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偽善者と暗躍の日々 十八月目
偽善者と吸血潜伏 その03
しおりを挟むお土産などを買ったりして、商業地区を練り歩いていく。
精霊たちにもあげられる品を探していたのだが、やはり一括りに精霊といっても千差万別……欲しがる物も異なっていた。
八割方の精霊は甘い物を要求してくるが、その中でも砂糖の甘みと餡子の甘み、という感じで『好き』が異なっていた。
残りの二割は別の辛い、苦い、渋い、酸っぱいなどを好みとする精霊だ。
「よかったですね、シャルちゃん」
「うん! また来たいね」
「はい、そのときは二人っきりでの買い物を楽しみましょう」
「! そ、そうだよね……うん、またってことは、──できるよね」
今回は精霊たちが常時顕在し、どの味が他の精霊たちに合うかを我先にと競い合っていたからな……騒がしいという一言で何があったのかを纏められるよ。
なので二度目があるなら、精霊たちは居て良いからせめて大人しくしていてほしい。
決して二人だけ、というのは難しいだろうが……それでも、一度だけならと思わせるのがシャルの魅力なのかもしれないな。
「さて、商業区の通りをまず全部通ってみましたが……この先はどうされますか?」
「どう、と言われても……ワタシはメル君とお散歩するだけでも楽しいかな?」
「そうですか……では、そうしましょう。何かお話でもしながら、いっしょに」
「あっ……う、うん」
手を繋ごうと触れたが、一度やったことだからかあまり抵抗してこない。
それどころか、顔を真っ赤にしながら指を絡ませようと無意識にモジモジとしている様子がとても可愛らしく思える。
──なのでここは男として、俺の方から指先を絡めながら話を始めた。
「シャルちゃん、シャルちゃんは家族のみんなが大好きですか?」
「うん、好き。大好きだよ」
「ボクもです。家族が、眷属が、国民が、ボクを慕ってくれる人みんなが大好きです。特に眷属は特別です。ボクの家族はこの世界に居ませんし、ボクにとってこの世界の家族は眷属です」
「……どういうこと?」
話を難しくしてしまったか。
完全に絡まった指を少しだけ強く握り、再び話を行う。
「この世界に来て、ボクと家族の繋がりは断たれました。今の自分がどうなっているか分かりませんが、家族に迷惑を掛けてしまったことでしょう」
「メル君……」
「大まかな事情は知っての通りです。ただ、ボクはそれでも無理にここから出て、家族に会いたいとは思いません」
心配そうなシャルだが、瞳はジッとこちらの方を見ている。
俺から強く握っていた指も、しっかりと握り返してくれていた。
「ボクは家族が欲しかった。だから、眷属を生みだすスキルを手に入れた。始まりの関係はともかく、ずっといっしょに居てくれるような存在が欲しかったから。そして……君たちは本当にいっしょに居てくれた」
「…………」
「いつも目を覚ませば誰も居ない部屋。家の中を彷徨っても物音一つしない。けど、この世界はそんなことない……誰かが声を掛けてくれて、みんなが笑っている。夢なんかじゃない、家族が居るんだって実感できた」
「メル君……」
どうにも湿っぽくなってしまったせいか、シャルが少し悲しそうだ。
……本当、俺には話のセンスが無いよな。
「──メル君、一つ言っていいかな?」
「はい、なんでも言ってください」
「メル君……は、どうして帰らないの? ううん、どうして帰ろうとしないの? メル君なら、やろうと思えばできるんだよね?」
「リオンに言われました、ログアウトしたら二度と戻ってこれないかもしれないって。だから、そう簡単には決められません。幸い、この世界は時間の流れが速い。ゆっくり決めても問題ないでしょう」
とは言っても、数十年単位で暮らしていれば支障も出るだろうけど。
だが、そこまでの話ではない──そろそろ方向性を変えるか。
「それに、帰っても父と母は居ません──ラブラブ旅行中ですので」
「…………うん、そうらしいね」
「子供を置いて旅行に行く親もどうかと思いますが、それを肯定したのはボクです。実際その血を継いだボクも、こうして可愛い女の子とデートしていますし」
ボフッと顔が真っ赤になるシャル。
精霊たちが辺りに涼しい風を送ってくれているので、すぐにクールダウンするだろう。
そう、俺の両親は俺が学生になっても愛が新婚の頃と変わっていないため、絶賛旅行中である……反抗期か思春期だった疑惑がある当時の俺は、居なくなることを精々としていたんだっけ?
「けど、そんな親だったからこそ、ボクは家族が欲しかった。だけど、ボクはとっても欲深い人族で……満足できなかった。だから、求めたんですよ──理想の家族を」
「それが……眷属なの?」
「はい。もっとも、主としての力なんて何もありませんけど。名目上の主であるボクは、何も命令しません。ただ、眷属になってくれたみんなにボクのすべてを差し出したい……それだけです」
誰かに頼られたい、誰かの役に立ちたい。
そんな風に願い、また【強欲】な独占欲が生みだした俺という人間の本質──それこそが[眷軍強化]なのだ。
「──どうやらここがゴールみたいですね」
「め、メル君……」
初期兼終着地点まで辿り着いていた。
ガッチリと握られていた手を解き、お別れする……と考えていたが、もう片方の手を使いそれを拒むシャル。
「わ、ワタシは、救われたよ! メル君が助けてくれた、何も起きていなかったって……思える今があるんだよ」
「……シャルちゃん」
「眷属になったのだって、メル君が言ってきたからじゃない。ワタシだって、メル君の役に立ちたいんだから。すべてを差し出したいのは、メル君だけじゃない」
「そ、それって……」
間が空く──そして爆発する。
再び思考停止状態になったシャルは、自分が何を言ったのかを理解してしまう。
「あ、あわわわ……」
「……ぷっ、はははははは! ありがとうございます、シャルちゃん。お蔭でなんだか楽しくなってきました!」
「こ、このタイミングで!?」
「はい、ですからこれは──そのお礼です」
未だに離してもらえない手を掴み、そっとキスをする。
少々恥ずかしいが、少なくともシャルよりはマシだろう。
「~~~ッ!?」
「では、また後日に」
「あ、う、え、あ……」
混乱中のシャルを送還し、一息吐く。
なんだかいろいろとあったな……。
「さて、夜のミッション開始だ」
ただ、その前に気分を落ち着かせないと。
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