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偽善者と暗躍の日々 十八月目

偽善者と東の島国 その12

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 東都城


 刺客たちを倒していき、ようやく日の出を見ることができるまでに時間が経過した。
 影の中へ傀儡となった彼らを取り込んでいるので、多くの肉か──もとい味方のストックもできている。

 ヤチヨお嬢様はもともと連れてきている護衛たちに駕籠を担がせ、城へ向かっていた。
 ……この世界では魔力関係で技術が異なる進化を遂げているが、だいたい戦術とかは変わらずに存在する。

 まあ、要するにお城を囲うように塀を作るのとかはそのままなので、中心の城などは現実で見たことのあるソレとは異なっていた。


「お嬢様、何事もなくこの日を迎えることができましたね」

「ええ、本当に……」

「どうかされましたか?」

「えっ? え、ええ……問題ありません」


 お嬢様しか文字通り陰ながら護衛している俺のことを知らないため、護衛からの質問を誤魔化して返している。
 バレると既存利益を邪魔してしまう、という偽善者からの粋な計らいだ。

 やがて城に近づくにつれて、警邏隊という警察機構のような役職の者たちが歩いている頻度が上がっていく。
 どれだけ魔力で技術が革新されようと、最後に必要なのは人だからな。

 お嬢様の来訪はしっかりとアポを取ってのモノなので、確認されれば護衛がそれを証明することですぐに入ることができる。
 普段、こっそりと色んな場所に侵入している俺からすると、とても新鮮な気分だ。

 ──まあ、今もこっそり侵入しているが。


「どうぞ、お通りください」

「ありがとうございます」

「お嬢様、では行きましょう」

「ええ、分かっています」


 えっちらほっちら、駕籠が進んでいく。
 そんな様子を一部の者──侍従やら兵士やらがほんの少しだけ驚いた表情を浮かべているのは、きっと彼らが本来来るはずの無い者たちだと知っていたからかもしれない。

 俺はそれを影の中から観察し、同時に城の中に少しずつ俺の活動領域を増やしていく。
 緊急時にお嬢様が逃げ出せるようにするのだがまず第一なのだが、それと同じくらい俺が闘うための環境を整えているからだ。

 ついでに今ある情報を念話にて、お嬢様へ伝えておいた。


《聞こえるか?》

《はい、聞こえております》

《やはり貴殿らが来ることは想定外だと思う者たちがいるようだ。そう分かっても、貴殿は前へ進むのか?》

《もちろんです。それが『アサイ』の名を家名に持つ一族の使命です》


 ずいぶんと面倒なことを背負っているお嬢様の一族だが、東と西の国を調停するとはそれだけ大変なんだろう。

 一族の使命ね……平和な日本出身のモブには縁の無い言葉だよ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 東都の主の名は『オダ・ノブヒラ』というらしい……この時点でお察しだと思うが、某魔王様はこの世界の乱世を乗り切っている。
 さすがに情報が足りないが、本能寺云々を乗り越えた彼は無敵だったのかもしれない。

 ただ、少なくとも肉体は滅び彼の子孫が東都の世を統治している。
 滋賀の辺りに城が無いのは、きっと西の都である『西京』の存在があるからだな。


「面を上げよ」


 そんな彼がお嬢様と相対している。
 顔には出していないが、{感情}が【憤怒】の波動を感じているので、本来お嬢様がどうなっていたのかがよく理解できた。


「ふむ、数日ぶりだな」

「公方様……お考えは改まりましたか?」

「なんのことであろうか」

「──外法の使用をお止めください。今ならばまだ、間に合います」


 外法とは魔法でたとえると禁書系魔法だ。
 まだ書物に記されている辺り、ギリギリ存在が許されている非合法な現象を引き起こす『術』がそこに含まれる。

 いちおうお嬢様に事情は訊いていたが、それ以上にヤバいものを多く持っているはどういう扱いになるのか少しだけ気になったが、今気にするのは俺ではなく将軍様だ。


「外法などと……俺がいったい何を使ったというのだ?」

「符術“使屍”──これに聞き覚えは?」

「さぁ、さっぱりだな」

「そうですか……最近西京に現れる死人の数が増大しています。そして検分したところ、彼らの大半にその術式が刻まれていることが判明しました」


 札は貼り付けずとも、使うことができる。
 たとえばそう──体内に埋め込んだり。

 普通のアンデッドと異なっているのは、体内で魔核が生成されないことだ。
 それなりに時間を掛ければ勝手にできるみたいだが、今回の騒動で現れた者たちを調べても誰も持っていなかったんだとか。

 つまり問題はつい最近起きたこと、誰かが意図的に引き起こし野放しにしたのだと、西側とアサノ家は判断した。


「それと俺にどういった関係が? 悪いが心当たりがないな」

「……そうですか。では、こちらを見ていただきます」

「ふむ、これは……」

「おや、心当たりがあったのですか? たまたま、この城で見つけた研究の内容です」


 偶然、彼女の足元に落ちていた巻物だ。
 たとえそれが上からではなく下から出てきたものであろうと、それは足元にあった時点で見つけたと言っても過言ではないだろう。


「使屍に関する研究が、公方様の許可によって始められた……そうここには記されています。印は押されていませんが、使われた死体に関する情報が一部合っています。公方様、改めて言います──どうかお止めください」


 追い詰められたオダ。
 さて、どう出るかによっては偽善者が一仕事する必要があるな。


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