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偽善者と暗躍の日々 十八月目

偽善者と東の島国 その13

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「──断る」


 シンプルかつはっきりと、拒絶の言葉を公方──オダ・ノブヒラは告げる。
 その瞳は爛々と輝き、凄まじい意志の力が籠められていた。


「なぜです! 公方様が行っていることが、どれだけの禁忌であることかお分かりのはずです! どうしてそこまで──」

「ふっ、世迷言を。覚悟も無く、このようなことができるわけがなかろう。すべてはこの乱世を、新参者が現れ狂い始めた異国のようにならぬための手段だ」

「異国の? まさか……」

「分かっているはずだ。今、世界がどのように歪み始めているか。──祈念者プレイヤーなる傀儡共が暗躍し始め、それが何を引き起こそうとしているのかを!」


 うんえぇしぃいいいいん!
 またか、またこういうパターンなのか!

 この島国──祈念者たちの居る大陸──からオルファへ商売をしに来ている自由民は僅かだが居るし、この世界のスキルや魔技を使えば情報を伝達することができる。

 そして、祈念者たちはいろいろとやらかしすぎたのだろう……神が俗世に介入し、さまざまな騒動を引き起こすように、その御使い扱いされている祈念者が、その不滅の力で発生させた問題の数々。

 それをこの男は知ってしまったのだ。
 そもそも祈念者たちが来たというアナウンスが、自由民には伝達されている。

 なら可能な限り祈念者たちの居るあの大陸の情報を、集めない方がおかしいだろう。


「そ、それとこれとは話が別──」

「別なわけが無かろう! すでに引き金は引かれている、港に船が現れた。異国の者が上陸したと……あれが祈念者だ!」

「たしかに報告は受けています。しかし! あの者たちは人々の悩みを解決し、魔物の討伐にも協力的です!」

「それこそ、奴らの思う壺よ。信頼を勝ち得たことで、他の者もまた心優しき者とでも想わせるつもりであろう。多様な種であるとはいえ、在り方が異形だ。分かり合うことなど決してない!」


 死に戻りがある、その考えが活動の根本にある祈念者はある意味強い。
 死の恐怖を本当の意味で持っておらず、死地であろうと帰ってくるのだから、高リスクという賭けにも乗って強くなっていく。

 自由民と異なり、祈念者には(運営)神からいくつもの力が授けられている。
 自由に選べるスキル、あらゆるスキルへの適性、称号の書き換え……一つひとつであろうと、優秀な特典がいくつも使えるのだ。

 そのため、最上級職業も少しずつ祈念者が手に入れ始めている。
 人数制限のある職業を手に入れ、着々と振るう力に凶悪さが増していた。


「そ、それとこれとどういう関係があるというのです! たとえそれが祈念者に対する策であろうと、死者を冒涜するその禁忌の罪深さは変わりません!」

「何度も言わせるな。その禁忌とは、いったい誰が定めたモノだ。俺らがもともと信仰していた神は祈念者を生みだした運営神とやらに消され、もう居ない。禁忌を侵した神が決めた禁忌に従う必要なんてないのだ」

「人として、守らなければならない倫理があります! 死を弄ぶその行い、それは禁忌に非ずとも許されがたいですよ」

「……それで、アサイ家の娘よ。その禁忌とやらに触れたこの俺を、どのようにして止めるというのだ? 父親や西京にでも伝え、戦争でも引き起こすか?」


 まあ、アンデッドを操っているのは東都ですなんて伝えれば……それこそ技術を奪うか根絶やしにするために戦争が起きるか。

 問題が祈念者にある以上、西側にも仲裁役にも根本的な解決ができない。


「何もできぬよ。この戦乱を覆す術は、誰にない。魔王であるノブナガの血を継ぐ、この俺以外にはな」

「争い以外に、方法は無いのですか? 彼らにも善と悪があり、私たちにも善と悪がある以上分かり合うことができるはず──」

「処刑も拘束もできない犯罪者をどうすることができる? 西京のあの女はどうするか知らんが、流刑にしても現れるような輩をこの地に受け入れるつもりはさらさらない!」


 祈念者の悪行が知られているなぁ。
 それなりに善行もあるはずなのだが、その行いを薄めさせてしまうほどの悪行の数が原因なんだろう。

 大抵の祈念者はこの世界をゲームだと考えやりたい放題だし、どのゲームでもゲームならと普段の自分から解放された精神性を発揮し、犯罪を許容している。

 どれだけ罪を意識させようと、たかがゲームと思い自由民に害を及ぼす者も存在しており……結局のところ、オダさんのやっていることもあながち間違っていないんだよな。

 アンデッドが相手をするなら別に誰かが傷つくわけじゃないし、自分がそうなると宣伝しておけばさすがに祈念者も怖気づく。

 恐怖による支配もまた、いい方法だ……祈念者も感情そのものには抗えない。


「アサイ家の娘よ、そもそも俺を止めてどうなる? 上を止めようと挿げ替えが起き、祈念者への恐怖が同じ手を繰り返す。すでにそうするだけの所業を異国で引き起こしている者たちに、同情の余地などない」

「くっ……」

「もう帰れ。これ以上話そうと、すでにどうにかできる地点を超えている」


 話はここで頓挫した。
 追いだされたヤチヨお嬢様は、待機していた護衛たちと共に城から出て一度領地に帰るらしい……つまり、俺が護衛しながらどうにかできるのは今日しかないわけだ。


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