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偽善者と暗躍の日々 十八月目

偽善者と吸血潜伏 その04

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 シャルが来たのも何かの縁、ということで片方の瞳を精霊眼にしておいた。
 魔力に俺の意思を添えて提供すれば、賢い精霊は身振り手振りで答えを教えようとしてくれる……それを視て情報を集めるのだ。

 シャルとのデート中、本人にその旨を伝えたうえでそんなこともやっていた。
 傍から見れば奇行に走る厨二病と、とても可愛い赤ずきんコスプレの少女なので……そこまでダメージは来ないと思う。

 そうして情報を収集していたのだが、いくつか面白い情報が手に入った。

 ……ちなみにだが、耳年増な精霊が知っていたベストデートスポットなども、本当に役立つ情報だったとだけ記しておく。


「──ここ、かな?」


 精霊が騒めき教えてくれたとある建物。
 一度目はシャルが居たので座標を覚えるだけに留めていたが、今回は守らなければならないモノがいないので堂々と侵入する。


「侵入ならこれか──“霧化”」


 体を構成する物質が魔力によって細胞レベルで書き換わり、その存在は細やかな黒色の霧のようなモノと化す。

 制御できない者が使えば、核の周囲を霧が漂うだけだが──俺は違う。


(何せ、<千思万考>があるんだからな)


 三十七兆だか六十兆、なんて数はさすがに無理だが……大きさを調整すれば、スキルの名が示す通り千や万ならどうにかできる。

 行動はだいぶ単調になってしまうが、マッピングぐらいならきっとやれるだろう。


(さて、核持ちの俺もそろそろ行くか)


 発動した瞬間、霧の大半はこの場から建物内へ移動している。
 広さは大型のスーパー程度、予め把握した限りでは上下含めて三階建てだ。

 そして上と下はかなり巧妙に封鎖がされているため、一般の人々が立ち入ることは絶対と言っていいほどにできない。


「……よいしょ、侵入成功」


 入口の時点で、魔道具でしか開けられない結界タイプの鍵が存在したが……少しでも隙間があれば侵入できるのであっさりと入ることに成功した。

 頭の中で随時更新されているマップを参考にして、歩を進める。

 表側で販売する商品──スーパーと挙げたように多様な種類の品々が陳列されている様子を見ながら、まず上層への階段へ向かう。


「いちおうスタッフが通るから、そこまで厳重じゃないのか……開けてくれ」


 俺がそう告げると、すでに侵入に成功していた霧が反対側から鍵を開けてくれる。
 創作物において、霧が物質化して攻撃するようなパターンが多々あるように……手の形状にして開錠させたのだ。

 上層用の扉は、あくまで普通の鍵があれば開けられるようになっていた。

 それはこの先に在庫が置かれており、店員がいつでも取りに行けるようにするためだったのだろう。


「上は……執務室か? わざわざ上に置いたのは、脱出までの時間を稼ぐためか」


 緊急脱出用の空間属性の魔道具が在る。
 今は俺の霧の一部が干渉し、使えなくしてはいるけど。

 それでも上へ向かおうとする侵入者に気づいた時、すぐに必要なモノを持ってこの場を去ることができたのだろう。

 警報の魔道具がいくつかセットされているし、この時間はちゃんと起動している。


「けどまあ、夜の王たる吸血鬼ヴァンパイアにそのような玩具オモチャは無駄であるがな」


 体温はとても低く、音を立てず歩くことができる。

 夜目が効くし、おまけにほんの小さな隙間さえ空いていればどんな所からでも侵入できる……天性のスパイ気質だった。


「? ああ、人が居るのか」


 上層──二階には誰も居ないと思っていたのだが、どうやらそうでもないらしい。
 血を求める吸血鬼の敏感な嗅覚が、獲物がどこにいるかを俺に告げている。

 数は一、性別は男、年は四十から五十の間くらい……さすがに飲みたいとは思わない。
 吸血鬼になっている間は、血のソムリエみたいなことができるが、男の──しかもおっさんの血を吸いたくはないだろう。

 先達たるフィレル曰く、血は体調や日常の食事の他にも、魔力量や質、濃度なども味に関係してくるらしい。

 あと、性別や卒業しているかどうかなども大きく味を変えるみたいだ。


「片目だけなら、ちょうどいいぐらいの威力になるか? やってみるか──“影化”」


 発動前に一度霧をすべて体に戻し、肉体を構築してからそれを使う。
 再び体の形を失った俺は、暗い闇の世界にポツンと立つ。

 夜目を凝らし、光源に似たナニカに向けて歩を進める──そして、そこへ辿り着くと同時に精霊眼にしていなかった瞳に魔力を籠めてソレを軽く睨む。


「ッ!?」

「いきなり成功するのか……てっきり状態異常用の魔道具をわんさか身に着けているモノだと思っていたんだけどな」

「~~ッ!」

「魅了の魔眼だ。ただ、半分しか使っていないから心酔はしていない。ちゃんと意思は保てているのに、なぜか私の質問に答えずにはいられない……なんと苦行であろうか。だがすまない、私には魔眼が片目しかないのだ」


 いつも通り、適当な口調で座っていた男に語りかける。
 俺を睨むその視線はとても濁っており、どうして自分がこんなことになっているという当然の疑問を抱いていた。


「だが安心したまえ! 私は君の名を呼ばないでおこう。これからも、君には頑張ってもらいたいからね──ああ、ついでに口だけは動かせるようにしておこう。もちろん、自害はできないがね」

「……貴様、吸血鬼ヴァンパイアか」

「その通りである、普人族フーマンの男よ。わざわざ生かしておいた理由も、すでに分かっているだろう? 君が私のために用意してくれた血袋──そのすべてを受け取りに来たぞ」


 鋭くなった犬歯を剥き出しにして、男を嘲うかのようにそう告げた。


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