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偽善者と暗躍の日々 十八月目

偽善者と吸血潜伏 その06

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 展開された魔法陣は、少しずつ狭まり俺の四肢を拘束するように展開された。
 軽く力を加えてもビクともせず、逆に拘束力が強まっている気がする。


「はっ、はははっ、バカめ……バカめバカめバカめぇぇぇ! お前のような輩がこれまでどれだけ居たと思ってやがる! その度、ここで終わりを迎えてたんだよ!」

「……どういうことだ? 今この拘束を解くのであれば、寛大な処置をしてやろう」

「はぁ、何を言ってやがる? 下等な蝙蝠はここで死ぬんだよ、顔はそれなりにいいみたいだが性格が悪い。おまけに吸血鬼は日中に使いづらいから価値が低い! なんて価値のねぇゴミなんだよ……このクソ蝙蝠!」

「ッ!」


 状況が逆転した瞬間、高笑いしながら俺に蹴りを入れる商人の男。
 だがまあ、ここが地下で何を売っているのかを理解していただけただろう?


「居るんだよなぁ、テメェみたいなアホは定期的に。仲間を解放しろだの、奴隷を献上しろだのと……下等種族がこの普人フーマン様をなんだと思ってやがる!」

「…………」

「おう、だんまりか? 混ざり者どもは俺たち普人によって使われるのが当たり前ってものだろ? 精々感謝しろ、この俺によってお前は灰になるんだよ!」

「……ハァ、バカもここまで達すれば一種の才能であるか」


 まあ、傲り高ぶる滑稽な男としては、それなりに高評価な振る舞いである。
 ぜひ演技に採用したい……が、今は別の問題なのでご招待だけすることにして、さっさと終わらせることにした。

 ──魔法陣を力づくで破壊したのだ。


「さて、灰になるんだったな?」

「……な、なんでだ。なんで封印結界が壊れるんだよ!」

「何を言っている。あの程度の拘束、子供がしがみついてくるようなものだろう。あまりに稚拙な術式ゆえ、少々可愛げがあり解くか悩んだものだが……君の言葉で決意が固まった。お礼を言わねばならぬな」

「ひ、ひぃいいいぃいいいいい!」


 吸血鬼の魅了の魔眼、そして特に意味は無いが精霊眼を発動させた状態で男の目をジッと見つめる。
 精霊使いではないうえ、特に精霊に好かれているわけでもないので誰もいないな。

 片目分の魅了の魔眼なので、たしかにあまり深い魅了効果は発揮できない。
 だがそれは、短期間ならばの話……時間さえかければ片目だけでも充分だ。

 ゆっくりと魅了の力にズブズブと嵌り、一時的に俺の言うことをなんでも聞く人形状態となった男。

 先ほどまでとそもそもの深度が違うので、質問にはあっさりと答える。


「この仕掛けはなんだ?」

「──愚かな侵入者を捕縛するためのモノです。登録した魔力反応ではない者すべてを拘束し、弱体化させます」

「発動条件は?」

「すべての魔道具を解除した時、またそれ以前に触れようとした時。他にも特定の順番で魔道具を解除しなかった時も該当します」


 ずいぶんと疑り深い魔道具だな。
 この世界では高度とされる識別システムを信用しておらず、ほぼ確実に侵入者をこの場で捕縛することができる。

 俺だったらそうだな……“記憶掌メモリーテイカー”でその情報を知ったうえで、男の魔力を完全再現して開錠すればどうにかなるか。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 改めて、扉の中へ侵入する。
 草木が眠った丑三つ時になっているため、お客さんも何も存在しない。
 ……居たなら男同様にこの世界ではない何処かへ飛ばしていたので、救われたな。

 中に居た気配たちは、俺たちの存在には気づいていなかったものの、魔道具が解除される音で目が覚めていたようだ。

 全員がすでに覚醒しており、体を震わせて奥の方に集まっている。


「……いつもの方ではありませんね。貴男はいったい……」


 そんな中、一人の勇敢な少女が他の者たちに意識が向かないよう、前へ進み出て俺に話しかけてくる。
 凄い度胸だな、現実リアルの俺だったらずっと後ろで隠れているだろうに。

 少し薄暗い部屋の中でも視界に映る銀色の髪、気丈な顔立ちをした普人の少女はどんな相手かも分からない紅の瞳を持つ男を相手取り、仲間を庇おうとしているのだ。

 ──うん、偽善決定だろう。


「まずは挨拶といこうか。私は吸血鬼ヴァンパイア、名を伝えては弱点を言うようなもの。とりあえずは吸血鬼と呼ぶがよい」

「……吸血鬼がいったい、なぜここへ?」

「決まっているだろう? ここは非合法な奴隷たちを売るための施設、つまり貴様らのことで合っているな?」

「ッ──! 私たちは、奴隷なんかじゃありません!」


 おっと、奥の方に居る何人かを怯えさせてしまったか。

 少女はそれをフォローするように叫ぶと、武器を持たないその身で拳を構えて他の者たちを守るように警戒を行う。


「そうか、奴隷ではないのか……だが関係のないことだ。元よりこの身、他者の血が無ければ生きることもままならぬ。そしてこの場には、多くの生娘が居る……ならば吸血鬼が何をするのか、もう分かるであろう?」

「……吸うのですか、血を」

「その通り、君たちに救いはない。いや、そもそも救われないからここに居るのか。二つ選択肢を与えてやろう、その中からどちらがよいか自分たちで選べ」


 少女は少し驚いたようだ。
 こういう輩って、だいたい問答無用で何かしらの行動をするもんな。

 だが俺は偽善者──ある程度相手に配慮したうえで、受け入れがたいことをする。


「一つ、一定量の血を献上したうえでこの場から立ち去る。君たちは多様な種族で構成されている故、価値は高い。特別にそれで解放してやってもいい──懸念しているその首輪もついでに外してやろう」

「……二つめは?」

「気丈だけでは振る舞うだけでは何も救えぬぞ、普人の少女よ。二つ目は至ってシンプルな話──私の配下となり力を得たうえで、この私から逃げるために足掻くというものだ」


 さて、どっちを選ぶかな?


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