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偽善者と暗躍の日々 十八月目

偽善者と赤帝の墳墓 その04

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 赤帝の墳墓 二十一層


 俺は本当に、何をしたというのだ。
 落ちていた妖精を拾い、魔法を駆使ししながら迷宮ダンジョンを脱出した……ただそれだけだ。

 なのに迷宮はそれすらも許さず、迷宮主ダンジョンマスターの意思に従い苦行を敷いてくる!


「これはもう、訴えていいと思う」

「……訴えられるのは貴公の方では?」

「えっ、俺が? ……ないない、この迷宮に限ってはありえないことだろ」

「そうだろうか……」


 完全な被害者なわけだし。
 抵抗してくるから相応の対応をしたが、本来迷宮とは追加ルールで縛りを設けるような試練の場所ではない。

 世界に根付き、周囲の環境を整え余分な魔力や思念を集めリサイクルする……少し違うが簡単に言えばそういう場所だ。

 決して、単独の意志が支配して占拠するような所ではない。


「だって、また九層繋がりだぞ? 向きは逆になったけど、これはこれでまた面倒臭そうじゃないか」

「私が空駆を使いこなす間に、策を練ってきたのだろう。わざわざ空を飛ぶ相手に同じ仕掛けを施す必要などない」

「一面中のドラゴンドラグンドラロン。どんだけやる気に満ち溢れているんだか」


 細かな属性や生息地は問わず、迷宮という巨大な意思の下に統率されたドラゴンたち。
 彼らは雲の絨毯のように層を成し、己が肉体を以って階層を隔てていた。


「まあ、ウィーの竜殺しスキルの熟練度上げぐらいにはなるか。それじゃあさっそく、狩り尽くそう!」

「……不安だ」


 天地が反転しているので、目的地に向かうためには下へ──つまりドラゴンたちよりも底へ向かわなければならない。

 当然邪魔をしてくるだろうが、俺の回避技術向上にもなるので一向に構わん。


「だが、これはさすがに面倒臭い……補助魔法を掛けるぞ──“竜殺体現ドラゴンキラー”!」

『──ッ!』

「見違えるほどの変化だな……いい意味でも悪い意味でも」

「怒るが五割、狂うが三割、逃走するが二割か……あんまり弱くしすぎたか?」


 オリジナルの支援系魔法だが、効果は付与者に竜殺しと同じ力を一部分だけ与えるというものだ。
 その一部分こそが、竜を殺したという認識なのである。

 ただまあ、威圧感的なものが増えるだけなので、理性を宿したドラゴンが相手だとほぼ確実に反感を買って殺されるだけだ。
 あくまで弱いドラゴンをどうにかしたい、そんな貴方へお勧めの一品である。

 何度も言っておくが、あくまで威圧感だけだ──別に竜相手に強くなるとか、攻撃が効きづらくなるなんて効果はいっさいないぞ。

 ……あくまで、戦士系の役割をしている奴が、竜の注意を引くために使うのだ。


「ウィー、挑発を武技なしでできるか?」

「やってみよう──挑発タウント!」

『ッ!!!』

「凄い怒りっぷりだ。たぶん、“竜殺体現”の効果がセットで載ったんだろうな……成功か失敗か微妙に分かりづらい」


 本来の“挑発”は、不快な気を対象に送ることで注意を向ける武技だ。
 祈念者プレイヤーにも魔物以外の存在にも効くには効くが……感情が無や乏しい存在や、不快さを無視できる存在には通じづらい。

 今回の場合、気の送り方に少々難があったものの、“竜殺体現”の補助効果によってドラゴンたちの注意を奪えたというのが実際のところである。


「けど、やっぱり数多いな……ウィー、軍刀だけなら武技OK。ただし、飛ばす系の武技は禁止で」

「それだけ可能ならば充分──“切斬スラッシュ”!」

「頑張っておくれー……っと。ちょっと様子でも見てくるか──“瞬脚”」


 視界内ならどこへでも向かえる便利なスキル、再使用時間が長いが別に帰る必要も無いので目的地へ降り立つ。

 神眼は封印しているものの、種族[不明]のスペックならば──小さな隙間から視れた。


「十九階層到達っと。なあなあ『赤帝』、今どんな気分だ? わざわざ時空魔法を封じておいたら、まったく別の方法で瞬間移動をされた気分はよ?」


 聞こえているはずなのだが、残念なことに返事は来ない。
 気配は断っているからか、ドラゴンたちもウィーの方へ向かっている。


「セーブポイント設置完了。さて、戻……れないな、これ」


 おそらくドラゴンたちの殺戮で疲労するであろうウィーのため、安全地帯の設営をしていたのだが……隙間が塞がれてしまい、元の位置に戻れなくなってしまった。

 まあ、その気になれば戻れるし、逆に彼女の方をこちらに呼ぶこともできるのだが……せっかくのチャンスなので、ウィーには称号スキル(竜の天敵)を手に入れてもらいたい。


「だがしかし、俺のやるべきことがほとんどでないではないか……サランと居る時は失敗がある分やることも多かったけど、さすがはウィー。やるべきことが全然ないや」


 眷属同士で鍛錬をしているものだから、蠱毒のように成長を重ねてしまっている。

 狭い環境の中で強者同士が強くなり続けた結果、普通の相手ではどれだけ集まろうと敵わないような実力者へ。


「傷つかないことはいいことだし、強くなった証拠だから何も言うまい……けどまあ、それとは別に頼ってもらいたいよな」


 眷属は俺を守りたいが、俺も眷属を守っていきたい。

 強くなればなるほど、そのハードルが高くなっていく……なんだかもう、凡人じゃ届かない領域なんだよな。


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