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偽善者と暗躍の日々 十八月目
偽善者と吸血潜伏 その02
しおりを挟む女の子が喜びそうな場所、というものをすでに俺は把握している……他ならぬ女の子たちによって、案内をされたことがあるからであるが。
帝国は複雑怪奇に道が入り組んでおるが、大道路と呼ばれる道だけを通るのであればとても簡単に分けることができる。
商業区、学習区、居住区、貴族区……このように大道路は区画と繋がっているからだ。
「──そしてここが、商業区ですよ」
「ひ、人がいっぱいだよ……」
「逸れないように……どうしましょう?」
「それなら精霊たちに…………じゃなくて、手、手を繋ごうよ!」
自分で考えたアイデアを撤廃し、即座に第二案を提示してきた。
一瞬、出番かと思った精霊たちだが、そうじゃないと言われるとがっかりし、なぜか第二案で狂喜乱舞している……不思議だ。
「宜しいのですか? 今のボクは騎士……でもなく吸血鬼なだけの子供ですが?」
「問題ないよ。メル君はメル君だし、だからなの」
「そういうことでしたら……」
おずおずと手を伸ばし、気持ち悪いと思われないかドキドキしながら手を握る。
手汗は“清浄”で拭ったはずだが、それでもこの行為そのものに緊張しているので、心臓が激しく鼓動を刻み汗ばんでいた。
ただ、それらは{感情}によって何らかの処理が行われ、傍から見れば俺はとても冷静にしているように見えるかもしれない。
緊張は感情では無いため、ただその現象だけが体に残ってしまっているのだ。
「あの……痛かったり、汗ばんではいないでしょうか?」
「へっ? そ、そんなことないよ──いつも通り、メル君は変わってない」
「そう、でしょうか?」
「うん。いつも頼れるワタシの騎士様、だけどちょっと抜けていてこっちからも何かしてあげたくなる……そんな感じだよ」
ニコッと朗らかな笑みを浮かべる彼女は、もう片方の手で俺の手を包み込む。
女の子の手、それは男の手よりも小さいはずなのに──そのことを思わせないとても大きな包容感を感じさせる。
「だ、だから、その……これからも、よろしくね? ワタシ、頑張るから!」
「シャル、ちゃん……」
「メル君……」
『ゴホンッ!』
ハッとし、周囲を見渡すと──さまざまな人種の者たちから同じ視線……何見せつけてくれてんだよ、という殺意の視線が俺に放たれていた。
同じくシャルの方には、同性の方々からとても初々しい彼女の行動を我がことのように喜ぶ好機の視線が……今の彼女にとって、それがどういう風に思われるのか、それはまた別の話だが。
「め、メル君! は、早く行こうか!」
「そ、そうですね」
「「失礼しましたー!」」
周囲の感情を読み取っていたせいか、隣にいたうえにいるシャルの感情──羞恥を強く感じ取ってしまった。
そのためそれが一時的に同期され、本来の俺が感じていた恥ずかしさから、共にこの場から逃げることを選んだ。
魔法の使用は禁止されているが、身体強化程度であれば許される。
俺は循環で、シャルは精霊たちのお節介でそれを行うことでマンガのような走り去りを行うことができた。
立ち止まったのは、ちょうど目的地の近くに着いた頃である。
シャルの息が少々荒いため、近くのベンチに座らせて飲み物を用意することに。
吸血鬼と言えばな“血溜袋”を発動し、そこから取りだすのは赤色の液体。
それをグラスの中へ注いでいくと、サッとシャルの前に差しだす。
「さぁ、シャルちゃん──お飲みください」
「えっ、でもこれ……」
「──お飲みください」
「う、うん……ありがとう」
素直に受け取ったシャルは、ええいままよとグラスの縁に口を着ける──嚥下する。
ほぉ、と息を吐くその様子を見て、俺は満足気な笑みを浮かべた。
「美味しいね、これ」
「ユラルとリアの合作である植物の蜜を使っています。とても甘いけど、甘すぎるとは思わない絶妙な甘み。それに果物を混ぜて、程良い酸味を加えてみました」
「あの二人って、そんな凄い事をしていたんだ……」
「そうですね。自分から何かをやっていた、それだけでも充分な進歩です」
片や樹を司る聖霊、片や引き籠もり。
……箔としては片方それっぽいが、もう片方って、もう植物の『しょ』の字も無いな。
「……どういうこと?」
「詳細は二人、というか眷属それぞれに訊いていただきたいのですが……誰も彼もが面倒事に巻き込まれていましたので。事情はだいたいシャルちゃんと似たり寄ったりです」
「た、たしか、そんなことを言ってくれた人もいたけど……み、みんな殺されたの?」
「殺されたのは一人、殺されかけたのが大半ですね。ちなみにボクはなんやかんや、けんぞくのほぼ全員と戦ってますね」
せっかくの二人っきりではあるが、残念なことに俺には会話力なんてものは無い。
話を続けるにも思い出を言うことしかできないし、そこには必ずといっていいほどに眷属が関係している。
「さて、そろそろ買い物に向かいましょう。目的地まであと少しですし」
「あっ、うん……行こう、メル君」
「はい」
ただまあ、何かいい話がないか考えておこうか……タイムリミットは、シャルの買い物が終わるまでだ。
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