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偽善者と暗躍の日々 十八月目

偽善者と奪い喰らう

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 夢現空間 修練場


 挑発したせいか、いつも以上に苛烈な魔法の攻撃を喰らうことになった。

 アルカのキレっぷりといったら……魔力を奪う“魔奪掌マジックテイカー”を使う暇を与えず、怒涛の攻撃で猛ラッシュ……って感じだったな。


「他の能力と重ねて使えば、問題なく対処できたんだろうけど……それを自在に扱えるようになった時期を考えると、併用以外の方法で対処できるようにしないと」


 今回は一定エリアごと“魔奪掌”を行使することで対処したが、次はそれすらも無効化して俺を倒そうとするだろう。

 だが、そうなるのは困る……何かしら策を講じる必要がある。


「──と、いうわけで今回もだ」

「……いや、またかよ」
「あの二人は呼ばないの?」

「あの姉弟は眷属じゃないし、どっちかが遊びに行った時に話しをしてきてほしいなーってレベルだな。とりあえず、カナタとアイリスの意見を参考にしたい」


 アルカは今回、魔力を限界まで濃縮して吸い取りづらくしたり、事象を物理現象に変換することで“魔奪掌”を封印してきた。

 ……前者なんて、アルカにしかできないレベルの魔力量を注いでいたよ。


「アルカは俺が与えた二つの装備、それに共有した魔力関係のスキルによって俺と同じくらいの魔力を持っている」

「おい、それなんてクソゲー?」

「メルスと同じって、人じゃないよね」

「いや、ちゃんと普人族のままだからな。魔力特化、そのうち種族が変質すれば何かしら異常イレギュラーなことが起きそうだけど」


 普人族に進化は無いが、変化はできる。
 そうでないとアンデッドになれないし、たとえ祈念者プレイヤーであろうと性質的に転生などが行えなくなってしまう。

 アルカの場合、引き金トリガーは魔力量だ。
 通常、人族が持てる量をコップ一杯分、魔力に優れた種族が持てる量を浴槽一杯分だとして……彼女は大都市で一日に消費される水のすべてと同等の魔力を持っている。

 まだ使えないようだが、魔導であろうと何発も放てるだけの魔力量だ。
 あくまで眷属の補正が無い場合の俺と同じぐらいの魔力量だが、それでも傍から見れば異常なほど魔力が肉体の中に宿っている。

 故に彼女が強く願えば、器はそれに応え変質することでその願いを叶えていく。

 間違いなく、魔力特化の種族に……今以上になるってことだから、眷属補正を受けないと勝てなくなるな。


「さて、ここでおさらいだ。そんな魔力チートの化け物であるアルカに勝つため、俺はいつも“魔奪掌”を使っている」


 実験用に小さな魔力の球を生成し、それに触れて“魔奪掌”を発動する。

 すると術式も何も内包されていない魔力の塊は、糸のように解けて俺の差しだした手を介して吸収されていく。


「魔法でも魔術でも、あと弱いものであれば魔導でも吸収可能だ。また、呪いでも支援効果でも、魔力によって維持されているのなら無効化することができるな。スキルもいちおう、魔力を使っていれば取り込める」

「【強欲グリード】の能力なんだっけ? 吸収ってことは、その取り込んだヤツは模倣コピーできてるってことか?」

「そうだ。適正はともかく、模倣してしまえば【強欲】を介してその技を同等かそれ以下の効果で発揮できる。あくまで奪ったモノだから、自分のモノにしたいならスキルとして魔法スキルかそのものを取る必要があるぞ」


 これは他の“○奪掌”も同じだ。
 奪ったのであって、持ち主以上のことは決してできない。

 魂だろうと記憶だろうと、持っているだけでは真価を発揮できないわけだ。


「あと、今は関係ないが【暴食グラトニー】にも似た感じで“魔喰牙マジックイーター”ってのがある。これは奪うというより削り取るって感じで、俺の魔力さえ足りればどういう魔力の使い方でも、確実に喰らうことができるぞ」

「奪うのと削り取ることの違いは?」

「前者は取り込むから、回復ができる。後者は変換とかしないで格納するだけだからただ減るだけ。要するに、対処できるものは奪った方がいいけど、どうしようもない攻撃なら喰らった方がいいってことだ」


 まあ、変換しないで取り込むので、解析するのであればこちらの方が使い勝手がいい。
 かつてレミルを保存しておいたのも、こちらだったからな。


「便利な能力にも、ちゃんとデメリットが設定されているんだね」

「使い分けが大切ってことだな。けどさぁ、ならその【暴食】のヤツを使えば、アルカってヤツの魔法もどうにかできただろぉ? どういう攻撃でも喰えるんだからさ」


 まあ、たしかにその通りだ。
 自前の固有スキル【思考詠唱】によって、一度に発動する魔法の数が異常なアルカ……だが使っているのは魔力だけなので、気を混ぜた攻撃などは心配しなくともよい。


「そこはアレだ──男のロマンだ!」

「止めちまえ、そんなもん!」

「ひどっ! なんだよなんだよ、そういう捨てちゃいけないものを捨てちまうから、お前は棒も玉も失うんだよ!」

「……ほぉ、喧嘩が売りたかったんならもっと早く言ってくれよ。表出ろやコラぁ、俺の本気を見せてやるよ!」


 男のロマンを否定された……前に船について話した時は乗ってくれたのに、今回否定されたからこそ少々煽ってしまう。

 まあ、ここら辺は男子のノリだろう……少なくとも、俺はそう思っている。


「だいたい、普段から球も棒も外して幼女になってるテメェに言われたかねぇよ! ていうか着脱式な分、テメェの方が業が深ぇってことを自覚しやがれ!」

「んだとこの野郎! ……っと悪い悪い、今のお前は野郎じゃなかったな」

「なんだとー!」

「あはっ、あはははっ!」


 そんな俺たちのやり取りを、アイリスはただ苦しそうにお腹を抱えて笑いながら見守っていた。

 何がそこまで面白いのだろうか? まあ、同レベルの喧嘩だからか。


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