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偽善者と暗躍の日々 十八月目
偽善者と吸血調査 中篇
しおりを挟む冒険者ギルド
「……分かりました、分かりましたから……もう許してください」
「ますたー。これはますたーのためを思って言っているんだよ。一時の感情に任せて動くことがどれだけ危ないか……いい? もうやらないって約束するんだよ」
「…………はい」
「まったくもう……ますたー、もう食べててい『いただきます!』……ハァ」
全然反省していないだろう。
用意しておいたパンケーキを頬張る姿から反省の色はまったく見えず、夢中で食べる姿が小動物と重ねっているのはなぜか。
そこまで嬉しそうだと、こちらも嬉しい。
「ますたー、それ美味しくできてる?」
「はい! 少し独特と言うか、なんというか表現しづらいですが……不思議な調味料を混ぜていますね」
「ふっふっふ、もちろんだよますたー。それはなんと──たっぷりと血が……」
「ぶぅーーーっ!」
中身をぶちまけるようなことはしなかったものの、少々口の中の液体が飛んでくる。
とある業界ではご褒美らしいが、俺としては予想できていたモノなので、しっかりと魔力で出来た壁を用いてそれを阻む。
「な、な、んな……っ!」
「どうどう、ますたー、それに不味かったわけじゃないでしょう? 私の血を使ったわけでもないから、ちゃんと聞いてよ」
「…………分かりましたもぐっ。ですが、あまりにもぐっ理由に難があるのでもぐっ、あればもぐっ、こちらとしてもぐっ──」
「食べるかしゃべるかはっきりしよう?」
そういうと、黙々と食べ始める。
あっ、そっちなんだという感覚は無く、やはりそっちかーという気分だ。
ちなみにこれを作った理由はシンプル──今の俺が吸血鬼を演じているからである。
「順を追って説明……ってほどじゃないんだけど、いちおうするね。どこかで見た記憶の中に、動物の血を使ったパンケーキっていうのを見つけたんだよ。タンパク質とか鉄分とかが豊富で、体にいいって宣伝文句付きの」
「それでこういう味なのですか……」
「そのうえ、こっちだと魔物の血なんてものがあるからね。薬とかの触媒になっていることから分かるとは思うんだけど、体に凄く効果があるから使ってみたんだ」
「あっ、やっぱり魔物の血なんですね」
動物のモノでもよかったのだが、やはり魔物の血の方が多く持っていたので、在庫処分というか整理のついでに使ってみたのだ。
そのお蔭でケーキそのものの品質が向上、特殊なバフまで付いてきたよ。
「それはもちろん──っ!」
「どうかしましたか?」
「ますたー……警戒して」
「…………分かりました」
先ほどまでと空気を変えて俺を見て、何かが起きたことを察してくれたクラーレ。
俺が見る場所──すなわちギルドの入り口から現れた者たちを見て、おずおずと声を掛けてくる。
「あの方たち、ですか? なんだかアニメやマンガに出てきそうな方たちですね」
「コレの弱点はいろいろとあるからね。戦う準備をしようとすると、だいたいあんな感じになるんだよ」
帝国側は、俺が銀以外の弱点が効かない個体として活動していることを知らない。
そういう風に情報操作をしたため、彼らもまた普通の個体を屠ると想定したのだろう。
実際には魅了の魔眼で記憶操作をして、情報を規制しただけだが……それだけで、相手の難易度がとてつもなく変わってしまうのだから、吸血鬼と言う種族に与えられた強さと弱さには参ったモノだ。
「あれが……メルの言っていた?」
「うん、狩人たちだよ。それも、今の私に特化しているね」
「……解除すれば何も疑われないのでは?」
「ますたーの安全も考えて、今だけは普人の因子を前面に出しているよ。だからどれだけ視ようとしても、私は普人族としてこの場に居るように思えるよ」
あまりつるまないように思えない人種だったのだが、彼らは複数人現れた。
人数は六人──ただし内訳として三、二、一人となんとなく隔てりを感じる。
ちなみに、クラーレには説教の最中に例の単語──『吸血鬼』を口にしないようにと何度も言っておいた。
チラシも張られているので、問題ないとは思うが……目を付けられると厄介だしな。
「そういえばメル、AFOだと彼らはどのような方々だと判断されるのでしょう?」
「職業と称号、だいたいどちらかだね。職業なら狩人系の職業の派生からなれるよ。称号は殺し尽くせば勝手に手に入る……だけど、こっちはただの殺人者だからね。ほら、もう片方はアンデッドだけど、こっちは──」
「魔族でしたか」
祈念者の眷属であるティンスが吸血鬼なので、そういった情報は調べてあった。
すべてを吸血鬼で括ろうと、やっていることは人殺しに違いない……あくまで国が保障した狩りだからこそ、集まった者も居る。
「メルス、あなたのせいで大変なことになったみたいですね」
「そうでもないよ。だいたい、あの手配書から私もそうだけどあの姿に気づくと思う?」
「だいぶ美化されていましたね。はい、そういう意味ならバレないと思いますよ」
「……そういう意味って、どういう意味?」
内緒だと言って教えてくれず、再びケーキに手を伸ばし始めるクラーレ。
なんだかなぁと思おうとしたそのとき──
「少し、いい?」
彼らの一人が、こちらへやって来た。
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