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偽善者と暗躍の日々 十八月目
偽善者と東の島国 その01
しおりを挟む東の大陸へ侵入した『月の乙女』たち。
立派な港がとっくに造られていたようなので、船をとりあえずそこへ向けて動かす。
「あっ、メル! 人が見えますよ!」
「うん、そうだね。言語ってちゃんと通じるのかな?」
「調べてあるわ。言語理解が無くともある程度会話ができるように、原型は普人だからスキルが有らずとも会話ができるようね」
「言語ってたくさんあるけど、結局共通語が使用されているからね。この世界って、バベルの塔っぽいのが崩されていないのかな?」
地球において、言語がバラバラなのはそれが原因という説があった。
それが行われなかったのか、それともそういうことを最初から建設を目論まなかったからか……共通語の存在が残っている。
そういえば……神の存在が明確にあるのだから、わざわざ神に挑んで天まで向かおうとする必要が無いんだよな。
だからこそ個々の種族ごとに言語を持ったうえで、あらゆる種族が会話できる言語があるのか。
「交渉は……誰がする? なんだか武器を揃えている気がするんだけど」
「もしかして、全装帆船を見るのは初めてなのでは? 普段見る貿易船とは異なっているので、警戒をしているのかもしれません」
「そうね……とりあえずここは、子供っぽいクラーレとメルに行ってもらいましょう」
「分かりました……って、わたしのどこが子供っぽいというのですかシガン。どこからどう見ても、わたしは大人じゃないですか」
全員で顔を見渡し、フッと息を漏らす。
クラーレが大人か……うん、自分でそう思うのは自由だからな。
たとえ現実がどうあろうと、思想の自由は否定しないさ。
そんな考えがバレたのか、プクーッと頬を膨らませるクラーレ。
そういうことをするから、俺たちの答えは皆一緒だったんだけどな。
「~~~、もういいです! メル、早く行きましょう!」
「わ、分かったますたー」
「見ていてください。この大人なわたしが完璧な交渉をしてきますので!」
『プフッ!』
さらに笑う一同に、もっと頬を膨らませて怒りを表すクラーレ。
俺も笑いそうだったが、{感情}はいつも平常運転なため、表情筋を整えるだけでそうは見えないようにすることができる。
「それじゃあますたー、ちょっと揺れるけど我慢してね」
「分かりました」
「──“飛行”」
合図という意味合いもあるので、口頭で発動させた魔法で俺たちは船よりも先に東の大陸へ上陸する。
そんな俺たちを見て、最大限警戒をするそちらの島国の人々。
「な、何者だ!」
「初めまして、わたしたちは向こう側の大陸から来ました。代表者の方は居ませんか?」
「……少し待て。だが、少しでも変なことをすれば容赦はしない」
「はい」
こちらへ向けて刀を構えていた男は、そう言ってからどこかへ走っていく。
しかしやっぱり、米があるこの大陸には刀や袴みたいな物があるんだな。
それと、クラーレの交渉術(初級レベル)でもちゃんと会話ができている。
たしかにこちらから運ばれた物資がアチラ側にあるぐらいだし、経験があるのか。
そんなことを考えていると、着物を着た少年がこちらへ近づいてくる。
「な、なぁお前」
「ん、どうしたの?」
「さっきの術はお前がやったのか?」
「術? ……ああ、魔法のことね! うん、私がやったんだよ」
ここでは魔法という概念はあまり通じず、『術』と総称されると何かしらの本で読んだことがあった。
妖術に忍術に巫術、さまざまな術を総称したものだから『術』なんだとか。
少年は瞳を輝かせ、俺を見ている。
まあ、何をさせたいのかすぐに分かるのだが……どうやら無理そうだな。
「そ、それで俺を飛ばすことを許してや──痛ッ!」
「た、大変申し訳ありません。こ、こら! 異国の方に失礼なことを!」
「ううん、気にしないで。それよりごめん、今はまだ無理みたい」
「あ、ああ。気にしてないか──痛ッ! 何すんだよ母ちゃん!」
母親に強引に頭を下げさせられ、そのまま遠くへ引き摺られる。
やはり異国の者とは、そう簡単に接触していないのかもしれない。
立派な港は、あくまでこの国から出た者を迎え入れるための物なのか。
「──待たせたようだな、この港町の奉行である『サムラ』と申す者だ」
先ほどの男が別の男を連れてきた。
他の者よりも身なりの良い、脇差を持ったちょんまげの男性である。
「クラーレです」
「メルだよ」
「『くらぁれ』に『める』だな。それで、其方らは何故にこの国を訪れた」
「わたしたちは観光を。また、この国にあると聞いたお米を手に入れたくて来ました」
「なるほど、観光と交易か。相分かった……が、しかし。見ての通り其方らをすぐに信じるわけにはいかぬのもまた事実。どうだ、少し我らの願いを訊いてはくれんか?」
信用を成果で買うわけだな。
サムラさん曰く、人々は戸惑っているだけで鎖国をしているわけではないので、別に入国そのものは許可されているようだ。
だが何かを買うのであれば、自分たちが安全であることを証明してからの方がいいとのこと……まあ、このままだと最低限の量しか買わせてもらえなさそうだし。
「其方ら以外にもあの船に居るのだろう? 船を着けることは許す故、答えを決めたら全員でここへ来てくれ」
「分かりました。行きましょう、メル」
「うん、了解」
再び“飛行”を発動させ、ゆっくりとした速度で船の甲板へ向かう。
「ふふんっ、わたしだってやればこのようにできるのですよ」
「うん、さすがますたーだね」
「あとは何をするのか、ですね。できるだけ安全な依頼であることを願いましょう」
ただ、彼女たちは全員が女のギルドだからな……舐められなければいいけど。
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