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偽善者と暗躍の日々 十八月目

偽善者と東の島国 その09

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 お嬢様は西の都である『西京』と、東の都である『東都』を繋ぐ家系なんだとか。
 代々優れたお家に仕え、力を貸していたから蝙蝠呼ばれされることもなく、それぞれの陣営に信頼されているようだ。

 本来はその調停役として、東と西の間くらいの領土に居るらしいのだが……今回、こちらへ来たのは何か問題があるから。

 そしてそれを厄介者扱いされ、騒動が起きて現状に至った。


「──と、いうわけか」

「は、はいぃぃ!」

「そうか……状況提供、ご苦労様だ。もう解放してやろう」

「ごふぅ!」


 そんな事情を知っていた男を腹パンで気絶させ、路地裏に放置する。
 東側から送られてきた密偵なのだが、まだ新人だったためすぐに情報が訊きだせた。


「やれやれ、上司も来てはくれないか? 早く来てくれないと、この者がいつまでも寝ていることになるぞ」

「──なぜ分かった」

「簡単な話だ。単独で動けるほど、コイツは優れていないではないか」

「……なるほど、誘きだされたわけか」


 影から現れる忍装束の男。
 男は一瞬で影へ新人忍者を引き込んで回収すると、再び影へ逃げようとする。


「そうツンケンとしないでくれ。同じく主のために働く者として、互いに情報共有でもしないか?」

「世迷言を。我らが末端に手を出した者に、語ることなどない」

「そうか……なら、仕方ないな」


 トントンとステップを刻むように、足を鳴らしていく。

 その動作を不可解に思う男だが、そう思った時点で逃げていなかったため……これ以上のことは何もできない。


「なっ……!」

「新人はこちらで回収しておこう。そちらとの交渉に使いたいからな」

「私の影に、干渉してきただと?」

「その程度、今でも可能だ。だが、もう少し解析が必要なんだ。ぜひとも、情報提供をしていただこうか」


 新人も少しだけ『術』の一種、『忍術』を使用してくれたのだが……自身の肉体に作用する術しか使えなかったため、まったくと言えるほどに解析ができていない。

 だが、目の前の男は先ほど確実に外へ干渉する忍術を使っていた。

 影を操り、中を人間が入っていられる空間に改変する術……影魔法と似ているが、どこかしら魔力の運用方法が異なっている。


「くっ──忍術“影縛りカゲシバリ”!」

「ほぉ──“影拘束シャドウバインド”」


 面白そうなので申請した影魔法を行使し、似たような魔法で拘束を迎撃する。
 あえて似たような技を使用することで、その差異を洗いだそうというわけだ。


「……なぜ、印を結ばずに使えている」

「なるほど、術には特定の動作が必要となるのか。その代わり魔法のように術式構成が複雑ではなく、動作そのものが運用を勝手に整えてくれると──“影縛り”」

「貴様……っ!」

「ふむ。視たモノであれば再現可能だ。もっと見せてほしい……さて、どう呼ぶべきか」


 魔術に魔法に魔導、そして『術』に忍術。
 なんだか多様になってきた魔力運用法の総称について、なんとなく思考したくなる。

 やっぱりイメージって大事だし、纏まってるとスッキリするよな。


「調子に乗るな──忍術“影檻カゲオリ”!」

「魔力の理だから『魔理』? いや、やはりここは単純に魔の力で『魔力』か? しかしそれでは魔力との違いが分からなくなってしまう……(──“影手シャドウハンド”)」

「なっ、なぜ動かせない」

「そうなると、ここは武技の名前を使わせてもらうのが一番か? ──『魔技』、なんだか訴えられそうな名前だが……一番しっくりくるから仕方ないか」


 思考詠唱で“影檻”なる忍術を無効化。
 俺の使った“影手”とは、影から手を生みだして自在に操るというモノ。
 当然、影に干渉することもできるため、巨大化させた手で影をすべて塞いでいるのだ。

 そんなこんなで名前は『魔技』となった。
 まあ、武術の技が『武技』なんだし、今さらといえば今さらな感じが凄いが……とにかくこれで、俺のテンションも上がったな。


「では、こちらから──“影檻シャドウジェイル”」

「忍術“影潜りカゲモグリ”」

「逃がさん──“影吐きシャドウドロップ”」

「なぜだっ、なぜそんなことができる!?」


 影魔法が影に干渉する魔法なので、その対策を用意するのは当然だと思う。
 具体的には、影の中に入っているモノすべてを強制的に排出させるというものだ。

 ちなみに、血魔法や空間魔法の収納系にも使える魔法を開発してある。
 ただ、排出させる場所を考えておかなければ、出てくるアイテムに呑み込まれてそのまま死ぬかもしれないけどさ。

 そんな影から排出された男は、先にセットしておいた“影檻”によって拘束される。
 下には“影手”が敷かれているため、これ以上影に干渉して脱出することはできない。


「さて、これで囚われの身。かと言って、情報の提供などしてはくれないだろう」

「…………」

「当然の反応だ。故に私がこれから行うことも、当然の作業と呼べるかな?」

「……尋問でもする気か?」


 まあ、ある意味そうなんだろう。
 捕まえた間者を相手にすることと言えば、やはり何らかの方法で情報を提供させるというモノだ。


「だが残念だったな。先ほどの戦闘で分かっていると思うが、私は少し異なる理を以って影を操っていた……そして、尋問もまた異国では変わった方法でされているのだよ」

「……剣か?」

「出番だ──黒鍵魔剣■■■■

『ようやくであるか……』


 登場する俺の契約魔剣。
 契約のパスを通じて現れたのは、鍵のような形状をした黒い剣。

 意思を持ったその魔剣は、久しぶりの召喚に思念を伝えてくる。


「まあ、今日は仕事だ──ちゃんと使うから安心しろ」

『……実験で呼ばれるより、マシであるな』


 うん、そっち目的が多かったからな……普段の完全解放状態なら、【強欲】で奪えば情報は丸分かりだったし。

 ──なお黒鍵魔剣の協力によって、必要な情報はバッチリ手に入りました。


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