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偽善者と暗躍の日々 十八月目

偽善者と眷属化面接 前篇

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 始まりの町 ギルドハウス『ユニーク』


 あの後もメィルドと話をしたが、その場で俺が吸血鬼ヴァンパイアであったことはバレなかった。

 最後にはメィルドが歌を歌い、俺とクラーレで楽器を演奏する……なんてこともあったが、それは別にいいだろう。


「──とまあ、そんなわけだ。帝国で吸血鬼に関する問題があっても報告だけにしておいてくれ。あと、ついでに他のプレイヤーたちの牽制も」

「……何をやっているんだ、お前は」

「偽善だが?」

「いや、だから…………ハァ」


 ナックルは深くため息を吐き、隣で立っているアヤメさんが用意したお茶を啜る。
 俺の世界の迷宮ダンジョンで作っているのだが、割と気に入ってもらえたようだ。


「帝国を拠点として活動しているプレイヤーなんてザラに居る。そして、吸血鬼に関する騒動はそいつらも知っている。分かるか? もうとっくに[掲示板]で揉めてるぞ」

「そりゃそうだろう。何も隠さず、むしろ宣伝させる勢いでやっているんだ」

「いや、だからな……お前、業値カルマとかいったいどうなってるんだよ」

「言わなかったか? ……ああ、これはユウにしか言ってなかったんだっけ。俺は自分のスキルの能力で、業値に変動が無い。どれだけ動いても善にも悪にもならない、常に0のまま固定されている」


 それこそが<正義ジャスティス>だから。
 自分が信じる道に他者の倫理観なんて関係なく、その結果が信じる<正義>たり得ればすべてを正当化する。

 ──要するに、正義しゅちょうってのはヒーロー側にも悪役側にもあるってことなんだろう。


「アヤメ、聞いていてどう思った?」

「こうして何度もお話を聞かされると……その、メルスさんだなぁ、と……」

「そうなんだ。コイツは何も変わらない、どこに居ようとやらかすんだよ」

「ヲイ、人を歩く問題発生装置トラブルメーカーみたいに言わないでほしいんだが? ソレを言う資格は、お前にだってないんだからな」


 そもそも『ユニーク』という集団のイベント遭遇率は、非常に高いと言えよう。

 眷属であるユウとアルカが特に高いらしいが……それを除けば、大半がナックルの持ち込む案件なんだとか。


「知っているんだぞ? お前が別の大陸でコロシアムに参加して、どこかの王様とガチンコで殴り合ったってこと……」

「なんで知っている!? あっ、いや……そうか、コイツにはユウとアルカが居たか」

「タレコミはアイツらからじゃないが……とにかく、ずいぶんとまあ派手にやっているそうじゃないか。頑張って、俺の眷属の住んでいた大陸を見つけてくれ。滅ぼしたいって眷属が居たら、すぐにそこは無くなるけど」

「……誰だ、いったい誰なんだ」


 俺も俺で凶運が作用しているが、ナックルはそんな人工モノと違って天然でトラブルを招いているのだろう。

 情報提供者たちも、それに巻き込まれるようなので……簡単に教えてくれたものだ。


「──まあ、それはいずれ暴こう。それよりもメルス、ノロジーとセイラがお前に用があると言っていたぞ。今日はちょうどログインしているし、会っていってくれ」

「それは構わないが……何かあったっけ?」

「本人たちの前でそれを言うなよ。会う前に記憶の整理でもしておくんだな。それじゃあアヤメ、呼んでくれるか?」

「分かりました」


 ずいぶんと秘書役が決まるようになったアヤメさんが、二人を呼んでいる間に思考を巡らせ記憶を漁っていく。
 二人がセットでってことは、たぶん個人での会話に答えは無いだろう。

 なので遡り、二人がセットで何かを頼んでいることを思いだせば…………。


「すぐに来るようです」

「分かった。それでメルス、何があったか思いだしたか?」

「たぶんな。これはナックルもいっしょに話しておきたい内容だから、このまま付き合ってもらうぞ」

「ん? ああ、構わない」


 それから数十秒して、部屋のドアがノックされた。
 アヤメさんが扉を開けると、そこには想像通りの二人が立っている。


「よう、お二人さん。元気にしてたか?」

「貴方がお土産と称して持ってくる、危険な原子や分子さえ無ければ元気でしたよ」
「そうですね。それなりにゆったりとした時間だったかと」

「そうか……まあ、座ってくれ」


 思いだして頭痛に顔をしかめる茶髪の少女ノロジーと、優しい笑みを浮かべる白髪の少女セイラ
 ナックルを俺の隣に座らせたので、二人は先ほどまでアイツが居た場所に座った。

 茶請けの菓子に一つ二つ手を伸ばし、一杯お茶を飲んでから……話を進める。


「いちおうだが訊いておく。どうして俺に用があったんだ?」

「「──眷属にしてください」」

「やっぱりか……というわけ、オーケー?」

「また優秀な人材が引き抜かれるのか。最初から分かっていたことだが、こうもすぐに進むと……ハァ」


 もともと撲滅イベント辺りで、弟子とかそういう関係になっていたような気がする。
 まあ、師匠と俺を呼ぶユウのイメージが強すぎて、あまり師匠らしいことは他の奴らにしていなかったが……それはさておき。

 ユウとアルカを眷属にした辺りで、彼女たちからも眷属になることを望まれた。

 だがそのときは先に、眷属にした二人から慣らしと称したお仕置きを受けていたいたので、後回しにさせてもらっていたのだ。


「あれから島に飛ばされていろいろとあったからな。そういえば……みたいな感じになっていたよ。だがまあ、一度言ったことはしっかりと守る──面接をやったら、その結果次第で眷属にしよう」

「「…………えっ?」」


 だからこそ、ナックルにもいっしょに居てもらったのだ……とりあえず、本音まで訊かせてもらおう。


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