1,199 / 2,519
偽善者と暗躍の日々 十八月目
偽善者と東の島国 その02
しおりを挟むこの東の大陸……というより島国の名前は『井島』であり『イートウ』である。
前者はこの島国に住む者から訊き、後者は本で読んだときに記されていたものだ。
まあ、そんな井島はどうやら騒動に巻き込まれているようだ。
訪れた少女たちは人々の依頼を達成し、少しずつ信用を勝ち得ていく。
「──へい、お待ち!」
「うわぁ、ありがとうお姉ちゃん!」
「ふふーん、お代わりならまだまだたっぷりあるからね。銭貨3枚で交換するよ」
ただ、この世界は通常のゲームのように定められた理に従う必要はない。
彼らの信頼や信用を得る方法は、別に一つではない……そもそも現実でもできることができない方が、おかしいだろう。
「お嬢ちゃん、料理が上手いんだねぇ」
「あははっ、味が旨いことも保証するから安心してね」
「ぷはっ! おうおう、こりゃあ一本取られちまったな!」
「お代わりは皿を盛って来てくれたら安くするからね──はい、一丁上がり!」
洒落に洒落を返し、器を差しだす。
中には海で獲れる魚をふんだんに使ったあら汁が注がれている。
米を取りに来たというのが目的なので、同じく味噌などが使えないための苦肉の策だ。
だが、俺は【生産神】に就いていたこともある男(現在無職)で、生産神の加護を賜った者だ(別の神から呪縛も)。
たとえ大雑把に作った料理でも、少々貧しい人であれば満足できる一品を作れる。
「さぁさぁ、どんどんじゃんじゃん作っていくからね! 無くならないようにたっぷりあるから、お代わりが欲しい人は何度でも並ぶがいいさ!」
『うぉおおおおー!』
「あっはっはっは……って、なんでますたーたちも並んでいるのさ?」
「……ズルいですよ。わたしだって、メルのスープが飲みたいです」
その言い方はどうかと思うが、とりあえずちゃんと並んでいた『月の乙女』一同にあら汁が入った器を提供する。
殺気立つ男嫌いのプーチですら、こういうときは大人しいんだよな。
「ますたーたちもお代わりは銭貨三枚──つまり3Y払ってね」
「全員分で18Yですね……ですが、日本円で三円分って安くありませんか?」
「私の作る料理は、あんまり材料費が掛かってないからね。これの代金って、結局私の自己満足でしかないんだよ。あとでこれのレシピは提供するつもりだし、私が欲しいのはお金というよりみんなの満足感だからね」
「メル……正直引きますよ」
まあ、タダだとありがたみが無いので適当に頭に浮かんだ3Yを要求している辺り、俺は偽善者なんだなーと思える部分だ。
決してタダじゃない、タダより高い物はないと疑われることもあるらしいし。
「まあまあ、ますたーたちもその恩恵にあやかっているんだから気にしないでよ。まだまだお代わりはあるよ──どうする?」
「……ください」
「はい、毎度ありがとうございます♪」
作り微笑を浮かべて返してもらった器に再びあら汁を注いでいく。
それを飲んだクラーレは、とてもホッとした表情を浮かべていた。
◆ □ ◆ □ ◆
交渉(胃袋)という方法を取れる者は、今回井島を訪れた中に俺しかいない。
なので俺はそのまま料理を通じてここの人たちと交流を深め、戦闘などの依頼を彼女たちが行うことになった。
……普通逆では? とか思っちゃダメだ。
人にはそれぞれ適性があるし、何より一定水準とかそういう問題を気にしないなら彼女たちもしっかりと料理が作れる。
ただ、その水準とやらを俺が過剰なまでに引き上げてしまったのが問題だった。
もともとは料理スキルをいちおう持っていた者も、俺という万能料理人が作る至高の一品たちを前に屈服してしまったのだ。
「まあ、生産班といっしょにゆっくりと生産スキルも磨いているみたいだけどね……できるだけ簡単にスキルレベルを上げられるレシピを用意しておいたけど、それでどうにかなれば…………大丈夫かな?」
ちなみに数日が経過している。
最初は警戒していた者たちも、毎日毎日香ばしい匂いを嗅がされるという拷問に耐えかね、クレームついでに料理を食べた結果次々と陥落していった。
今ではある程度値上げした俺の料理店に文句を着ける者などなく、少しでも値引こうと料理の素材を恵んでくる……なんだか俺が悪役っぽくなっている気がするが、俺が料理を決めるより、こっちの方が楽なんだよ。
「よう、メル──これでなんか作ってくれ」
「ふむふむ、どういう風に食べたいの?」
「そうだな……やっぱり焼いてくれ!」
「分かった。シンプルだけど美味い、そんな感じで調理してみるよ」
青年が釣ってきた魚をチラつかせ、ついでに銭貨を五枚並べてさっそく依頼してきた。
それを受け取ると、パパッと加護が赴くままに体を動かして内臓などを取り除く。
そして鮮度を失う前に口からS字になるように通し、塩を振りかけてから炭火で焼いていく……こういう部分でも加護が機能するため、最高のタイミングでそれぞれの作業を止めることができる。
「はい、出来上がったよ」
「うぉおお! やっぱりこれだな、もうメル無しじゃ俺はやってけねぇよ!」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、私はますたーたちに付いていく従魔みたいなものだからね。ますたーたちがここから去るなら、私も同じように去るだけだよ」
「従魔? ……ああ、式神みたいなもんだっけ? だいぶあのネーちゃんたちも信用されてきたし、米をこっちが売るまでは粘っていてくれるだろうよ」
このように、俺は『月の乙女』たちの好感度が上がるようにせっせと働いている。
そのうちお米も手に入るし、味噌とかも分けてくれるかもな。
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる