1,220 / 2,518
偽善者と暗躍の日々 十八月目
偽善者と吸血潜伏 その01
しおりを挟むヴァナキシュ帝国
真昼間から活動を始めた。
前回同様匂いに釣られ、大人気の屋台に並び商品を購入する。
「久しぶりだな」
「あ、あんたは……イメチェンか?」
「転生したようなものだ。それより、卵に付けて紅生姜マシマシで」
「わ、分かった。卵の例もあるし、代金は要らねぇからな」
種族を変えてここに居るのだが、焼きそば屋の店主には存在偽装を応用して強制的に俺のことを『メルス』だと認識させている。
なのでどれだけ容姿が違っていようと、なぜかそれを俺として認識できたのだ。
料理スキルの効果ですぐに仕上げてくれた焼きそばを受け取り、この場を去る。
……代金は【強欲】の応用で強引に払っておいたので、あとで混乱してくれるだろう。
「前回は真っ先に裏に行ったから、今回は普通に表側を体験していようか」
闇に嵌っていったら、なぜかヤクザ一家の主になってしまうような場所だからな。
そもそも帝国は表であろうと奴隷を売っているような場所なので、偽善自体はどちらであろうと行えるだろう。
「話し相手……“召喚・眷属”」
とりあえず、召喚してみることに。
眷属云々の事柄はあらゆる縛りを超越することなので、白い方の魔本を使えばいろいろと気にならない。
「──あれ、ここは?」
「ここは『自由世界』にあるヴァナキシュ帝国という場所だ。なんとなくで応じたんだと思うが……帰るか?」
そして、魔法陣の中から赤い頭巾を被った少女が現れる。
魔本世界の主人公には、納得してもらったうえで眷属になってもらっている……因果を断ち切るのにもっとも手っ取り早いからな。
「メルスさん……ですよね? えっと、その姿はいったい……」
「今はこっちにしておくか──変身っと」
変身魔法ではなく、種族としての性質を用いて姿を子供にする。
あとはいつもの鎧や剣ではなく、少し洒落た赤い裏地の黒いマントを生成すれば──それっぽくなった。
「──『吸血鬼』、なの?」
「そうですよ、シャルちゃん。今は自分の能力に制限を掛けていて……ちょうど吸血鬼になる日だったのです」
「……メル君。そんな簡単に、種族って変えられないんだよ」
「けど、それがボクですから。ただ、目の色とかは変わってしまうんですけど……ほら」
吸血鬼因子を注入しているため、肉体はその因子に引き摺られて変容している。
犬歯が鋭くなっているし、肌も真っ白を通り越して真っ青……何よりも、瞳の色が紅に染まっているんだよな。
なのでそれを『赤ずきん』──シャルに見せようと近づくのだが……顔を真っ赤にして遠ざかってしまった。
「ちょ、ちょっとメル君! わわ、ワタシ、まだ心の準備が……」
「? 吸血鬼の瞳を見せようと思ったのですが……ダメでしたか?」
「へっ? …………そ、そう、だよね……」
そんな残念そうな顔をされても……反省して認識を改めたが、やはりアウトとセーフぐらいは変わらずにいるつもりなんだよ。
だから、そんなに無意識でも揺らぐような表情をしてもらいたくはないな!
「ま、まあともかくです。ボクはとある事情から眷属の誰かが必要となったので、召喚を行ったのですが……シャルちゃんが、その一人に選ばれたようです」
「うん、なんとなく分かっていたから。それで、ワタシは何をすればいいの?」
「この街について情報を集めたいのですが、独りでウロウロしていると怪しまれてしまいます。ですのでその間、いっしょに街を練り歩いていただきたいのです」
「そ、それってもしかして……」
再び顔を赤くするシャル。
それ以上何もツッコまない──姫の手を取る騎士か王子のように……羞恥心に耐えながら台詞を唱える。
「──デートをしませんか、シャルちゃん」
「よ、よりょこんで!」
嬉しそうに頷いてくれた。
……毎度思うのだが、可愛い女の子たちがここまで反応を示してくれるようなことなのだろうか?
◆ □ ◆ □ ◆
シャルは精霊に愛される存在。
そのため意識せずとも精霊たちが集い、彼女の周りを漂う。
なのでそんな精霊たちも含め、俺たちは帝国内でデートをする。
「精霊たちはお菓子が好きですし、そういった物を探してみましょう」
「う、うん……」
「他にはそうですね……シャルちゃんが喜べる可愛い飾り物を探してましょう。気に入った物があれば、ボクが作りますので」
「あっ、そこは買うんじゃなくて作ってくれるんだね」
可愛いグッズがあるというなら別に構わないのだが、やはりこの世界では[装備]という概念があり、アクセサリーもそのシステムに組み込まれている……最高品質の物を提供したいではないか。
「シャルちゃんはどんな場所に行きたい、というような要望はありますか?」
「わ、ワタシは……あまりないかな? メル君と居られることが嬉しいし、それだけでもういっぱいだから」
「となると、食べ物系はあまり控えた方が良いかもしれませんね。分かりました、ではあちらから向かいましょうか」
「あれ? ねぇ、どういう考えでそういうことになったの? ちょ、ちょっと教えてよ」
あまりお腹は空いていないみたいだし、食い倒れツアーは止めておこう……というか、女の子にいきなりそれはさすがにダメだろうと長年の勘(古びている)が告げているし。
──まずは、小腹を空かせるところから。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる