上 下
1,221 / 2,518
偽善者と暗躍の日々 十八月目

偽善者と吸血潜伏 その02

しおりを挟む


 女の子が喜びそうな場所、というものをすでに俺は把握している……他ならぬ女の子たちによって、案内をされたことがあるからであるが。

 帝国は複雑怪奇に道が入り組んでおるが、大道路と呼ばれる道だけを通るのであればとても簡単に分けることができる。

 商業区、学習区、居住区、貴族区……このように大道路は区画と繋がっているからだ。


「──そしてここが、商業区ですよ」

「ひ、人がいっぱいだよ……」

「逸れないように……どうしましょう?」

「それなら精霊たちに…………じゃなくて、手、手を繋ごうよ!」


 自分で考えたアイデアを撤廃し、即座に第二案を提示してきた。

 一瞬、出番かと思った精霊たちだが、そうじゃないと言われるとがっかりし、なぜか第二案で狂喜乱舞している……不思議だ。


「宜しいのですか? 今のボクは騎士……でもなく吸血鬼なだけの子供ですが?」

「問題ないよ。メル君はメル君だし、だからなの」

「そういうことでしたら……」


 おずおずと手を伸ばし、気持ち悪いと思われないかドキドキしながら手を握る。
 手汗は“清浄クリーン”で拭ったはずだが、それでもこの行為そのものに緊張しているので、心臓が激しく鼓動を刻み汗ばんでいた。

 ただ、それらは{感情}によって何らかの処理が行われ、傍から見れば俺はとても冷静にしているように見えるかもしれない。

 緊張は感情では無いため、ただその現象だけが体に残ってしまっているのだ。


「あの……痛かったり、汗ばんではいないでしょうか?」

「へっ? そ、そんなことないよ──いつも通り、メル君は変わってない」

「そう、でしょうか?」

「うん。いつも頼れるワタシの騎士様、だけどちょっと抜けていてこっちからも何かしてあげたくなる……そんな感じだよ」


 ニコッと朗らかな笑みを浮かべる彼女は、もう片方の手で俺の手を包み込む。

 女の子の手、それは男の手よりも小さいはずなのに──そのことを思わせないとても大きな包容感を感じさせる。


「だ、だから、その……これからも、よろしくね? ワタシ、頑張るから!」

「シャル、ちゃん……」

「メル君……」

『ゴホンッ!』


 ハッとし、周囲を見渡すと──さまざまな人種の者たちから同じ視線……何見せつけてくれてんだよ、という殺意の視線が俺に放たれていた。

 同じくシャルの方には、同性の方々からとても初々しい彼女の行動を我がことのように喜ぶ好機の視線が……今の彼女にとって、それがどういう風に思われるのか、それはまた別の話だが。


「め、メル君! は、早く行こうか!」

「そ、そうですね」

「「失礼しましたー!」」


 周囲の感情を読み取っていたせいか、隣にいたうえにいるシャルの感情──羞恥を強く感じ取ってしまった。
 そのためそれが一時的に同期され、本来の俺が感じていた恥ずかしさから、共にこの場から逃げることを選んだ。

 魔法の使用は禁止されているが、身体強化程度であれば許される。
 俺は循環で、シャルは精霊たちのお節介でそれを行うことでマンガのような走り去りを行うことができた。



 立ち止まったのは、ちょうど目的地の近くに着いた頃である。
 シャルの息が少々荒いため、近くのベンチに座らせて飲み物を用意することに。

 吸血鬼と言えばな“血溜袋ブラッドポーチ”を発動し、そこから取りだすのは赤色の液体。
 それをグラスの中へ注いでいくと、サッとシャルの前に差しだす。


「さぁ、シャルちゃん──お飲みください」

「えっ、でもこれ……」

「──お飲みください」

「う、うん……ありがとう」


 素直に受け取ったシャルは、ええいままよとグラスの縁に口を着ける──嚥下する。
 ほぉ、と息を吐くその様子を見て、俺は満足気な笑みを浮かべた。


「美味しいね、これ」

「ユラルとリアの合作である植物の蜜を使っています。とても甘いけど、甘すぎるとは思わない絶妙な甘み。それに果物を混ぜて、程良い酸味を加えてみました」

「あの二人って、そんな凄い事をしていたんだ……」

「そうですね。自分から何かをやっていた、それだけでも充分な進歩です」


 片や樹を司る聖霊、片や引き籠もり。
 ……箔としては片方それっぽいが、もう片方って、もう植物の『しょ』の字も無いな。


「……どういうこと?」

「詳細は二人、というか眷属それぞれに訊いていただきたいのですが……誰も彼もが面倒事に巻き込まれていましたので。事情はだいたいシャルちゃんと似たり寄ったりです」

「た、たしか、そんなことを言ってくれた人もいたけど……み、みんな殺されたの?」

「殺されたのは一人、殺されかけたのが大半ですね。ちなみにボクはなんやかんや、けんぞくのほぼ全員と戦ってますね」


 せっかくの二人っきりではあるが、残念なことに俺には会話力なんてものは無い。

 話を続けるにも思い出を言うことしかできないし、そこには必ずといっていいほどに眷属が関係している。


「さて、そろそろ買い物に向かいましょう。目的地まであと少しですし」

「あっ、うん……行こう、メル君」

「はい」


 ただまあ、何かいい話がないか考えておこうか……タイムリミットは、シャルの買い物が終わるまでだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺と異世界とチャットアプリ

山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。 右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。 頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。 レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。 絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...