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偽善者と暗躍の日々 十八月目

偽善者と東の島国 その08

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 護衛対象であるヤチヨお嬢様を陰ながらサポートし、生きてこの東都から脱出させるのが俺の役目だ。

 もちろん、縛りはしたままの状態で挑むため、真剣じゃないといえばそうなんだけど。


「お嬢様! ご無事で何よりです……」

「貴方たちも、よくやってくれました」

「しかし、いったい何が起きたのですか? たしかに私たちは、あの男たちの振り撒いた粉を吸った途端、体が動かなくなり……」

「それについては、また別の時に説明をしましょう。今は一刻も早く、この場所から出ることが先決かと」


 本来、護衛はそれなりに強かったらしい。
 しかしチンピラたちが持っていた謎の粉の影響で、強制的に状態異常が発生して肉体が完全に動かなくなったんだとか。

 なんだかそういう怪しい粉といえば、錬金術を悪用した一人の祈念者プレイヤーを思いだすが……クラーレたちが最初にこの島国に来たことは分かっているので、他の祈念者は間違いなくこの地に降り立っていないはずだ。

 まあ、粉に関してはチンピラから取り上げて解析しているので正体もいずれ判明する。

 眷属から習った知識だけで、どこまで分かるかは微妙だが……ギブアップして答え合わせをすればほぼ確実に答えが分かるだろう。


「ところで、あの者たちはどこへ?」

「貴方たち、どこまで覚えているの?」

「はっ? えっと、お嬢様を救おうと動こうとして、そのまま気絶させられました」
「「私たちも同様です」」


 護衛は一人だけではなく、複数人居た。
 その全員が粉に対する耐性を持っていないいうのはおかしいので、何かしら特殊な代物なのだろう。

 なお、チンピラたちは俺が処理をした。
 流血はさせたが殺したわけじゃないし、あくまで実験体としてお土産にしたわけだ。

 どんな悪人であれば、使いようはあるので殺すわけにはいかないのさ。


「そうですか……あの後、一人の男性が現れて貴方たちも含めて助けてくれました。貴方がたが動けるのも、そのお蔭です。そして、そのまま彼は立ち去りました」

「いったいどのような者なのですか、その恩人とやらは?」

「……分かりません。すでに居なくなっている者のことです、確認はできましたしそろそろ移動を始めましょう。警邏の者が来ると、少々厄介事になりそうですので」

「「「ハッ!」」」


 そんなこんなで、彼女たちは狭い細道から大通りへと出ることになる。
 ホッとする護衛たち、しかしすぐに気を引き締めて警戒態勢に入る辺りはグッドだ。

 お嬢様も同様に、少しばかりキョロキョロとしてからそっと右耳に触れだす。
 まるで誰かにバレていないかと、不安になりながらすることとは──


《聞こえていますか?》

《ああ、いったい何のようだ?》


 ──俺との連絡であった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 実際には耳とは関係なく、透明な髪飾りを介して連絡を行っているのだが……なんだか昔の人らしく、連絡は耳元でという認識が有るみたいなんだよな。

 最初に説明した時も、意味が分からないといった表情をしていたものだ。

 実際に使わせて、それでもなおそういう解釈をしているが……それ以上説明する義理も無かったからな。


《これからの予定を伝えておこうかと》

《聞いておこうか》

《はい。このあと、宿で一泊したのちに東都城へ向かうことになります。もともとそういう話でしたので……もしかしたら、今回の事件もそれに関係しているのかと》

《了承した。宿に居る間は護衛だけでもどうにかなるだろう。その間に、こちらで独自の調査を行っておく。分かった情報は貴殿へ流した方がよいか?》


 宿という一つの地点に泊まるのであれば、固定式の結界でも構築しておけば侵入者を拒絶することができるだろう。

 そして、その内部を護衛たちが守る……これで彼らにも役割を与えられるな。


《しかし、情報などどうやって……》

《あの男たちから情報を奪ってある。宿には防御態勢を敷いておくので、あまり外から出ないようにしておけ》

《分かりました》


 お嬢様たちはそのまま宿へ向かった。
 途中で刺客が現れるようなこともなく、結界装置も問題なく発動できたので、俺はとある場所から抜け出して動きだす。


「きゃぁっ!」

「……声を出してはバレてしまうぞ」

「も、申し訳ありません。ですが……その、この現れ方はどうにかなりませんか?」

「安心しろ。私に貴殿を覗き見るような趣味は無い。もう少し大人になってから、そうしたことを気にするのだな」


 むっとするお嬢様だが、どうにか耐えて表情筋を整えた後に話を続ける。


「そういったことを申しているのではありません。その……衣服を脱ぐ場所では、出てもらいたいのに、そのような現れ方では出てもらいづらいではありませんか」

「案ずるな。さすがにうら若き乙女を観察するような悪癖は無い。そうだな、唯一の男が居た場所に移動しておこう。連絡に関しては先に渡した物を使えばよい、これで問題なかろう?」

「……あの、と、殿方を覗く趣味が!?」

「無い。それより、そろそろ私は向かう。結界は作動しているが、それすらも乗り越えるモノとなるとあの護衛たちでは防ぐことなどできないだろう。そうなったら、すぐに連絡するのだな」


 そう伝え、俺は宿から出て暗躍を始める。
 必要な情報を掻き集め、お嬢様が今後の活動において優位に立てるように……。


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