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偽善者と暗躍の日々 十八月目

偽善者と吸血潜伏 その01

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 ヴァナキシュ帝国


 真昼間から活動を始めた。
 前回同様匂いに釣られ、大人気の屋台に並び商品を購入する。


「久しぶりだな」

「あ、あんたは……イメチェンか?」

「転生したようなものだ。それより、卵に付けて紅生姜マシマシで」

「わ、分かった。卵の例もあるし、代金は要らねぇからな」


 種族を変えてここに居るのだが、焼きそば屋の店主には存在偽装を応用して強制的に俺のことを『メルス』だと認識させている。
 なのでどれだけ容姿が違っていようと、なぜかそれを俺として認識できたのだ。

 料理スキルの効果ですぐに仕上げてくれた焼きそばを受け取り、この場を去る。
 ……代金は【強欲】の応用で強引に払っておいたので、あとで混乱してくれるだろう。


「前回は真っ先に裏に行ったから、今回は普通に表側を体験していようか」


 闇に嵌っていったら、なぜかヤクザ一家の主になってしまうような場所だからな。

 そもそも帝国は表であろうと奴隷を売っているような場所なので、偽善自体はどちらであろうと行えるだろう。


「話し相手……“召喚サモン眷属ファミリア”」


 とりあえず、召喚してみることに。
 眷属云々の事柄はあらゆる縛りを超越することなので、白い方の魔本を使えばいろいろと気にならない。


「──あれ、ここは?」

「ここは『自由世界』にあるヴァナキシュ帝国という場所だ。なんとなくで応じたんだと思うが……帰るか?」


 そして、魔法陣の中から赤い頭巾を被った少女が現れる。

 魔本世界の主人公には、納得してもらったうえで眷属になってもらっている……因果を断ち切るのにもっとも手っ取り早いからな。


「メルスさん……ですよね? えっと、その姿はいったい……」

「今はこっちにしておくか──変身っと」


 変身魔法ではなく、種族としての性質を用いて姿を子供にする。

 あとはいつもの鎧や剣ではなく、少し洒落た赤い裏地の黒いマントを生成すれば──それっぽくなった。


「──『吸血鬼ヴァンパイア』、なの?」

「そうですよ、シャルちゃん。今は自分の能力に制限を掛けていて……ちょうど吸血鬼になる日だったのです」

「……メル君。そんな簡単に、種族って変えられないんだよ」

「けど、それがボクですから。ただ、目の色とかは変わってしまうんですけど……ほら」


 吸血鬼因子を注入しているため、肉体はその因子に引き摺られて変容している。
 犬歯が鋭くなっているし、肌も真っ白を通り越して真っ青……何よりも、瞳の色が紅に染まっているんだよな。

 なのでそれを『赤ずきん』──シャルに見せようと近づくのだが……顔を真っ赤にして遠ざかってしまった。


「ちょ、ちょっとメル君! わわ、ワタシ、まだ心の準備が……」

「? 吸血鬼の瞳を見せようと思ったのですが……ダメでしたか?」

「へっ? …………そ、そう、だよね……」


 そんな残念そうな顔をされても……反省して認識を改めたが、やはりアウトとセーフぐらいは変わらずにいるつもりなんだよ。

 だから、そんなに無意識でも揺らぐような表情をしてもらいたくはないな!


「ま、まあともかくです。ボクはとある事情から眷属の誰かが必要となったので、召喚を行ったのですが……シャルちゃんが、その一人に選ばれたようです」

「うん、なんとなく分かっていたから。それで、ワタシは何をすればいいの?」

「この街について情報を集めたいのですが、独りでウロウロしていると怪しまれてしまいます。ですのでその間、いっしょに街を練り歩いていただきたいのです」

「そ、それってもしかして……」


 再び顔を赤くするシャル。
 それ以上何もツッコまない──姫の手を取る騎士か王子のように……羞恥心に耐えながら台詞セリフを唱える。


「──デートをしませんか、シャルちゃん」

「よ、よりょこんで!」


 嬉しそうに頷いてくれた。
 ……毎度思うのだが、可愛い女の子たちがここまで反応を示してくれるようなことなのだろうか?


  ◆   □   ◆   □   ◆


 シャルは精霊に愛される存在。
 そのため意識せずとも精霊たちが集い、彼女の周りを漂う。

 なのでそんな精霊たちも含め、俺たちは帝国内でデートをする。


「精霊たちはお菓子が好きですし、そういった物を探してみましょう」

「う、うん……」

「他にはそうですね……シャルちゃんが喜べる可愛い飾り物を探してましょう。気に入った物があれば、ボクが作りますので」

「あっ、そこは買うんじゃなくて作ってくれるんだね」


 可愛いグッズがあるというなら別に構わないのだが、やはりこの世界では[装備]という概念があり、アクセサリーもそのシステムに組み込まれている……最高品質の物を提供したいではないか。


「シャルちゃんはどんな場所に行きたい、というような要望はありますか?」

「わ、ワタシは……あまりないかな? メル君と居られることが嬉しいし、それだけでもういっぱいだから」

「となると、食べ物系はあまり控えた方が良いかもしれませんね。分かりました、ではあちらから向かいましょうか」

「あれ? ねぇ、どういう考えでそういうことになったの? ちょ、ちょっと教えてよ」


 あまりお腹は空いていないみたいだし、食い倒れツアーは止めておこう……というか、女の子にいきなりそれはさすがにダメだろうと長年の勘(古びている)が告げているし。

 ──まずは、小腹を空かせるところから。


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