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偽善者と暗躍の日々 十八月目

偽善者と東の島国 その10

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 眷属に『魔技』の情報を通達し、忍術について調べてもらうことにする。
 その使い方も親切な男の人に教わったし、運用法に関しては理解できた。


「それじゃあ、お疲れ様」

『ああ、用があったら呼ぶがよい』

「はいはい、よろしくな」


 魔力を籠め、送還するイメージをする。
 それだけで黒鍵魔剣■■■■は光の粒子となって、俺の中へ吸い込まれていった。

 本当に俺の中じゃなくて、実際には契約で生まれた小さな空間に行ったんだけどな。


「さて、どうしようかな?」


 情報をヤチヨお嬢様に届けることは、まあ決定事項だ。
 俺という存在の必要性を訴え、また偽善が行えるような環境作りをする必要があるし。


「──“影分身シャドウアバター”」


 そんなわけで自身の複製体を作成する。
 影で生みだされているため、全身が真っ黒な犯人スタイルだが……別に表に出すわけでもないのでそういう部分は気にしない。


「指定した座標で待機、何か問題があればそれを捕縛して“影檻シャドウジェイル”の中へ賊を取り込んでおくんだ」

『……』


 同じ影魔法なので、先に組み込んでおけばしっかりと使うことができる。

 また、所持している武具の性能などは全然コピーできないが、形状だけはまったく同じに複製できている……便利だよな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 そろそろ月が出てきそうな、ちょうど夕日が沈み始めた頃。

 尋問から集めた情報を持ち帰り、なんだか髪が少し濡れているヤチヨお嬢様の下へ帰還してそれらを伝える。


「──というわけだ」

「ご苦労様です……しかし、この短時間でよくそこまで」

「できることをしただけだ。また、刺客の排除もこちらで行っている。貴殿は貴殿なりに両国の間を取り持つがよい」

「それはそうですが……東都にも優秀な隠密部隊が居るのですよ?」


 ちなみにさっきの奴らは、そこまで凄くない末端みたいな者たちだ。
 情報をあっさりと吐いたのも、最初から与えられている情報の質がとてつもなく低いからである。

 単一の属性忍術しか使えない忍者は、そもそもそこまで優秀じゃないんだとか。
 某火の影を目指す忍者モノのように、適正属性があったり複数の属性を同時に練り上げて『術』を発動できて一人前らしい。

 影を操る術なんかもあるので、五行以外の術も豊富みたいだ。
 血族限定の忍術なんかも……映画版のようにうっかりコピーしてしまうことも、もしかしたらできるかもしれないな。


「……どうか、されましたか?」

「いや、なんでもない。それよりもだ、そちらで何かこちらへ流さなければならない重要な情報はあるか?」

「いえ、まだございません」

「そうか、ならよい。ところで貴殿は自衛することができるのか?」


 今さらながら、特にそういった心得のない少女というわけでもない。
 なんというか、立ち振る舞いが武人のソレなので少なくとも武術は嗜んでいると思う。


「護衛が駆け付けるまでの時間稼ぎ程度ではありますが……薙刀術と符術を少々」

「なるほど、東西の技術をそれぞれ齧っているということか」

「片方だけではもう片方を倒すために特化した技に抗うことができませんので。それに、間を取り持っていることをアピールするためにも、一族はこのように必ず二種類以上の技術を学んでおります」

「……その札、一枚見せてもらえるか?」


 符術の触媒に使う札を視ると、内部に術式そのものを書き込んでいた。

 要するに、東洋版の魔法陣みたいなモノなのだろう……悪用されないように、渡された札には回復系の術式が刻まれている。


「符術に適性などは必要か?」

「使い方には創意工夫が必要ですが、魔力さえあれば誰でも発動できます。ただ、符を作るためにそれなりの額が必要となるので、あまり庶民の方々には使われておりません」

「そうか……情報提供感謝する」

「いえ、この程度の常識であれば」


 実際に常識知らずだから仕方がない。
 活版印刷が持ち込まれていないので、本屋がそこまで存在しておらず、情報はあくまで口伝のものしか手に入っていないのだ。

 外国が異なる弊害が、こんな風に繋がっているのか……魔技で複製することができる者が居れば、もっと簡単に『術』を広めることができただろうに。


「……もう月が出ているか。貴殿もそろそろ就寝する刻であり、もっとも暗殺者が動く時間でもあるな」

「護衛たちが守ってくれます。それに、この宿も専属の雇い人が居ります」

「先ほど貴殿が語った通り、優れた隠密という存在が居る。彼らはどのような任務であれ成功させるからこそ、東都の主たちに信用され使役されている」

「…………」


 使えない人材をずっと雇用し続けるほど、この都の主も無能ではないはず。

 そういう可能性もあるが、考えられる限り最悪の展開を想定して動くのであれば、その前提で動くのは止めた方がいいか。


「明日が勝負どころだ。貴殿はゆるりと休むがいい……もし刺客が来るのであれば、私がすべて屠っておこう。なに、私は眠らずとも問題ない体質なのでな」

「分かりました、お任せします」

「ああ、任せておけ」

「……潜られるのですね」


 嫌なのは分かるんだけど、やっぱりここが隠れ場所として一番良いんだよ。


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