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偽善者と暗躍の日々 十八月目
偽善者と召喚適正
しおりを挟む夢現空間 自室
口寄せをする術が欲しかったのだが、結局誰も使ってくれなかったな。
某忍者物のマンガでは、下忍でも使っていたはずなのだが……もしかして、『術』としての難易度が半端なく高いのかもしれない。
「口寄せ、つまり召喚魔法だろう? その解析さえできれば、俺用の召喚魔法が創れる可能性があるんだったか?」
「はい。他者の召喚魔法では異常が発生していましたが、口寄せの術などによってメルス様自身が召喚系の術式を会得したのであれば使用者はそのまま。問題なく、次の工程へ向かうことができるかと」
「……アンさんや、さすがに俺も枕の持ち込みまでされると反応してしまうぞ」
「ご安心ください──いつでもメルス様の従順な僕であるわたしは、肯定しかしておりませんので」
どや、と言わんばかりの顔(レイフ°目)で告げてくるアンに、物凄い呆れと笑いが込み上げてくる。
俺のためにやってくれていることには違いないので、嬉しくはあるのだ。
しかもその枕が少し前に俺がちょいと弄らせてもらった物な辺り、とても心がホッコリとする……アンが求めている反応は、それではないみたいだが。
「普通の召喚魔法の習得方法って、結局どういうものだったんだ?」
「時空属性の適正、一定数の従魔の使役、被召喚の回数などが上げられます。後天的な方法──スキル結晶や職業スキルに付随しての適正向上などもございますが、それでも難易度は高くなっております」
「だから、プレイヤーの中で後天的に得た者は極めて少ない、とかそんなことを誰かが教えてくれたっけ? 俺ってその条件、結構満たしているよな」
「はい、さすがはメルス様かと。これはもう抱いていただくしか──」
時空魔法はカンストしたし、従魔もかなりの数を使役している。
問題は被召喚数だが……クラーレによってそれもかなり進んでいた。
条件聞くの初めてなので、霊呪云々は眷属が最初から仕組んでいたのかもしれない。
「はいはい、抱っこ抱っこ。それで、実際に俺の知っているプレイヤーで後天的に得た奴は居るのか?」
「……メルス様」
「喜んでもらえて何より。さて、解答は?」
「イア様が習得されました。被召喚とは運営主宰のイベントの際の移動も含まれていますので、初めから召喚系の職業一筋のイア様は習得に成功しております」
……うん、俺はずいぶんと浮気性だな。
万能という言葉にだいぶ酔っていたが、現実を見ればただの八方美人でしかない。
ただ、偽善をやるからには一つのことに特化することはできなかったのだ。
「けど、イアか……今はどこに居るのか分からないんだよなー」
「それでしたら、イア様はリーンの屋敷にて紅茶を啜っているようですが?」
「……あっ、もういるんだ」
もしかしたら眷属たちで、予め呼びだしていたのかもしれない……確認してみよう。
《もしもし、イア。聞こえているか?》
《はいはい、メルスね。何か用でも?》
《リーンにイアが来ているって話を聞いて連絡してみたんだが……もしかして、眷属に呼ばれていたのか?》
《いいえ、答えはNO。ワタシはワタシの意思でここを訪れた。あんたに少し、頼み事があるのよ》
イアの頼み事か……誰かの頼み事で手いっぱいになっているわけでもないし、別に問題は無いか。
《分かった。すぐそっちに行く、だから少し待っていてくれ》
《え、ええ……了解したわ》
《それじゃあ、お菓子でも食べててくれよ。最近試してみた物もあるんだ》
《それは期待できるわね》
念話を切り、さっそくイアの下へ向かおうとするのだが……アンが俺の服の袖を掴み、それを止める。
「どうしたんだ、アン?」
「……本当に行ってしまわれるのですか? もう少し、わたしとの甘い時間を──」
「今生の別れでもあるまいし、ちゃんとここに戻ってくるさ」
腕の中に枕を抱き寄せ、ギュッとしている姿がなんとも萌えるな。
イジらしいアンの様子にキュンとなるものの、やはり精神はいつも通りなので冷静に対処し始める。
「アンは待っていられないか?」
「いえ、待機というのであれば、メルス様の五感を借りたうえでこの部屋の私物を堪能しておりますが」
「……やめてくれ」
「いいえ、止めません。迫ってきた乙女にそのような塩対応を取るメルス様には、それぐらいさせていただいてよろしいかと」
乙女って……少なくとも俺のイメージする乙女という存在は、両方とも肯定しかしない枕を持ってきて、主が居なくなった部屋で私物を『使う』ようなことはしないだろう。
「汚したり、皺にしたりしないな?」
「もちろんです」
「あとで乾かすとか、時魔法で戻したりとかもしないな」
「…………問題ありません」
若干の間が在った気もするが、話している内に俺にも罪悪感が湧いてきたので、仕方なく了承する。
それを喜ぶ姿に、本当によかったのかと悩むが覚悟を決めた。
「それじゃあ、お留守番は頼んだよ」
「はい、お任せください」
「……まあ、念話は繋いでおくから俺の話し相手をしながらだけどさ。俺が見てないからといって、おかしなことはするなよ」
「…………はい、お任せください」
本当に、さっきから間がある気がするのはなぜなのだろう。
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