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偽善者と暗躍の日々 十八月目
偽善者と眷属化面接 後篇
しおりを挟む「はい、面接ご苦労様でした。結果はおいおい報告する……というのと、今すぐに済ませるのとどっちがいい?」
「「今すぐで!」」
「あいよ──ナックル、悪いが席を外してもらうぞ」
「分かった」
ナックルをこの場から追いやり、俺なりに情報が漏れるのを魔法で防いでから──ジッとこちらを見つめる二人の少女へ、面接の結果を伝える。
「はい、合格おめでとう。というか、別に落とす気無かったし」
「……後半が無ければ普通に喜べたんですけど。いちおう訊きますが、それはどうしてですか?」
「先に言っただろう? お前たちが望む眷属には、面接を経ないとなれないと」
「つまり……そうでないなら、最初からなれたと? ……ハァ」
二人揃ってため息とは、そんなに緊張してくれていたのか。
そもそも眷属という制度だって、あくまでマーキングの一種でしかない。
クラーレだって、眷属ではなく霊呪とかいう特に意味のない印を刻んでいるだけだし、あくまで能力値やスキルなどに特典が付くかどうかだけの話だ。
「まあまあ、アンケートの方はバッチリやっておいたから。それで許してくれよ」
「そうですね、そちらはどうでしたか?」
「うん、二人とも<大罪>も<美徳>もあげられそうにない。あれっていわば、人格破綻者に与えられるスキルだからな。俺みたいにその制御ができるスキルを持っているか、適性がある奴以外には与えられない」
人格破綻者はオブリ、適性があるのはアルカが具体例だろうか。
オブリは子供なので修正可能だが、行う献身さは常軌を逸している。
誰かのために、己が身を鑑みずに働くさまは……まさに奴隷と言っても仕方がない。
アルカはそこまで達しておらずとも、自身の怒りを適切な形で生みだし放つことができている。
生まれ持っての才能もあるので、【憤怒】の力を扱うことができた。
「ハッキリ言うが、お前らっていい意味で普通だからな……師匠師匠と付き纏ってくるヤツとも、ギャフンと言わせるとか言って全力で殺そうとしてくるヤツとも違う。アレが異常でお前らが普通なんだ」
「「…………」」
「だから……って、なんだ? 後ろに何かあるの……か……」
「「────」」
うわさをすれば、というヤツだな。
待機していたのは──柄しかない剣を握り締める中性的な少女と、恐怖しか感じられない笑みを浮かべて杖を握るツインテール娘。
誰も体を動かせない。
しかし、先の少女たちだけは体内で凄まじいほどのエネルギーの流動を行っている。
……あっ、詰んだな。
「(──“輝光”)」
『ッ!』
「からの“光速転下”!」
どうせアルカが居る時点で、転移して逃げることは不可能と察していた。
なので生活魔法で光を生みだし、そのうえで肉体を光速に動けるものとして脱出する。
「させるか──“冥牢”!」
「げふっ!」
おそらく【思考詠唱】スキルで何重にも施されたそれが、光を纏ったはずの俺を闇の中へ押し込んだ。
ついでに“奪光”という告げる声が聞こえると、照らしていた光も消えてしまう。
「師匠、久しぶりだね」
「……ああ、うん。久しぶり」
「さっき気になることをちょうど耳にしたんだけど……付き纏ってくるヤツって、どんな人なのかな?」
「え、えっと……それは、その……」
普段の俺ならドストレートに「お前」とか言えそうなんだが……なぜだろうか、ユウの笑みがなんだか怖い。
「私も気になるわね。あんたを全力で殺そうとしてくるヤツ? はどうでもいいから、普通に死んでくれないかしら?」
「お前に至っちゃ普通に犯行予告かよ!? 死にたくないって言ってるだろ! 人間ってのは生まれたからには、持っている命を大切にするべきじゃないか!?」
「そんなこと知らないよ。ほらほら、師匠早く闘技場に行こうよ」
「ええ、私が送ってあげるわよ。だからさっさと抵抗を止めなさい」
「い、嫌だ! 今のお前ら、絶対俺を殺す気満々だもん! ……そ、そうだ、二人とも、俺を助けてくれよ!」
俺の視線の先には、新眷属であるノロジーとセイラ。
二人を一度顔を見合わせると、ニコリと笑みを浮かべて──
「「逝ってらっしゃい!」」
「ははっ……逝ってきますよチクショウ!」
さらば、俺ことメルス先生。
メルス先生の次回作にご期待ください!
◆ □ ◆ □ ◆
第四世界 闘王技場
「な、なんとか耐えきった……」
「し、師匠って本当に師匠だよね」
「師匠を都合のいい言葉にするなよ。俺も眷属との研鑽の中で、日々強くなっているってだけだろ」
「それでこそ、倒し甲斐があるのよ。ユウ、そろそろ帰るわよ」
ユウとアルカのコンビネーションもまた、磨きがかかり『俺』を殺すことができる領域まで達していた。
だが、『偽善者』を倒すのはまだまだ……それも時間の問題、じゃなきゃいいけど。
俺をボッコボコにして満足したアルカたちだが、せっかくなので配達人として一働きぐらいしてもらおう。
「ユウ、アルカ──これをあの二人に届けてやってくれ」
「これって……」
「あの結晶かしら?」
「今回のはあの二人にだけ中身が分かるようにしてあるから、ちゃんと届けてやってくれよ。対価は今回戦ったってことで、チャラにしといてくれ」
「分かったよ」
「仕方ないわね」
今度こそ、二人は転移魔法でこの場から居なくなる。
残されたのは、全身ズタボロなモブだけ。
「……ああ、疲れた」
面接もだが、突発的にこんなことが起きるとは想定していなかった。
なのでセットしていた縛りもほとんど非戦闘系統だったし、こうなるのも必然だ。
──だが、それでも対応できた……縛りによる成長はちゃんとできているみたいだな。
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