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偽善者と暗躍の日々 十八月目
偽善者と柔軟体躯
しおりを挟む始まりの町 ギルドハウス『ユニーク』
定時報告を確認するため、いつも通りギルドハウスを訪れて情報を受け取る。
また、同様に安全確認もしっかりと済ませて……よし、今日は大丈夫みたいだ。
「……そこまで心配するか?」
「なら訊くが、お前らの中で暴走したアイツの動きを止められる奴は何人いる?」
「…………注意した方がよさそうだな」
そう、最近は魔法で近接戦闘も斥候もできるようになってきており、その万能性を高めている祈念者最強の魔法使い──アルカ。
彼女の襲撃を受けないよう、できるだけログイン時間ではないタイミングに来ている。
「さぁ、ナックル。資料を寄越せ」
「分かっている──アヤメ」
「はい、こちらとなります」
「ありがとさんって……いや、このボケを毎度挟む必要ってあるのか?」
迷宮に関する嘆願書。
死なない祈念者を迷宮に送り、DPを得る代わりに宝箱の中身を提供してくれ……要するに、迷宮で遊びたいから行ける所を増やしてくれってことだな。
普通ならもっと裏のある話なのだが、ナックルにはそういった意図など存在しない。
ドキドキワクワクが溢れる世界で、ただ重みを忘れて遊んでいたいだけなのだ。
「九割本気なんだがな。さて、アヤメ──」
「いつも申し訳ありません」
「いや、いいんだけどさ…………大陸ごとに異なるルールか。遠征組は大変そうだな」
「だが、それもアイツらが望んだことだ。誰も知らない場所へ向かい、未体験のことをする。そのチャンスを貰えたんだから、志願した奴らも満足だろうよ」
赤色の世界にもそういった理が存在する。
火属性のスキルに若干の補正が入ったり、水を火で燃やすことができるなどだ。
色ごとにそういう理があるのであれば解析することで、属性ごとに有利な空間の構築などができるかもしれないな。
「その大陸に、俺が要求した情報は?」
「……まだ、報告は無いな。現場が隠しているという可能性もあるにはあるが、少なくとも俺は信じたくない」
「お前がそう言うなら、俺もそこまで疑う気はない。その気になればあの船の座標を読み取って、俺自身が直接別の大陸まで乗り込むことができる」
「転位でも魔力が膨大すぎて、簡単にできることじゃないんだがな……まあ、お前だってことですべてに理由が付くか」
遠征組と呼んでいる祈念者が帰れるのは、船に設置した転移魔法陣が発動できる魔力が溜まってからだ。
船という乗り物に直接移動するため、座標が変えられる『転移』である必要があった。
拠点を作成した場所には、『転位』で向かえるんだけどな……こっちのギルドにも繋げなければいけないので、一度は『転移』をする必要があるんだよ。
「──見つけたわよ!」
突然聞こえた少女の声。
だが俺たちは驚くことなく、アヤメさんが用意してくれていた飲み物を啜る。
「……美味いな、これ。アヤメさん、これは何が材料なんだ?」
「よろしければレシピを提供しますが?」
「なら、俺の方も飲み物のレシピを──」
「ちょっと、こっちを向きなさいよ!」
いつの間にか後ろに来ていた彼女は、俺の首を掴み、身体強化で高められた攻撃力を使い──強引に自分の方を向かせる。
ゴキッ! と痛々しい音がしたからか、最後に映った二人の顔はとても引いていた。
そして代わりに視界に入ってくるのは──金髪ツインテールであり、澄んだ天色の瞳を持つ王道ツンドラ(デレない)少女だ。
「よう、アルカ。俺じゃなかったらもう死んでるだろ、これ」
「あんただからやったのよ。それより……どうやって生きてるの、それ?」
首が半周しているのに生きている。
映画だったら確実にホラーものとして認定されそうな光景だが……ここは異世界で、それを可能とする技が存在するからな。
「軟体スキルがあるんだ。よかったらアルカも習得してみるか?」
「絶対に嫌よ」
「即答か。柔軟さを上げた方が、指だけで魔法陣を描く時とか楽なんだけどな」
「……。ッ! 危ない、人としての一線を超えるところだったわ。残念だったわね、私は人としてあんたを超えてやるんだから!」
どうやら人外認定されているようです。
ゴキリと首を戻して先ほどまで話していた二人に確認してみるが……頷いている辺り、彼らもまた俺を人外として見ているようだ。
「というわけで、これから勝負しなさい!」
「……“魔奪掌”、使っていい?」
「ダメよ。不服だけど、それを使われると絶対に私が負けるじゃない。その能力を無効化する魔法の開発もしているから、待ってなさいよ!」
「待ってていいなら、それまでこういう戦いも無しにするってことで……どうだ?」
当然ながら、そんな答えはスルーされる。
彼女にとって俺は不倶戴天の敵であり、越えなければいけない祈念者最強の存在。
俺もそれを否定しないし、むしろ超えてくれるのであれば超えてほしい。
もちろん、眷属に助力を願っている時は完膚なきまでに叩きのめすけど。
だが『眷属の主』ではなく『俺』を倒すのならば、こちらも全力で協力する。
「ほら、さっさと行くわよ!」
「いやー、おーかーさーれーるーーー!!」
「なっ! だ、誰がそんなことを!」
「アルカに、アルカに殺られるー!」
うん、嘘は言っていないさ。
俺は(自由を)侵され、殺されるからな。
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