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偽善者と暗躍の日々 十八月目

偽善者と吸血調査 前篇

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 天の箱庭 談話室


「わたしも行ってみたいです!」

「……あれ?」


 帝国でやっていたことを話してみると、なぜかクラーレがそう主張し始める。

 何か琴線に触れるようなことを言ったのだろうか……現実でも顔を合わせているシガンに確認してみたが、心当たりはないらしい。


「ますたーたちは、帝国に行ったよね? あまり危ないことはしない方がいいと思うよ」

「メルが守ってくれるので大丈夫ですよ。それに、何かあればすぐ逃げますから」

「……でも、具体的に何をしに行くの? もうやることなんてないんじゃ……」


 何かやりたいようだが、こちらとしては協力するとはいえあまり危険な行動はとらないでもらいたいんだよな。

 だがまあ、せっかくなので俺独りじゃ行けずに悩んでいた場所にでも……と。


「ますたー、いっしょに行ってくれる?」

「はい、もちろんです!」

「ありがとう。それじゃあ、すぐに行くから準備してね」

「は、はい! ……って、すぐにですか?」


 いきなり行くと決まっても、女の子には準備が必要だろう。
 それは分かっているつもりだが、やはり男である俺は急かしすぎてしまったようだ。


「なら、私は少しの間生産室に籠もって何か作っているよ。準備ができたら呼んでね」

「分かりました」


 クラーレが着替えやら心の準備やらいろいろとするため、部屋から出ていく。
 その間に、俺とシガンは互いに顔を合わせ言葉を交わす。


「クラーレに何をさせる気なの?」

「帝国にはイベントが多いし。だから、それが狙いで定住しているような祈念者も一定数居るみたいなんだ」

「……危なくは、ないのよね?」

「それはもちろん。命の恩人に、迷惑を懸けるようなことはしないよ」


 しっかりと、その言葉を伝えておく。
 するとシガンはハァとため息を吐き、頭に軽く手を載せて言葉を漏らす。


「それって本当なの? 正直、全然メルが負けているイメージが浮かばないんだけど」

「あれはメルじゃないノゾムだからね。だけど、救われたんだから関係ないよ。ますたーがますたーとして私を必要としてくれるなら、それに応えたいだけ」

「……そう。クラーレのこと、頼むわよ」

「もちろん、任せておいて!」


 まあ、そんなこんなで二週目が決まった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 ヴァナキシュ帝国


 クラーレと共に街を練り歩く。
 吸血鬼ヴァンパイア騒動はつい先日のことなので、どこもかしこもそんな話ばかりだ。

 吸血鬼ハンターも来るらしく、その前に見つけだしたい者ばかりなのだろう。


「ふふっ、メルは人気者ですね」

「私は人気者じゃないよ。それに、ますたーの方が注目の的だよ? 男の人も女の人も、それ以外の人もみんなますたーのことを見てくれている!」

「……あ、あまり意識していなかったのに、わざわざ言わないでくださいよぉ!」


 清楚なワンピースだろうか?
 俺の作ったデザインではなく、おそらくギルドの生産班の誰か──おそらく裁縫志望のクーチェ──が生産した物だろう。

 クラーレの可憐さを前面に出した清涼感溢れる白色のソレは、まさに天使や妖精を彷彿とさせるほどに心を洗われるような感覚を見た者に感じさせる。

 やはり女子用の服は女子が作るべき物なんだろう……特殊効果を付ける時はさすがに干渉するが、デザイン云々は国の生産職の者たちと取り決めをしておいた方が良さそうだ。


 閑話休題ちゅうもくのまと


 隠蔽スキルは気配を抑え、あくまでも認識しづらくするのが精一杯だ。
 超級まで上げさせてはいるものの、帝国まで来るような奴らの斥候系職業の持ち主であれば、あっさりと看破するだろう。

 そして気づかれれば気づかれるほど、隠蔽の効果は薄れてしまう……クラーレが注目を浴びてしまっていたのはこのためだ。

 一度、誰の認識からも見つけられなくなればリセットされるが……今は無理だろう。


「……あの、メル。物凄く周りから見られている気がするんですけど」

「ますたーが単独で動いているからだよ。帝国でいろいろとやったんでしょう? もともと美少女パーティーだって人気だったのに、その一人がこんな風に堂々と歩いていたら目立つに決まってるじゃん」

「で、でも、メルだっていますよ!」

「私は吸血鬼としての能力で、冒険者で言えばS級でも見つからないように存在を偽装しているからだよ。だから、傍から見ればますたーは独り言を言っているだ──むぐぅ」

 クラーレの手に刻まれた強制召喚印──霊呪が輝き、俺をこの場に呼びだす。
 吸血鬼状態は縛りのことも考えて予め維持できるようにしていたが、偽装の方は解除されてしまうわけで……。

 慌てて吸血鬼であることは隠したが、それ以上のことは何もできなかった──クラーレが自らの手で俺の口を塞いだからだ。

 うん、それ自体に意味は無いんだが……不思議と気恥ずかしさがな。


「ふふーん、これでメルもいっしょに見られるはずです!」

「……ますたー、それを使ってまで一人は嫌だったの?」

「当然です! シガンやギルドのみんなが居るならともかく、私はこっちでくらい誰かといっしょに居たいんです!」

「あのね、ますたー。さっきの話をもう一回訊いてね」


 気恥ずかしさを気取られないように、淡々と説明をしていく──吸血鬼を召喚することに関する、危険性について。


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