1,190 / 2,519
偽善者と還る理 十七月目
偽善者と赤色の脱出 その14
しおりを挟むサランは地上に辿り着く。
風精霊を宿した羽で宙に浮き、土精霊で肉体の強度を高める。
火精霊によって自身のエネルギーを溢れさせ、水精霊の力でそれらを制御していく。
四属性の精霊を体に宿したうえで、光と闇の精霊を己が聖剣に宿す。
メルスが打ったのは人造聖剣──純粋な光属性の剣ではないため、闇精霊を宿したうえでその力を高めることができた。
「なんだか全部分かっていたみたいだけど、そういうことはあとで訊けばいいかな?」
『GURUUUU……』
「今はアレを倒す、それだけを考えよっと」
サランは激しい戦闘経験を経て、すでに能力だけであれば『勇者』に至っていた。
種族レベルは250に達し、職業も最上位のもの──限界を超える鍵を手に入れることができれば、少女はまだ強くなれる。
それを阻むのは魔に堕ちし聖なる炎龍。
女神より世界の守護を任され、その任と使命を継承し続けた竜種が一柱。
その一代にして、『赤帝』によって滅ぼされた死する屍である。
「──“紅焔閃光”!」
そんな骸に放つ初撃は、メルスに習って扱えるようにした紅焔魔法の“紅焔閃光”。
火系統のスキル全般に適性を持つサランの才覚は、一度メルスが見せた紅焔魔法を一瞬で理解し、模倣することに成功した、
『GUGYAAAAAAAAAAA!』
「来て、“精霊合身”!」
また、宿した精霊を種族としての力で抑え込むだけでなく、魔法による干渉を重ねることでより安定化させる。
そもそもメルスが開発した“精霊合身”という魔法は、妖精の精霊支配能力を参考に生みだされたものだった。
故に妖精がこの魔法を行使すれば、精霊を扱うことに意識を向ける必要が軽減する。
そして、その意識を魔力操作や近接戦闘に注ぐことで──サランの戦闘能力はより高いモノとなっていく。
また、精霊を介さずその身に直接融合したことで肉体に変化が生じる。
その一つである属性適性の追加によって、サランは身に宿していた精霊たちの属性である四属性の適性を高めていった。
「“彷徨乃霧”、“幻惑乃霧”」
『GURUU?』
「“鎖泥”、“連鎖爆発”!」
『GA、GUGUYAAAA!』
そのため、融合魔法も無詠唱で行えるほどに余裕を得られた。
魔力消費も軽く、威力も見込める──二種類の霧で己を隠し、これまでの戦闘で血に濡れた大地へ縛りつけ、爆発を引き起こす。
「まだまだ──“精霊解放”!」
サランが宣言した単語によって、人造の聖剣は光り輝く。
妖精のために打ち上げた聖剣であるが故、効果もそれに準じている──内包した精霊の力を高める、それが聖剣の力である。
「“擬聖装具”、“不回傷付”」
強化された精霊の力により、上位の魔法を発動し──聖剣へ付与していく。
破邪の力をもたらす“擬聖装具”に加え、傷の再生や修復を阻害する“不回傷付”。
サランの準備は整った。
魔法名すら唱えず風を呼び起こし、それに乗って聖炎龍へと向かっていく。
一方聖炎龍もまた、飛んでくる小さな虫を排除しようと息吹を溜めこみ──吐きだす。
「ハァアアア!」
迎撃に魔法は使わない。
これまでの戦闘で磨き上げた技術と補うように施された攻撃力へのブーストを受け、握り締めた剣を一閃。
本来の聖炎龍が放つ息吹ならばまだしも、魔に堕ちた今の骸が放つのは邪の息吹。
聖剣であるうえ、さらに魔力でその聖なる力を高められた今の一閃は──龍の息吹すらも容易く切り裂く。
『GUROOOO!?』
予想していなかったのか、そもそも矮小な者が刃向うことを考えていなかったのか。
反撃を受けた聖炎龍の骸は戸惑い、そして怒りを覚え急接近する。
──このまま喰らってくれるわ!
そう言わんばかりの眼力を籠め、龍眼の効果である威圧を掛けようとする。
「──ッ! で、でも……負けない!」
しかしサランはそれを撥ね退ける。
本人(妖精)としては魔法の補助効果だと思っているのだが……完全に彼女自身の胆力故の抵抗だった。
そもそもの話、すでにサランに施されているのは擬似的な死に戻り魔法のみ。
残りは効果があるように思えるが、ただ魔力が籠められ意味もなく回路を巡るだけで意味のない支援魔法だった。
少しずつ支援魔法を減らしていき、その状態に肉体を慣らす──最後に本来のデスペナルティを経験させ、死への恐怖を超える。
メルスの計画は成功し、サランはさらに一歩壁を越えていった。
彼女は妖精姫であり、新たに『勇者』の称号を手に入れる。
それが望んだことかどうかはともかく、万象が燃えゆく焔の世界は、再び『勇者』を取り戻す。
最初の働きは──悪しき不死者の討伐。
そして、魔に堕ちた世界の守護者の浄化であった、
◆ □ ◆ □ ◆
「──なんて、終わればいいんだが」
たしかに聖炎龍は倒された。
浄化も行われ、『勇者』は目覚める。
「そんなことをした張本人は、怒りを覚えたまま地面の中で眠っている。何をしたのかはレンに訊かないと微妙だが、いずれにせよ普通の方法じゃないだろこれは」
そう簡単に天地をひっくり返されたりしていては、迷宮とは狂った場所という考えが定着してしまう。
何か裏があり、そこに最下層で眠る奴が関わっている。
──まあ、後はウィーに任せるとしよう。
今回は『勇者』の回収だけでおしまい。
面倒なことは後回しにして……今をのびのびと生きようじゃないか。
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる