上 下
1,215 / 2,518
偽善者と暗躍の日々 十八月目

偽善者と召喚適正

しおりを挟む


 夢現空間 自室


 口寄せをする術が欲しかったのだが、結局誰も使ってくれなかったな。

 某忍者物のマンガでは、下忍でも使っていたはずなのだが……もしかして、『術』としての難易度が半端なく高いのかもしれない。


「口寄せ、つまり召喚魔法だろう? その解析さえできれば、俺用の召喚魔法が創れる可能性があるんだったか?」

「はい。他者の召喚魔法では異常が発生していましたが、口寄せの術などによってメルス様自身が召喚系の術式を会得したのであれば使用者はそのまま。問題なく、次の工程フェイズへ向かうことができるかと」

「……アンさんや、さすがに俺も枕の持ち込みまでされると反応してしまうぞ」

「ご安心ください──いつでもメルス様の従順な僕であるわたしは、肯定しかしておりませんので」


 どや、と言わんばかりの顔(レイフ°目)で告げてくるアンに、物凄い呆れと笑いが込み上げてくる。

 俺のためにやってくれていることには違いないので、嬉しくはあるのだ。

 しかもその枕が少し前に俺がちょいと弄らせてもらった物な辺り、とても心がホッコリとする……アンが求めている反応は、それではないみたいだが。


「普通の召喚魔法の習得方法って、結局どういうものだったんだ?」

「時空属性の適正、一定数の従魔の使役、被召喚の回数などが上げられます。後天的な方法──スキル結晶や職業スキルに付随しての適正向上などもございますが、それでも難易度は高くなっております」

「だから、プレイヤーの中で後天的に得た者は極めて少ない、とかそんなことを誰かが教えてくれたっけ? 俺ってその条件、結構満たしているよな」

「はい、さすがはメルス様かと。これはもう抱いていただくしか──」


 時空魔法はカンストしたし、従魔もかなりの数を使役している。
 問題は被召喚数だが……クラーレによってそれもかなり進んでいた。

 条件聞くの初めてなので、霊呪云々は眷属が最初から仕組んでいたのかもしれない。


「はいはい、抱っこ抱っこ。それで、実際に俺の知っているプレイヤーで後天的に得た奴は居るのか?」

「……メルス様」

「喜んでもらえて何より。さて、解答は?」

「イア様が習得されました。被召喚とは運営主宰のイベントの際の移動も含まれていますので、初めから召喚系の職業一筋のイア様は習得に成功しております」


 ……うん、俺はずいぶんと浮気性だな。
 万能という言葉にだいぶ酔っていたが、現実を見ればただの八方美人でしかない。

 ただ、偽善をやるからには一つのことに特化することはできなかったのだ。


「けど、イアか……今はどこに居るのか分からないんだよなー」

「それでしたら、イア様はリーンの屋敷にて紅茶を啜っているようですが?」

「……あっ、もういるんだ」


 もしかしたら眷属たちで、予め呼びだしていたのかもしれない……確認してみよう。


《もしもし、イア。聞こえているか?》

《はいはい、メルスね。何か用でも?》

《リーンにイアが来ているって話を聞いて連絡してみたんだが……もしかして、眷属に呼ばれていたのか?》

《いいえ、答えはNO。ワタシはワタシの意思でここを訪れた。あんたに少し、頼み事があるのよ》


 イアの頼み事か……誰かの頼み事で手いっぱいになっているわけでもないし、別に問題は無いか。


《分かった。すぐそっちに行く、だから少し待っていてくれ》

《え、ええ……了解したわ》

《それじゃあ、お菓子でも食べててくれよ。最近試してみた物もあるんだ》

《それは期待できるわね》


 念話を切り、さっそくイアの下へ向かおうとするのだが……アンが俺の服の袖を掴み、それを止める。


「どうしたんだ、アン?」

「……本当に行ってしまわれるのですか? もう少し、わたしとの甘い時間を──」

「今生の別れでもあるまいし、ちゃんとここに戻ってくるさ」


 腕の中に枕を抱き寄せ、ギュッとしている姿がなんとも萌えるな。

 イジらしいアンの様子にキュンとなるものの、やはり精神はいつも通りなので冷静に対処し始める。


「アンは待っていられないか?」

「いえ、待機というのであれば、メルス様の五感を借りたうえでこの部屋の私物を堪能しておりますが」

「……やめてくれ」

「いいえ、止めません。迫ってきた乙女にそのような塩対応を取るメルス様には、それぐらいさせていただいてよろしいかと」


 乙女って……少なくとも俺のイメージする乙女という存在は、両方とも肯定しかしない枕を持ってきて、主が居なくなった部屋で私物を『使う』ようなことはしないだろう。


「汚したり、皺にしたりしないな?」

「もちろんです」

「あとで乾かすとか、時魔法で戻したりとかもしないな」

「…………問題ありません」


 若干の間が在った気もするが、話している内に俺にも罪悪感が湧いてきたので、仕方なく了承する。

 それを喜ぶ姿に、本当によかったのかと悩むが覚悟を決めた。


「それじゃあ、お留守番は頼んだよ」

「はい、お任せください」

「……まあ、念話は繋いでおくから俺の話し相手をしながらだけどさ。俺が見てないからといって、おかしなことはするなよ」

「…………はい、お任せください」


 本当に、さっきから間がある気がするのはなぜなのだろう。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺と異世界とチャットアプリ

山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。 右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。 頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。 レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。 絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...