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偽善者と暗躍の日々 十八月目
偽善者と東の島国 その06
しおりを挟むどうやら眷属たちは俺との小旅行相手を決めるため、激しい闘争をしたらしい。
参加していなかった傍観者の一人がタレコミをしてくれたので分かったことだが、そこまでして争うことだろうか?
そりゃあ別の大陸をいっしょに巡ろうとか誘っていたこともあるし、責任の一部が俺にもあるかもしれないが……俺が定めた俺自身の価値からすれば、俺とのデートとは美少女や美女たちが奪い合うモノではない。
「──ふふっ、旦那様とのデートですね」
「おめでとう、フィレル。参考程度に訊いておきたいんだが、どうやって優勝した?」
そんな美姫たちの頂点に立ち、正直価値などさほど感じないモブとのデート権を勝ち得たのは、瞳のように薄っすらと頬を紅潮させている吸血鬼と龍のハーフお姫様だった。
周りの者には見えないようにしてあるが、現在は太陽と月の模様が入った着物を着こんだ和装美女状態だ。
日本人ではありえない薄黄色の髪とのマッチだが……まあ、美人は何を着ても最高に感じられるよな。
「旦那様の血を使わせていただきました……それで、その……あのですね……」
「分かった。血液は流しておく」
「あ、ありがとうございます」
要するに、デートの間は血液飲み放題状態にしておけばいい。
魔力の質を変えたり因子を注入すれば、いくらでも味を変えられる……我ながらおかしな肉体を手に入れたものだよ。
「さて、フィレルはどんなとこに行ってみたいんだ? いちおう巡っておいたから、男らしくエスコートでもしてみるよ」
「そうですね……では、あの娘が喜ぶような小物を揃えているお店を案内していただけないでしょうか?」
「アイリスにか? まあ、そっちもバッチリ調べてあるから構わないが……」
スロートでも思ったが、お土産品は一度俺が見てから再現した方が品質がよくなるんだから必要ないよな。
だが、そういう場所で買うからこそのお土産であり、溜まった金の消費もできる。
「ただ、文明が異なるから必ずしもアイリスが喜ぶとは分からないぞ?」
「とりあえずで構いません。旦那様、まずはいっしょに歩いてみましょう」
「……そうだな。それじゃあ、さっそく行ってみようか」
「はい!」
そんなこんなで、徒歩数分ほどの時間ではあるが腕を組んで移動する。
とても楽しそうなフィレルの表情は、もし観られていたら周りが男女問わずに失神してしまいそうなほど、可憐で美しい。
日本でも江戸時代頃から庶民文化の発達によって、今の『お土産』という概念が定着し始めている。
ただ、当時はさすがに食べ物は長持ちできなかったため、それ以外の系統のお土産だ。
「どういった物が喜ばれるでしょうか?」
「フィレルのお土産なら、どんな物でも喜んでくれると思うがな。けどそうだな、問題は日本風のお土産をどう思うかだな。嬉しがるか、寂しがるか……どっちだと思う?」
「喜んでくれると思います。あの娘は過去を振り返るより、今を生きていますし」
「それもそうか。なら、こういう物とか懐かしいとか思ってくれるかもな」
俺とアイリスは異なる地球──平行世界の生まれなので、実際に見せた物がお土産の定番だったかどうかは分からない。
だがまあ、とりあえず試すだけ試してみるということで……それを見せてみた。
「女の子のお土産としてはどうなんでしょうか? ティンスさんなどであれば、たしかに何かしらの反応を示しそうですが……」
「まあ、うん、そうなんだけどさ。少なくとも俺の世界の男子は、旅行先でこういうのを買っていたんだよ」
「女子はどうなさっていたのですか?」
「……たしか、化粧品とかだったか? まだ子供だからあんまり高い物は無理だが、香水とか匂い袋、あとは髪留めとかを買う奴も居た気がするな」
あんまり覚えていないが、傍から見た女子たちはそんな感じでキャピキャピしながらお土産を選んでいた気がする。
どうでもよかったのだが、否が応でも視界に入ってしまったんだよな……。
「まあ、その経験もこうして役に立っているならいいんだけど」
「どうかされましたか?」
「いや、なんでもない。とりあえず俺はフィレルの引き立て役として、無難なお土産でも選んでおこう」
「では、私はそれに負けないよう、喜んでもらえるお土産を選んでみます」
ふんすっと、やる気に溢れるフィレル。
なお、彼女の口からチラリと見える鋭い犬歯には、先ほど俺から吸い上げた真っ赤な血が少しだけ残っていた。
◆ □ ◆ □ ◆
フィレルはとても満足して、俺の購入した物を含めてお土産を持って帰ってくれた。
ついでに何度も味を変えた血をブレンドしたうえで、時空魔法で熟成してから飲む……なんてこともしてたよ。
そして再び単独行動となり、フィレルと歩いている間に気になった地点へ向かうことを決め、こっそりと移動を始めた。
今回は密偵風のスキル縛りをしており、行動音は現在すべてが無音となっている。
「──あ、あなたはいったい……」
「名乗るほどの者ではない。それより、怪我はないか?」
「は、はい。少し擦りむいただけです。ここから動くことに支障はありません」
「そうか……ならば動くな」
そうして音が無くなったため、俺が刀を抜く動作すらもいっさい音を鳴らさない。
突然それを行ったため、その場に居る者は動揺を隠しきれずにいる。
「あ、あなたは……いったい」
「先ほども言ったはずだ。名乗るほどの者ではないと」
先ほどとは異なる声音で、警戒するように俺に名を尋ねてきた。
だが、その答えは変わらない──目的を達成するため、俺は刀を振るっていく。
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