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偽善者と還る理 十七月目
偽善者と自己紹介 その31
しおりを挟む夢現空間 居間
ウィーと『赤王』と『赤帝』云々の話は忘れて、自堕落にコタツの中へ引き籠もる。
今回のゲストもまた、そうして寝っ転がると行儀悪くミカン(モドキ)を食べていた。
「こういうとき、テレビが欲しいよな」
「映像が見たいなら、そこの魔道具でも付ければいいだろ」
「おいおい、風情がねぇなぁ。寝っ転がって手を伸ばし、手の届く範囲に置いておいたリモコンのボタンを押すまでがコタツの定番だろぉがよぉ」
「……なら、仕方が無いか」
普段はやらないほど集中して、<千思万考>で使える思考リソースをすべて使う。
そしてイメージする、機械構造から何まであらゆる部分を解析し尽くした──機械を。
「──はい、テレビ。あっ、リモコンもな」
「いや、チートすぎだろ……」
「結構疲れるんだぞ。アレで説明するなら、『投影六拍』全部やってんだからな。作ったのは俺本人だから、それなりに過程は省略してるけど」
「創造を一個人でやってる時点で、お前の詭弁は受け入れねぇ」
そう言いつつ、しっかりとリモコンを受け取っている辺り、素直である。
ボタンをポチッと押すと、当然のように映像が映る……もちろん、配線も何もしていないので、普通は映らないのだが──
「……おい、これなんだよ」
「コアさんが用意した、お前の傑作選。ついでだから、映像の魔道具をディスクにして取り込んでおいた」
「だから、無駄にチートしてんじゃねぇ!」
別に二人が百合百合しているシーンが放映されているわけじゃなく、ただ地味に恥ずかしいシーンの傑作選なだけだ。
パンチラだの真っ赤な顔だの、それと微妙に恥ずかしい発言……コアさん、最高です!
だが、それは突然ブラックアウトする──当然ながら、ボタンはゲストが握っているので、消す権利もアチラが握っているのだ。
「も、もういいだろ、ほら、さっさと始めて終わらせるぞ!」
「はいはい、分かりましたよ」
興奮しているので、それを宥めてから咳を一回する。
意味もなく息を吸って、声高々にいつものアレを行う。
「さぁ、盛り上がってまいりましょう! 第二十九回クエッションターイム! 今回のゲストはこの方──TSカナタ君です」
「いや、説明!!」
「細かいことを気にする男は嫌われ……おっと失礼、今は少女でしたね。とにもかくにも今回は、そんな素敵なレディと共に素敵な時間を提供するぜ!」
「……お前、一度もそんなノリでやってことなかったよな? どうしたんだよ、急に」
いや、なんとなく……テンプレだと、あんまり視聴者もつまんないだろ?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「問01:あなたの名前は? あっ、こっちでの名前だけでいいからな」
「カナタだ」
「問02:性別、出身地、生年月日は? ほらほら、さっさと言えよ」
「……いちいち煽んなよ。女で、日本で、建和4年の8月5日……これでいいんだろ?」
「なお、前にも言いましたが建和とはカナタの世界での元号のことです。予め、ご了承ください。ちなみにこの世界に来て何年だ?」
「えーっと、90年と数年だったな。細かいことはコアに訊いてくれ」
「問03:自分の身体特徴を描写してください」
「褐色の肌と白髪、あと鸚緑色の眼。あとは普通にエルフなアバターだな」
「ロリボディを忘れんなよ」
「問04:あなたの職業は?」
「【迷宮塔主】だ。この世界の職業システムに合わせるなら、【迷宮主】が塔型の迷宮で業績を出すと進化できる職業だな」
「問05:自分の性格をできるだけ客観的に描写してください」
「うーん、冷静沈着?」
「何言ってんだよ、迷宮のボスとして侵入者の行動でニマニマしていたくせに。そう言うヤツはだいたい、ムッツリなんだよ」
「誰がムッツリだよ!」
「問06:あなたの趣味、特技は?」
「ゲームだな。特にMYクラフトってゲームが好きだったな」
「問07:座右の銘は?」
「……いや、ねぇけど」
「絞れ」
「…………単純明快(適当)」
「問08:自分の長所・短所は?」
「長所は迷宮を自在に造れること、短所は接近戦がやれないこと」
「長所じゃないけど……まあ、いいや。長所は無し、短所はコアさんに訊くってことで」
「おい、ふざけ──(以下省略)」
「問09:好き・嫌いなもの/ことは?」
「好きなものは俺の迷宮、嫌いなものはそんな迷宮をあっさり踏破した奴」
「問10:ストレスの解消法は?」
「迷宮を弄る」
「問11:尊敬している人は?」
「尊敬しているのは……ア、アイリスだな。アイツの迷宮、動かそうと考えている奴は居ても実際に動かせたのはアイツだけなんだ」
「問12:何かこだわりがあるもの/ことがあるならどうぞ」
「そりゃあもちろん、迷宮だ」
「あのスライムとかか?」
「違ぇよ! こう、難易度は高ぇけどギリギリクリアできる範囲にしてあんだよ……だから、アイツらに踏破されかけたんだけど」
「問13:この世で一番大切なものは?」
「昔は迷宮だったけど……今はコアだな。支えてくれた、大切なパートナーだからな」
「ある意味どっちも同義だけどな」
「けどまあ……どんなことがあっても、今では相棒だよ」
「問14:あなたの信念は?」
「そうだな……コアが破壊されない、究極の迷宮を造ることだな。攻略はされてもいいけど、絶対に踏破はされねぇ。それが信念だ」
「問15:癖があったら教えてください」
「だいたいのことを迷宮とセットで考えようとすることだな。これはコアに言われた」
「問16:ボケですか? ツッコミですか?」
「当然、「ボケ」コミに決まってんだろ……被せんな!」
「問17:一番嬉しかったことは?」
「異世界転移をした、そう実感した瞬間だ。平凡な時間から脱出できたと思ったんだぞ」
「そして、自分の体に興奮したと」
「…………し、してねぇよ!」
「問18:一番困ったことは?」
「この体だよ。なあメルス、男にできないのかよ?」
「できるけどやらねぇだけだよ。本気で男に戻りたいって思ってるなら別だけどな」
「問19:お酒、飲めますか? また、もし好きなお酒の銘柄があればそれもどうぞ」
「酒は飲まねぇな。ノンアルなら飲むけど、それも甘酒だし」
「甘酒ってアルコール入ってるぞ」
「マジで!?」
「問20:自分を動物に例えると?」
「猿。これならいちいち何色とか気にしなくていいだろ?」
「問21:あだ名、もしくは『陰で自分はこう呼ばれてるらしい』というのがあればどうぞ」
「……お前がTSロリダークエルフって言ってんのなら知ってるぞ」
「ついでに言えば、ネカマ黒エルフってアイリスに比喩ったことがあるぞ」
「て、テメェ──!」
(しばらくお待ちください)
「問22:自分の中で反省しなければならない行動があればどうぞ」
「……無ぇ」
「さっきの行動だよ」
「問23:あなたの野望、もしくは夢について一言」
「お前が踏破できねぇような迷宮を、絶対に造ってやる!」
「踏破しちゃっていいのか?」
「お前はコアを壊さねぇ。分かり切ったこと訊くんじゃねぇよ」
「問24:自分の人生、どう思いますか?」
「……どうなんだろうな? 現実が嫌でゲームにのめり込んで、かと思ったら異世界でただ迷宮を強くして90数年も経って……何がしたいんだろうな?」
「俺と会うためじゃね?」
「…………」
「問25:戻ってやり直したい過去があればどうぞ」
「アバターを男にするな」
「問26:あと一週間で世界が無くなるとしたらどうしますか?」
「さっき言ってた究極の迷宮を造る。それでどうにかする」
「問27:何か悩み事はありますか?」
「全然その迷宮の構想が浮かばねぇ」
「問28:死にたいと思ったことはありますか?」
「……アバターで転移だって気づいた時、正直思った」
「問29:生まれ変わるなら何に(どんな人に)なりたい?」
「男」
「問30:理想の死に方があればどうぞ」
「まあ、コアに看取ってもらいてぇな」
「問31:何でもいいし誰にでもいいので、何か言いたいことがあればどうぞ」
「コア、余計なことは言うなよ」
「問32:最後に何か一言」
「……特に無い」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「はい、カット! ……それで、本当は何が言いたかったんだ?」
「ん? 別に、なんでもねぇよ」
「そうかそうか、なら別にいい」
「……おい、コアに訊くなよ」
人はそれを布石という。
さてさて、次が楽しみだな……。
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