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偽善者と暗躍の日々 十八月目
偽善者と東の島国 その14
しおりを挟む夜、東都城へ侵入することを決めた俺は、ヤチヨお嬢様にそういった旨を報告してから外へ向かうことにした。
「──というわけだ。護衛の方は変わらず問題なく果たせる故、少し行ってくるぞ」
「まったく説明されてはいませんが……そこであなたは私との関係性を伝えますか?」
「そんなはずなかろう。雇用者の情報を吐くほど、私は情報規制に疎いわけではない」
「ならば、異論はありません。ただ、できるのであれば彼の者の真意が知りたいのです。頼めますか?」
お嬢様は俺にそう言ってくる。
不可能ではないし、正直俺も気になっていたことなので別に構わないが……あっさりと肯定するのは偽善者としてどうだろうか?
「いいだろう。ただし、どのような形で話が終わるであれ、最悪の結果だけは予期していてほしい」
「最悪の、ですか?」
「──ではな」
「あっ、ちょっと……!」
意味深な発言を残し、さっさと出発する。
最悪の結果? まあ、戦争になって俺が自分でやったことの責任を取る羽目になることじゃないの?
……うん、ただの自業自得じゃねぇか。
◆ □ ◆ □ ◆
東都城
城の近くで様子を窺い、見張りの交代で隙ができた瞬間に中へ侵入する。
結界による探知が行われるが、お嬢様が登城したときに結界の解析は済ませているのであっさりと突破できた。
極限まで気配を薄め、影に潜りながら移動しているため同業者にも見つかっていない。
スキルを使えば体から体温や呼吸音、鼓動まで失くすことができる俺なので、大胆なヘマでもしない限りバレないのだ。
「さて、まずはどこに行くべきか……」
すでに本丸に乗り込んでいる以上、事そのものは素早く済ませる必要がある。
お嬢様の影に潜んで記憶した地形を基に、それらしき怪しい場所へ向かってその中を調査することに……。
「まずは、研究室っと」
影に潜れば侵入も簡単。
いちおう『術』に対策がされている結界も張られていたが、解除したうえで張り直すことができたのでそのまま入る。
「フェイク用の死体か? そもそも死体が置かれている時点で……ああ、そういうこと」
部屋一面に並べられている死体に疑問を抱いたが、体内から魔力の反応が感じ取れた時点でそれは解消された。
死んではいるが生きてはいる……つまり、死にながら生きている存在になっている。
「生者が入ってきたら、自動感知で襲ってくるのか。専用の魔道具が無いと、出ることもできない……えげつないな」
HPが意味する生命力とは、文字通り生きるための力……ではない。
アンデッドであるネロにも載っているのだから、死者にそれが記載されているのはおかしいだろう。
生命力とは、生きるための糧としているエネルギーそのものの総量のこと。
まあ、これは三パターン──通常の生命エネルギー、骸を動かす負のエネルギー、そしてそれ以外だ。
アンデッドは生命エネルギーを感知し、相手に襲いかかる。
つまりそれさえ隠すことができれば、たとえ堂々と歩いていようとバレないなんてこともあるのだ。
「まあ、影に潜っている俺にはまったく関係ないことだけどさ」
そもそも居る世界が違う。
高い位階を持つアンデッドならば、自在に影の中へ移動できるみたいだが……少なくとも実験で生みだされた失敗作であるここの死体には、それができないようだ。
「それで、さらに下では研究を行っている」
地下へ潜ると、死体を弄繰り回して魔石を埋め込んでいる。
ネロは自分のスキルで行っていたが、普通の死霊使いの中にはこういった方法で生みだす者もいるらしいな。
魔石の質と死者のレベルや経歴、そういった要素によってアンデッドとなった際の強さが変動する。
そして今行っている実験は、その強さについての調査みたいだ。
「──“影喰い”」
『がぁ──ッ!』
さて、研究者の影に干渉することで早々に気絶させて終わらせる。
原理がまったく分からないのだが、この世界では影を奪われた者は一時的に意識を喪失してしまう。
その間に研究資料やら死体の検分やらを済ませ、研究員を掴んで外へ出る。
ポイッと地面に放り投げてから、俺は先ほどまで居た建物の影に近づきトントンと足踏みをして音を鳴らす。
「お出でませっと──“影呑み”」
俺の影がより黒く染まり、研究室の影を侵蝕していく。
全体が真っ黒に染まったその瞬間、ズブズブと建物が影へ呑み込まれる。
まあ、さすがにそんなことをすればこの城の者たちにバレてしまうわけで……。
「囮をやれ──影傀儡ども」
『…………』
密偵プレイを始めたから手に入れていた配下を操り、城の中で暴れさせる。
ほとんどのヤツがそもそも東都で隠密活動に励んでいたヤツなので、どうしてという疑念を湧かせることも可能だ。
そして俺は影の中へ再び潜り、混乱し始めた城の中を陰ながら見守る……影だけに。
「さて、そろそろあちらさんの準備も整ったかな? ここまで暴れれば、あっちに出す数も減るわけだし……ふむ、オダの一族が何をするのかちょっと楽しみだな」
俺は戦国武将じゃないので、実際どんな人かなんて分からない……だからこそその血を継ぐ者が、どういった判断をするのか楽しみになるわけだ。
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