1,225 / 2,518
偽善者と暗躍の日々 十八月目
偽善者と吸血潜伏 その06
しおりを挟む展開された魔法陣は、少しずつ狭まり俺の四肢を拘束するように展開された。
軽く力を加えてもビクともせず、逆に拘束力が強まっている気がする。
「はっ、はははっ、バカめ……バカめバカめバカめぇぇぇ! お前のような輩がこれまでどれだけ居たと思ってやがる! その度、ここで終わりを迎えてたんだよ!」
「……どういうことだ? 今この拘束を解くのであれば、寛大な処置をしてやろう」
「はぁ、何を言ってやがる? 下等な蝙蝠はここで死ぬんだよ、顔はそれなりにいいみたいだが性格が悪い。おまけに吸血鬼は日中に使いづらいから価値が低い! なんて価値のねぇゴミなんだよ……このクソ蝙蝠!」
「ッ!」
状況が逆転した瞬間、高笑いしながら俺に蹴りを入れる商人の男。
だがまあ、ここが地下で何を売っているのかを理解していただけただろう?
「居るんだよなぁ、テメェみたいなアホは定期的に。仲間を解放しろだの、奴隷を献上しろだのと……下等種族がこの普人様をなんだと思ってやがる!」
「…………」
「おう、だんまりか? 混ざり者どもは俺たち普人によって使われるのが当たり前ってものだろ? 精々感謝しろ、この俺によってお前は灰になるんだよ!」
「……ハァ、バカもここまで達すれば一種の才能であるか」
まあ、傲り高ぶる滑稽な男としては、それなりに高評価な振る舞いである。
ぜひ演技に採用したい……が、今は別の問題なのでご招待だけすることにして、さっさと終わらせることにした。
──魔法陣を力づくで破壊したのだ。
「さて、灰になるんだったな?」
「……な、なんでだ。なんで封印結界が壊れるんだよ!」
「何を言っている。あの程度の拘束、子供がしがみついてくるようなものだろう。あまりに稚拙な術式ゆえ、少々可愛げがあり解くか悩んだものだが……君の言葉で決意が固まった。お礼を言わねばならぬな」
「ひ、ひぃいいいぃいいいいい!」
吸血鬼の魅了の魔眼、そして特に意味は無いが精霊眼を発動させた状態で男の目をジッと見つめる。
精霊使いではないうえ、特に精霊に好かれているわけでもないので誰もいないな。
片目分の魅了の魔眼なので、たしかにあまり深い魅了効果は発揮できない。
だがそれは、短期間ならばの話……時間さえかければ片目だけでも充分だ。
ゆっくりと魅了の力にズブズブと嵌り、一時的に俺の言うことをなんでも聞く人形状態となった男。
先ほどまでとそもそもの深度が違うので、質問にはあっさりと答える。
「この仕掛けはなんだ?」
「──愚かな侵入者を捕縛するためのモノです。登録した魔力反応ではない者すべてを拘束し、弱体化させます」
「発動条件は?」
「すべての魔道具を解除した時、またそれ以前に触れようとした時。他にも特定の順番で魔道具を解除しなかった時も該当します」
ずいぶんと疑り深い魔道具だな。
この世界では高度とされる識別システムを信用しておらず、ほぼ確実に侵入者をこの場で捕縛することができる。
俺だったらそうだな……“記憶掌”でその情報を知ったうえで、男の魔力を完全再現して開錠すればどうにかなるか。
◆ □ ◆ □ ◆
改めて、扉の中へ侵入する。
草木が眠った丑三つ時になっているため、お客さんも何も存在しない。
……居たなら男同様にこの世界ではない何処かへ飛ばしていたので、救われたな。
中に居た気配たちは、俺たちの存在には気づいていなかったものの、魔道具が解除される音で目が覚めていたようだ。
全員がすでに覚醒しており、体を震わせて奥の方に集まっている。
「……いつもの方ではありませんね。貴男はいったい……」
そんな中、一人の勇敢な少女が他の者たちに意識が向かないよう、前へ進み出て俺に話しかけてくる。
凄い度胸だな、現実の俺だったらずっと後ろで隠れているだろうに。
少し薄暗い部屋の中でも視界に映る銀色の髪、気丈な顔立ちをした普人の少女はどんな相手かも分からない紅の瞳を持つ男を相手取り、仲間を庇おうとしているのだ。
──うん、偽善決定だろう。
「まずは挨拶といこうか。私は吸血鬼、名を伝えては弱点を言うようなもの。とりあえずは吸血鬼と呼ぶがよい」
「……吸血鬼がいったい、なぜここへ?」
「決まっているだろう? ここは非合法な奴隷たちを売るための施設、つまり貴様らのことで合っているな?」
「ッ──! 私たちは、奴隷なんかじゃありません!」
おっと、奥の方に居る何人かを怯えさせてしまったか。
少女はそれをフォローするように叫ぶと、武器を持たないその身で拳を構えて他の者たちを守るように警戒を行う。
「そうか、奴隷ではないのか……だが関係のないことだ。元よりこの身、他者の血が無ければ生きることもままならぬ。そしてこの場には、多くの生娘が居る……ならば吸血鬼が何をするのか、もう分かるであろう?」
「……吸うのですか、血を」
「その通り、君たちに救いはない。いや、そもそも救われないからここに居るのか。二つ選択肢を与えてやろう、その中からどちらがよいか自分たちで選べ」
少女は少し驚いたようだ。
こういう輩って、だいたい問答無用で何かしらの行動をするもんな。
だが俺は偽善者──ある程度相手に配慮したうえで、受け入れがたいことをする。
「一つ、一定量の血を献上したうえでこの場から立ち去る。君たちは多様な種族で構成されている故、価値は高い。特別にそれで解放してやってもいい──懸念しているその首輪もついでに外してやろう」
「……二つめは?」
「気丈だけでは振る舞うだけでは何も救えぬぞ、普人の少女よ。二つ目は至ってシンプルな話──私の配下となり力を得たうえで、この私から逃げるために足掻くというものだ」
さて、どっちを選ぶかな?
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
採取はゲームの基本です!! ~採取道具でだって戦えます~
一色 遥
SF
スキル制VRMMORPG<Life Game>
それは自らの行動が、スキルとして反映されるゲーム。
そこに初めてログインした少年アキは……、少女になっていた!?
路地裏で精霊シルフと出会い、とある事から生産職への道を歩き始める。
ゲームで出会った仲間たちと冒険に出たり、お家でアイテムをグツグツ煮込んだり。
そんなアキのプレイは、ちょっと人と違うみたいで……?
-------------------------------------
※当作品は小説家になろう・カクヨムで先行掲載しております。
クラス転移で裏切られた「無」職の俺は世界を変える
ジャック
ファンタジー
私立三界高校2年3組において司馬は孤立する。このクラスにおいて王角龍騎というリーダーシップのあるイケメンと学園2大美女と呼ばれる住野桜と清水桃花が居るクラスであった。司馬に唯一話しかけるのが桜であり、クラスはそれを疎ましく思っていた。そんなある日クラスが異世界のラクル帝国へ転生してしまう。勇者、賢者、聖女、剣聖、など強い職業がクラスで選ばれる中司馬は無であり、属性も無であった。1人弱い中帝国で過ごす。そんなある日、八大ダンジョンと呼ばれるラギルダンジョンに挑む。そこで、帝国となかまに裏切りを受け─
これは、全てに絶望したこの世界で唯一の「無」職の少年がどん底からはい上がり、世界を変えるまでの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
カクヨム様、小説家になろう様にも連載させてもらっています。
あっさりと初恋が破れた俺、神からのギフトで倒して殺して奪う
Gai
ファンタジー
男の子は幼いながらに知ってしまった。
女の子が男の子を好きになる要因は顔なのだと。
初恋が敗れたと知った四歳のティール。
父に、母に、兄に慰めて貰ったが、直ぐに傷が癒えることは無かった。
だが、五歳になった翌日、ティールは神からのギフトを得た。
神からのギフト、それは誰しもが与えられる神からの恩恵では無く、限られた者のみしか得られないスキル。
後天的に習得出来るスキルであっても、内容は先天的に得たスキルの方が強い。
そしてティールが得たスキルは強奪≪スナッチ≫ そして知性。
この二つのスキルを得たティールの思考が、考えが、未来が一変する。
「そうだ、初恋に敗れたからなんだ。そんな消し飛ぶくらい人生を楽しんでやる!!!」
さて、ティールはその知性で何を考え、奪取≪スナッチ≫で何を奪うのか
転移先は薬師が少ない世界でした
饕餮
ファンタジー
★この作品は書籍化及びコミカライズしています。
神様のせいでこの世界に落ちてきてしまった私は、いろいろと話し合ったりしてこの世界に馴染むような格好と知識を授かり、危ないからと神様が目的地の手前まで送ってくれた。
職業は【薬師】。私がハーブなどの知識が多少あったことと、その世界と地球の名前が一緒だったこと、もともと数が少ないことから、職業は【薬師】にしてくれたらしい。
神様にもらったものを握り締め、ドキドキしながらも国境を無事に越え、街でひと悶着あったから買い物だけしてその街を出た。
街道を歩いている途中で、魔神族が治める国の王都に帰るという魔神族の騎士と出会い、それが縁で、王都に住むようになる。
薬を作ったり、ダンジョンに潜ったり、トラブルに巻き込まれたり、冒険者と仲良くなったりしながら、秘密があってそれを話せないヒロインと、ヒロインに一目惚れした騎士の恋愛話がたまーに入る、転移(転生)したヒロインのお話。
【完結】Atlantis World Online-定年から始めるVRMMO-
双葉 鳴|◉〻◉)
SF
Atlantis World Online。
そこは古代文明の後にできたファンタジー世界。
プレイヤーは古代文明の末裔を名乗るNPCと交友を測り、歴史に隠された謎を解き明かす使命を持っていた。
しかし多くのプレイヤーは目先のモンスター討伐に明け暮れ、謎は置き去りにされていた。
主人公、笹井裕次郎は定年を迎えたばかりのお爺ちゃん。
孫に誘われて参加したそのゲームで幼少時に嗜んだコミックの主人公を投影し、アキカゼ・ハヤテとして活動する。
その常識にとらわれない発想力、謎の行動力を遺憾なく発揮し、多くの先行プレイヤーが見落とした謎をバンバンと発掘していった。
多くのプレイヤー達に賞賛され、やがて有名プレイヤーとしてその知名度を上げていくことになる。
「|◉〻◉)有名は有名でも地雷という意味では?」
「君にだけは言われたくなかった」
ヘンテコで奇抜なプレイヤー、NPC多数!
圧倒的〝ほのぼの〟で送るMMO活劇、ここに開幕。
===========目録======================
1章:お爺ちゃんとVR 【1〜57話】
2章:お爺ちゃんとクラン 【58〜108話】
3章:お爺ちゃんと古代の導き【109〜238話】
4章:お爺ちゃんと生配信 【239話〜355話】
5章:お爺ちゃんと聖魔大戦 【356話〜497話】
====================================
2020.03.21_掲載
2020.05.24_100話達成
2020.09.29_200話達成
2021.02.19_300話達成
2021.11.05_400話達成
2022.06.25_完結!
【書籍化決定】神様お願い!〜神様のトバッチリを受けた定年おっさんは異世界に転生して心穏やかにスローライフを送りたい〜
きのこのこ
ファンタジー
突然白い発光体の強い光を浴びせられ異世界転移?した俺事、石原那由多(55)は安住の地を求めて異世界を冒険する…?
え?謎の子供の体?謎の都市?魔法?剣?魔獣??何それ美味しいの??
俺は心穏やかに過ごしたいだけなんだ!
____________________________________________
突然謎の白い発光体の強い光を浴びせられ強制的に魂だけで異世界転移した石原那由多(55)は、よちよち捨て子幼児の身体に入っちゃった!
那由多は左眼に居座っている神様のカケラのツクヨミを頼りに異世界で生きていく。
しかし左眼の相棒、ツクヨミの暴走を阻止できず、チート?な棲家を得て、チート?能力を次々開花させ異世界をイージーモードで過ごす那由多。「こいつ《ツクヨミ》は勝手に俺の記憶を見るプライバシークラッシャーな奴なんだ!」
そんな異世界は優しさで満ち溢れていた(え?本当に?)
呪われてもっふもふになっちゃったママン(産みの親)と御親戚一行様(やっとこ呪いがどうにか出来そう?!)に、異世界のめくるめくグルメ(やっと片鱗が見えて作者も安心)でも突然真夜中に食べたくなっちゃう日本食も完全完備(どこに?!)!異世界日本発福利厚生は完璧(ばっちり)です!(うまい話ほど裏がある!)
謎のアイテム御朱印帳を胸に(え?)今日も平穏?無事に那由多は異世界で日々を暮らします。
※一つの目的にどんどん事を突っ込むのでスローな展開が大丈夫な方向けです。
※他サイト先行にて配信してますが、他サイトと気が付かない程度に微妙に変えてます。
※昭和〜平成の頭ら辺のアレコレ入ってます。わかる方だけアハ体験⭐︎
⭐︎第16回ファンタジー小説大賞にて奨励賞受賞を頂きました!読んで投票して下さった読者様、並びに選考してくださったスタッフ様に御礼申し上げますm(_ _)m今後とも宜しくお願い致します。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる