1,217 / 2,518
偽善者と暗躍の日々 十八月目
偽善者と従魔特訓 中篇
しおりを挟むそれからというものの、イアの従魔たちは何度も死に続けた。
教官はどいつもこいつも超一流だが、それは教えることではなく戦うことのだ。
──全員が全員、教える才能を持ってはいなかった。
それでも、イアが居れば蘇るので、再び強くなろうと教官の下へ向かう。
どうしても自分に合わないのであれば、また別の者の下で異なる術を学ぶだけだ。
「あ~、というわけで無事君たちは強くなったと思う。誇っていいぞ、地獄のような日々のすべてを、君たちは乗り切ったのだ!」
『~~~~!』
「進化をした者も居るだろう、職業を変えた者も居るだろう。変化は千変万化ではあるものの、その旨に秘めた想いは変わらないはずだ──そう、すべては主を守るため!」
『~~~~!』
声を出さない従魔も含め、テンションが相当上がっている気がする。
意味も無い演説に顔を赤めるイア、まあ自分の配下が何を言いたいのか……指輪の翻訳機能を作動させれば分かるからな。
「今回はその総仕上げといこう! 生き残ることができれば、間違いなく君たちはイアを守る騎士となることができるだろう!」
『…………』
「今こそ試練の時、超えられるモノならば超えてみせよ! ──さぁ、始めよう!!」
『~~~~~~~~~~~!!』
やる気に満ち溢れた彼ら。
そこまで召喚獣に慕われているのか、そうイアに【嫉妬】を感じずにはいられないが試練を始めることにした。
まずはそれぞれが弱点とする分野で戦わせて、その対応を見る。
そこで問題が発覚すれば、再びトレーニングに逆戻りだ。
「さて、それじゃあ始めるとしようか」
「ええ……けど、それって何?」
「魔武具『アーケイナム』だ。これを振るうと悪魔がほぼノーコストで召喚できる。あとはそれを使って、戦わせるだけだ」
形状を錫杖モードにして、カンカンと二回地面に打ち付ける。
輪っかがシャランと妖しい音を立てると、魔法陣が浮かび上がり──悪魔たちが中から出現された。
「さぁ、それぞれが苦手だと思う分野で攻め立てろ! 報酬は俺の魔力を前払いだ!」
『ハッ!』
「……ずいぶんと嫌な悪魔ね」
「そういう認識だろ? 悪魔は契約に忠実、けど残忍だったり人を人とも思わない残虐なことを平気でやったりする……人が小さな虫に、関心を持たず殺すようなものだろう」
もちろん、全然違うのだけれど。
悪魔は人を人だと分かっているうえで、そういったことをやっているのだから。
だが、今回はそれを乗り越えてこその試練なのでむしろウェルカムである。
「悪魔にも種類があるが、見ての通り彼らは中級悪魔だ。さすがにアレを相手にあっさりと破れるようなヤツはいないと思うぞ」
「けど、ちゃんと戦えているわ。ここ数日の特訓は無駄じゃなかったのね」
「そうじゃなきゃ、時間を割いていたこっちが溜まったもんじゃないよ。しっかりとイアに成果をアピールして、授業料を払ってもらわないとな」
「……分かってるわよ」
ギュッと体を抱きしめだすイア……おいおい、三の女に手は出さないぞ。
「何を勘違いしているかはしらないが、とりあえずイアには他の祈念者の育成を手伝ってもらいたい。従魔も進化して能力に変化が生じている、そういう部分を教えてやることで分かるナニカがあるはずなんだ」
「……例の『月の乙女』って所?」
「知っていたのか。まあ、ユウとかアルカもやっていることだ、せっかくだしどんな奴らか調べに行くのもいいかもな。ただ、召喚獣とはしっかり戦わせてもらうが」
「はいはい、了解了解。あんたの次の口説く女を見てくればいいんでしょう?」
まったく違った見解をしているイア。
さっきから何を……って、次?
「あら、まだ眷属にしていなかったの? 本当に力を貸したいって思っているなら、最初の二人──オブリちゃんとティンスちゃんみたいに、結晶でもなんでも押しつけてやればいいじゃないの」
「……ユウとアルカで反省したことだが、一集団の中で特定の誰かだけに干渉するのって不和の原因になるんだよな。だから贔屓に差はあろうとも、可能な限り全員の要望に応えるようにしているんだぞ」
「ふーん、ずいぶんと楽しそうですね。こちとら未だに認識偽装が無いと、街を堂々と歩くこともできない身だっていうのに」
召喚獣たちの方に視線を向けたまま、イアは俺にそう告げる。
彼女はどこかの女神に呪いを掛けられ、自分の顔を見た者を魅了してしまう……みたいな感じになっていたんだっけ?
今さらだが、それって運営神と関係があるのだろうか?
もしかしたら運営神の配下の神なのかもしれない……そういう存在も居ると、配下ゼロのリオンが言っていたし。
「……おっと、さすがに中級悪魔じゃ眷属の厳しいしごきを受けたアイツらを止めることはできなかったいだな。よしよし、それじゃあ次の試練を始めようか」
「…………バカ」
後ろで何を言っているのか、とりあえず耳にしなかったことにしておこう。
というか、こういうことはあんまり言わない方がイイらしいし。
黒色の魔本を開き、とあるページを見つけて記された召喚陣を宙に描く。
そしてそこから飛びだすのは──巨大な方舟である。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる