上 下
1,198 / 2,518
偽善者と暗躍の日々 十八月目

偽善者と東の島国 その01

しおりを挟む


 東の大陸へ侵入した『月の乙女』たち。
 立派な港がとっくに造られていたようなので、船をとりあえずそこへ向けて動かす。


「あっ、メル! 人が見えますよ!」

「うん、そうだね。言語ってちゃんと通じるのかな?」

「調べてあるわ。言語理解が無くともある程度会話ができるように、原型は普人だからスキルが有らずとも会話ができるようね」

「言語ってたくさんあるけど、結局共通語が使用されているからね。この世界って、バベルの塔っぽいのが崩されていないのかな?」


 地球において、言語がバラバラなのはそれが原因という説があった。
 それが行われなかったのか、それともそういうことを最初から建設を目論まなかったからか……共通語の存在が残っている。

 そういえば……神の存在が明確にあるのだから、わざわざ神に挑んで天まで向かおうとする必要が無いんだよな。

 だからこそ個々の種族ごとに言語を持ったうえで、あらゆる種族が会話できる言語があるのか。


「交渉は……誰がする? なんだか武器を揃えている気がするんだけど」

「もしかして、全装帆船シップを見るのは初めてなのでは? 普段見る貿易船とは異なっているので、警戒をしているのかもしれません」

「そうね……とりあえずここは、子供っぽいクラーレとメルに行ってもらいましょう」

「分かりました……って、わたしのどこが子供っぽいというのですかシガン。どこからどう見ても、わたしは大人じゃないですか」


 全員で顔を見渡し、フッと息を漏らす。
 クラーレが大人か……うん、自分でそう思うのは自由だからな。
 たとえ現実がどうあろうと、思想の自由は否定しないさ。

 そんな考えがバレたのか、プクーッと頬を膨らませるクラーレ。
 そういうことをするから、俺たちの答えは皆一緒だったんだけどな。


「~~~、もういいです! メル、早く行きましょう!」

「わ、分かったますたー」

「見ていてください。この大人なわたしが完璧な交渉をしてきますので!」

『プフッ!』


 さらに笑う一同に、もっと頬を膨らませて怒りを表すクラーレ。

 俺も笑いそうだったが、{感情}はいつも平常運転なため、表情筋を整えるだけでそうは見えないようにすることができる。


「それじゃあますたー、ちょっと揺れるけど我慢してね」

「分かりました」

「──“飛行フライ”」


 合図という意味合いもあるので、口頭で発動させた魔法で俺たちは船よりも先に東の大陸へ上陸する。

 そんな俺たちを見て、最大限警戒をするそちらの島国の人々。


「な、何者だ!」

「初めまして、わたしたちは向こう側の大陸から来ました。代表者の方は居ませんか?」

「……少し待て。だが、少しでも変なことをすれば容赦はしない」

「はい」


 こちらへ向けて刀を構えていた男は、そう言ってからどこかへ走っていく。
 しかしやっぱり、米があるこの大陸には刀や袴みたいな物があるんだな。

 それと、クラーレの交渉術(初級レベル)でもちゃんと会話ができている。
 たしかにこちらから運ばれた物資がアチラ側にあるぐらいだし、経験があるのか。

 そんなことを考えていると、着物を着た少年がこちらへ近づいてくる。


「な、なぁお前」

「ん、どうしたの?」

「さっきの術はお前がやったのか?」

「術? ……ああ、魔法のことね! うん、私がやったんだよ」


 ここでは魔法という概念はあまり通じず、『術』と総称されると何かしらの本で読んだことがあった。
 妖術に忍術に巫術、さまざまな術を総称したものだから『術』なんだとか。 

 少年は瞳を輝かせ、俺を見ている。
 まあ、何をさせたいのかすぐに分かるのだが……どうやら無理そうだな。


「そ、それで俺を飛ばすことを許してや──痛ッ!」

「た、大変申し訳ありません。こ、こら! 異国の方に失礼なことを!」

「ううん、気にしないで。それよりごめん、今はまだ無理みたい」

「あ、ああ。気にしてないか──痛ッ! 何すんだよ母ちゃん!」


 母親に強引に頭を下げさせられ、そのまま遠くへ引き摺られる。
 やはり異国の者とは、そう簡単に接触していないのかもしれない。

 立派な港は、あくまでこの国から出た者を迎え入れるための物なのか。


「──待たせたようだな、この港町の奉行である『サムラ』と申す者だ」


 先ほどの男が別の男を連れてきた。
 他の者よりも身なりの良い、脇差を持ったちょんまげの男性である。


「クラーレです」
「メルだよ」

「『くらぁれ』に『める』だな。それで、其方らは何故なにゆえにこの国を訪れた」

「わたしたちは観光を。また、この国にあると聞いたお米を手に入れたくて来ました」

「なるほど、観光と交易か。相分かった……が、しかし。見ての通り其方らをすぐに信じるわけにはいかぬのもまた事実。どうだ、少し我らの願いを訊いてはくれんか?」


 信用を成果で買うわけだな。
 サムラさん曰く、人々は戸惑っているだけで鎖国をしているわけではないので、別に入国そのものは許可されているようだ。

 だが何かを買うのであれば、自分たちが安全であることを証明してからの方がいいとのこと……まあ、このままだと最低限の量しか買わせてもらえなさそうだし。


「其方ら以外にもあの船に居るのだろう? 船を着けることは許す故、答えを決めたら全員でここへ来てくれ」

「分かりました。行きましょう、メル」

「うん、了解」


 再び“飛行”を発動させ、ゆっくりとした速度で船の甲板へ向かう。


「ふふんっ、わたしだってやればこのようにできるのですよ」

「うん、さすがますたーだね」

「あとは何をするのか、ですね。できるだけ安全な依頼であることを願いましょう」


 ただ、彼女たちは全員が女のギルドだからな……舐められなければいいけど。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...