1,212 / 2,518
偽善者と暗躍の日々 十八月目
偽善者と東の島国 その15
しおりを挟む東都城は混沌に満ちていた。
至る所で骸たちが暴れだし、城や兵士たちに被害を及ぼしているからだ。
アンデッドなため、簡単には倒せず浄化の『術』でなければ止めることができない。
しかし、一部の者はそのアンデッドたちに不可解な視線を向けていた……まるで、興味深そうな存在を眺めるような観察眼だった。
「賊は何人だ?」
「十も超えておりません。ただ、例の女に送りだした者と一致しております」
「……なるほど、裏ではやることはしっかりとやれる女子であったか。俺の目もこんな場所に居る内に濁ったようだな」
騒動を察知し、目を覚ました公方──オダ・ノブヒラは自らの密偵の話を聞く。
頭に過ぎるのは裏に疎そうな気真面目な少女、煮ても焼いても扱うことのできないため殺そうとしたはずが……生き残った者。
「それで、あの女子とこの騒動はどうなる」
「間もなくすべての不死者を捕らえることができます。光の術を用いれば容易く倒せるようなので、扱える者を集めております」
「女子は?」
「今、新たな使いを出しました。すぐに戻ってくるかと」
そう言外に伝えてくる密偵に頷く公方。
しかし安心感などいっさいない相貌で、辺りを警戒していた。
「……何を?」
「勘だな。やはり、あの女子だけでは辻褄が合わない。何か、異物が紛れ込んでいる」
「すぐに捜索を──」
「必要ない」
サッと手を挙げて動きを止めさせると、力強く膝を叩いて座布団に座る。
「居るのだろう? もう、すでに」
「な、何を……ッ!」
「やはり居たか……」
ノブヒラの眼前で影が揺らめく。
警戒していたはずの密偵を出し抜き、唐突に現れたその姿を目に焼き付ける。
「──初めまして。それとも、先ほどぶりとでも伝えるべきだろうか?」
「面識があったであろうか?」
「いや、一方的なモノだ。祈念者に対するとても素晴らしい考え、聞かせてもらったよ」
「……お主のような者が居たならば、すぐに気づいたはずなのだがな」
漆黒の装束に身を包む忍び。
それを目の前にし、放たれる存在感に無意識ながら唾を呑み込む密偵。
「さて、貴公は何者か? アサイ家の使いというわけではないだろう」
「……何者か、難しい質問だ。私は混沌と混迷をもたらす者、そう定められた者とだけ伝えておこう。遺憾ながら、上で見ている者たちからはそう評価されているらしい」
「ほぉう、ずいぶんと面白い客だ。たしかにこの感覚、凡夫には感じぬモノである」
「そう思ってもらえて幸いだ──さて、そろそろ彼の殺意を止めてもらえぬかな?」
くっ、と呻く密偵の足元では影が蠢き、その挙動を足元から生える黒い手が這い寄ることで静止させていた。
現れた瞬間から殺気を放つ密偵を、忍びが強引に止めていたのだ。
「ふははっ、コイツをそんな方法で縫いとめておくとはな。もういい、この場を離れて終息を手伝ってこい」
「し、しかし!」
「……二度は言わぬぞ。止めてこい」
「ぎょ、御意……御武運を」
密偵は解かれた影に舌打ちして、その場から存在を消す。
残ったのは公方と忍び──対談が始まる。
◆ □ ◆ □ ◆
「改めて、俺はオダ・ノブヒラ。彼の第六天魔王、波旬のオダ・ノブナガの血を引く者である。魔王、と言っても先祖を除いて真の魔王となった者は一人もいないがな」
「ただの忍び、今はそう呼んでくれ」
「そうか……では忍びよ、単刀直入に訊いてやろう──お前は敵か?」
「否、否定する。私は使い。主に仕える、忠実な駒……祈念者のな」
俺がそう言うと、再び殺気が放たれる。
行っている者が違うのもあるか、半端ないほどにレベルの威圧だな。
「祈念者の、か……それが何を意味し、何が起きるのかは理解できているのか?」
「少なくとも、貴殿に私は殺せぬよ。さて、取引をしよう」
「取引か……それは互いに対等な相手としかやらぬものであろう。俺と貴公が、対等な関係であると?」
「貴公、そう呼んでもらえる程度の関係は築けそうだ」
ニコリとスマイルを浮かべようと、残念ながら頭巾の一部が口元を覆っているのでそれは見てもらえないだろう。
それでも笑顔です、と言わんばかりの表情でそう告げておく。
「東の公方よ、面白いことをあの娘に言っていたな──禁忌とやらに触れたこの俺を、どのようにして止めるのか、と……もしその方法があるのならば、貴殿は止まるのか?」
「止められると思うのか? 祈念者は何度殺しても蘇り、その猛威を振るう。俺の考えも所詮は時間稼ぎ、ただ死人を撒こうが影響などないだろう」
「そうだろうな。祈念者が生まれる地が隣の大陸に在る以上、この地を祈念者が訪れることは必然とも言える。しかし、祈念者とてそれなりに理解力はある……ただ、死して詫びることのできない愚者なだけだ」
死んでも死んでもそれをただの現象としか受け入れられず、同じことを繰り返す……良くも悪くも単純で、明快な意志を基に動いているだけなんだよな。
「死なぬことを除けば、ただの力を持て余す子供の癇癪でしかない。故に貴殿には、とあることを提案しよう」
「……提案だと?」
「ああ、とびっきりの提案──すべてをひっくり返す面白い物をな」
「それはとても──愉しそうだな」
俺とノブヒラ公は、夜が明けて日が昇るまで語り合った。
影傀儡たちは遠隔で片付け、逆に強化した個体に粘らせたりして時間を稼ぎ、この場に誰も来ないようにしたうえで。
──そして、ヤチヨお嬢様の安全を確保したうえで、あることに同意してもらった。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる