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偽善者と暗躍の日々 十八月目

偽善者と赤帝の墳墓 その02

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 完全に攻略不可能な場所にはできなかったようで、いちおう空へ向かう手段を持たない者でも向かえるようになっていた。

 魔物を一体倒すことで、空へ向かう階段が一歩分生成されるのだ。


「その難易度が異常なんだが……まあ、いい練習になっているようで何よりだ」

「ティル殿やドゥル殿に比べれば、確実に戦いやすい相手ではあるからな」

「まあ、そうだよな……あっ、次が湧いてくるみたいだぞ」

「剣術の腕は上がるが、あまりに索敵の技術がな……メルス、もっともそういった技術に長けた者は誰なのだ?」


 俺が索敵した相手を一撃で屠り、そんなことを尋ねてくる。
 ちょっと前に武闘派最強決定戦をやったのだが、他の分野で競ったことってないな。

 いずれ育成イベントであったような部門で分けて、どの眷属が一番か調べてみるのもいいかもな……『魅力』を除いて。


「そうだな……先に訊きたいんだが、それはウィーのためになる方法の中でか? それともどんな方法でもいいから、辺りの情報を把握する方か?」

「いちおう、どちらも聞いておきたい」

「前者ならミシェル、後者なら俺だな」

「では、ミシェル殿に教わることにしよう」


 ……完全に俺、スルーされてるな。
 ちなみに理由はシンプルで、ミシェルは人も魔族も信じていなかったから。

 俺の方は当然、眷属が作ってくれたものや大神の寄越したスキルがチートだからだ。


「まあ、そこら辺は自分で取り次いでくれ。眷属の頼みだし、学業で忙しくないときならやってくれると思うぞ」

「……メルス経由の方が、確実なんだがな」

「まさか。ちゃんと優先することは分かっているいい娘だろ。眷属が力を必要としているなら、多少の無理でもやってくれるさ」

「それはそうだが……いつも通りだな」


 何がいつも通りか分からないが、眷属の居る場所でダメダメな姿を見せないようにしているという意味では、間違っていないな。

 それでもダメな空気が漏れ出ているとは思うが、そこら辺はスルーしてもらいたい。


「階段は今五層目ぐらいだな。幅をズラせば歩行スキルでも行けそうだが、どうする?」

「……私では無理だろう」

「そうだな。せめて天駆レベルまで成長していたら、可能だったかもしれないが。まだ空歩だし……いっそ今やってみるか?」

「勘弁してくれ。私と貴公では一度の経験の反映が異なる」


 三つの経験値ブーストを施しているウィーだが、そんなブースト系能力の極みともいえるものを十数個も重ね掛けしている俺が相手では、さすがに比べものにならなかった。

 ……だが残念なことに、凡人と天才とではそもそもの成長速度が違うんだよな。

 重ね掛けてようやく、俺は天才よりほんの少しだけ一歩前に出るぐらいの経験値を得ることができている。


「まあ、ウィーが嫌と言っても勝手にやるんだけどな。瞬脚まで昇華させれば、移動もだいぶ楽だし。今回は糸で繋いで俺が常時使うから、ウィーは暴走するだろう空歩スキルを制御していってくれ」

「……はぁ、分かった」

「さすがウィー。最後には俺の頼みを引き受けてくれる。だからこそ、紅蓮都市を任せておけるんだ」

「それは貴公に任せてもいい、ということの暗喩か──『放蕩王』?」


 懐かしいあだ名を言ってくれるものだ。
 だがやるべきことはやる……魔力の糸を接続し、“経験共有”で俺の歩行術系統のスキルの経験値と熟練度がウィーにもいくように設定しておく。

 また息を漏らすのだが……少々いかがわしくなりそうなので、控えてもらいたい。


「やはり慣れぬな……」

「する側とされる側で違いがあるのか? まあ、これは効率を高めるために直接繋いでいる弊害だろう。実際、眷属同士でやっててそういうクレームが来たことないし。──そうだ、感覚はどうなっている?」

「……脳裏に使い方が流れ込んでいるが、たしかに便利だな。しかし、それ故に使いすぎると……というよりも、そもそも消費する精神力が多すぎる」

「そうか? まあ、普通はそうなのか。使う時は軽減系の能力もいっしょに使っておくことをオススメするよ」


 俺は【節制】の能力で、あらゆる消費エネルギーが極限まで低く設定されている。

 少しだけ制約が設けられているものの、それも初期の頃とは違ってしっかりと改称しているので問題ない。


「っと、次が来た。悪いがこれもパパッと倒してくれ」

「──ハッ!」


 武技など使わず、剣技だけで現れた獣型の魔物を屠る。
 せっかくなのでウィーには、ボスっぽい魔物が出るまでは武技を使わないでいてくれと頼んでいたのだ。


「うんうん、ティル先生仕込みのいい斬撃だと思うぞ……たぶん」

「貴公の腕もかなりのものだろう?」

「教えることとできることに別の才能が必要だって言うだろう? そもそも外付けの才能で補っているのに、そこに教える技術まで付属しているわけないだろう」


 できることと言えば、地球の知識を思いだして眷属に伝えることぐらい。
 昔取った杵柄的に、いろいろと病んでいた中学二年生の頃の俺が、さまざまな知識を流し読みしていたのが幸いした。

 けど……さすがにそれは俺の力ではない。
 思いだしたのはチートなスキルのお蔭だったし、そもそも思いだしても『俺』では何もできずに呆けることしかできなかった。

 眷属という、それを応用することができる存在だからこそ使いこなせたのだ。
 凡人が核兵器の知識を持っていて、日常生活の中でそれを再現できるわけがない。


「よし、そろそろ充分だな。ウィー、空を行くぞ」

「……私でもできる範囲で頼むぞ」

「大丈夫。俺にできることは、才能を持つ奴なら誰でもできる!」


 モブ代表の俺が言うんだ、才能のある奴らは安心して挑むがいい!


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