶっ壊せばそれで解決だし。


「ならばどうする? このままではすべての罠に掛かってしまうではないか」

「……まあ、別にイイだろう」

「貴公は……」


 何を考えているのか、ご理解いただけたようで何よりです。
 身体強化をスキルではなく魔力と気を練り込み手動で行い、瞬脚を行使して勢いよく駆け抜ける。

 ──俺とウィーが潜り抜けた瞬間、すぐ後ろで棘やら火炎放射器やらが起動する。

 天上が落ちてくるタイプの罠などもあるのだが、そちらは時間が掛かっているため特に気にならない。


「まあ、ウィーがその気になってくれたならもっといい方法があったんだけどなー!」

「それはどういう方法だ!」


 移動中の風までは対処できず、大声で叫ぶことで会話をしている。
 念話をする余裕が無いため、口を動かした方が早いのだ。


「簡単だよ! ミントのスキルを借りて小さくなればいいんだ! もともと妖精が来るような迷宮だったんだ! いちおう予想ぐらい迷宮側も付けてるだろうよ!」

「……今の貴公は使えないのだったな」

「そうそう。だから、言わなかったんだ。あくまで『できた』って話だな!」


 子供にする鱗粉、容姿を変更する魔法、他にも方法はいくつも存在する。
 だがそれはすべて過去の話、今の俺は歩くことを極めかけた存在でしかない。

 会話の最中でも罠は発動し続ける。
 そのすべてを避けて、迷宮の中を彷徨う。

 魔物とはいっさい遭遇していない……こんなに仕掛けを施していては、生かしておくことも難しいだろうし。


「うーん、ウィーの修業になるなー! あと数層も同じような罠があると思うけど、ずっとこれをやり続けるか!?」

「やれと言うのであればやるぞ! 私とて、覚悟は決めている! 貴公が言うのであれば人ぐらい辞めてみせる!」

「……そ、そこまでの覚悟は要らないけど」


 聞こえてはいないと思うが、そっちの方が都合がいいので別にイイや。
 ウィーに人族を止めてほしいとは思っていないし、本当にそれが必要ならば眷属に嘆願して安全な方法で辞めてもらう。

 ……うん、別にその選択そのものが異常とは思っていないぞ。

 それを否定してしまうと、[不明]なうえ因子でコロコロ種族を変えてる俺って何なんだよと考えてしまうからな!


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