上 下
1,216 / 2,518
偽善者と暗躍の日々 十八月目

偽善者と従魔特訓 前篇

しおりを挟む


 第一世界 リーン


 アンが俺の部屋でナニをするのかがいろいろ心配だが、メリハリは付けられる娘だと信じて、イアの下へ向かう。

 目的地は祈念者の眷属用に建てられた、大き目な屋敷である。


《そろそろ着くぞ》

《了解。屋敷の庭で紅茶を啜っているわ》

《分かった》


 居場所を探ってみると、本人の行った通り屋敷の庭の辺りに反応があった。

 すぐにそこへ向かってみると──そこではイアが紅茶を啜り、彼女の従魔たちが揃っている光景を見ることができる。


「待っていたわよ、メルス」

「はいはい、ようこそいらっしゃい。さっそくだが、ご用件を聞こうじゃないか」

「シンプルで助かるわ。けど、いちおうの前振りは知っておいてほしいの」


 すでに回復させたようだが、従魔たちもそれなりにダメージを負っていたらしい。
 なんでも、PKギルドがイアを狙って狩りに来たんだとか。


「ずいぶんとまあ、強い相手だったんだな。魔本を持っているイアは、普通よりも召喚できる魔物の数は多いはずだろ」

「……レイドボス扱いだったのよ」

「そりゃあまあ、多勢に無勢ってか」

「従魔系の職業の利点は数。けど、それを超える数で挑まれたら不利なのよ。二、三パーティーならともかく、さすがにレイド戦を想定されるとね」


 そういう想定をされても、まあおかしくないといえばおかしくない。
 なぜなら俺自身がかつてのイベントで、魔物を生みだして祈念者プレイヤーの大半を殲滅したことがあるからだ。

 経験があるのだから、対策を施す。
 それに、イアはランカーという祈念者の中でも上位の存在として有名なんだし……目を付けたからには、徹底した方法で倒そうとしてくるだろう。


「それで、俺は何をすればいい?」

「あんたに、ってわけじゃないわ。眷属の人と戦わせてほしいのよ。集団戦闘の作戦を考えるのもいいけど、まずはこの子たちが緊急時に自分なりの方法で対応できるようにすることが重要だから」

「眷属は多種多様だからな。まあ、暇そうにしている奴も多少は居るし、召喚獣全員の望むスタイルを提供できるとは思わないが……それなりに役に立てるとは思う」

「やってもらえるかしら?」


 イアの使役する召喚獣、いつの間にか数十体を超えているからな。
 暇な眷属の数と比べると、こちらの方が数が多いので確証が持てない。

 ──だが、とりあえずやってみなければ結果はよくならないだろう。


  □   ◆   □   ◆   □


《──まあ、そんなわけだから。アン、そっちの方で『王闘技場』に修練場でやっている奴らを移動させておいてくれ》

《分かりました。メルス様、伝言などはあるでしょうか?》

《うーん……頼む、と言っておいてくれ。イアはプレイヤーだが、眷属だからな》

《では、そのように》


  □   ◆   □   ◆   □


 アンにそう連絡しておいてから、イアを連れて第四世界にある『王闘技場』へ向かう。

 迷宮としての機能によって、どれだけ壊してもそれに見合うだけのエネルギー消費があれば元に戻すことができるからだな。


「さて、集まってもらった理由はすでに訊いているな?」

「強くなる手伝いをすればいいんだろう? 早く闘わせてくれよ!」

「おいおい、クールになってくれよ」


 戦闘狂な機人チャルを瞬間的に凍結させ、冷静にさせてから話を戻す。


「あの竜人の祈念者──イアは召喚系の従魔職業の持ち主だ。本人は眷属の恩恵である程度戦えるが、どうやら従魔の方が遭遇した勢力に数で負けたらしい……そんなわけで、鍛えることになった」

我が王マイロード、どの程度まで鍛えますか?」

「召喚獣は死んでも主が魂魄を回収できれば何度でも蘇る。魂魄を外に出さない設定にしておくから、こっちは遠慮せずに自分なりの鍛え方で育ててくれ」

「仰せのままに」


 青色の騎士ドゥルはコクリと頷き、自分にできることを考え始める。

 扱える武具種はそれなりに多いのだが、やはり召喚獣は武器よりも己の体や魔力関係の技術で戦うことが多いからな。


「朕は教えることに長けてはおらぬぞ」

「こういうことは武術も料理も同じだろ。教えることで、自分もより深く理解できる。ただ、今回はルビ……あの竜を頼む」

「ふむ、次代の育成をした経験はあまりないのだが……やるだけやってみよう」


 劉の英霊シュリュも大仰に腕を組んで頷き、さっそくルビの下へ向かった。

 フィレルのことはイアも生命最強決定戦で観ているだろうし、なぜそこへ向かうのかも納得されると思う。


「アン、なぜにアイツらなんだ? 気のせいか、物凄く見覚えのあるメンバーだぞ」

「英雄姉妹の戦闘訓練を依頼したメンバーですね。チャル様は闘いだから、ドゥル様はメルス様の指示だから、シュリュ様は頼むという伝言をお伝えしたら動きました」

「シュリュだけかよ……」

「いいえ、あくまで彼女たちは第一陣というだけです。イア様のご都合はどの程度まで取れるのでしょうか?」


 イアからも、鍛えるために時間は惜しまないと言わていた。
 まあ、俺も時空魔法で速度を調整しておくので、特訓の時間は充分にある。


「──ぐらいらしいぞ」

「では、眷属を日ごとに分けてこちらへ向かわせましょう。数が多すぎると、切磋琢磨しあう相手がいなくなってしまいます」

「そうだな……じゃあ、残りは俺の方で補うとしよう」


 そういって、俺もまた準備を行う。
 開くは黒き魔本、そこに記されし名は──


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...