上 下
1,189 / 2,518
偽善者と還る理 十七月目

偽善者と赤色の脱出 その13

しおりを挟む


 大人げないと思った。
 容赦ないというか、子供っぽいというか。


「ねぇ、さすがに悪かったって。だからそろそろ支援魔法を掛けてくれないかな?」

「……もう言いませんか?」

「言わないよ。メルスに仲間はいるよね、同志とか……そういう人たちが」

「なんだかいろいろと含んでの発言な気がしますが……形だけでも謝っていただけたことですし──“妖精の燐祝フェアリーブレス”」


 きっと同じような振る舞いが好きな人が、メルスには居るだろう。
 話し方からメルスがこの世界の人族ではなく、別世界の人族なことは分かっている。

 そもそも妖精という種族は、からかうことが好きでこっそり人族の子供を入れ替えたりしている時期もあったらしい。
 今はやってないみたいだけど……まあ、それは置いておくとして。

 入れ替えるだけじゃなくて、森に迷い込んだ子供を精霊界に連れていくなんてこともできるのが妖精なのだ。
 あくまで隣接する世界にしか移動できないけど、だからこそ分かることがある。

 ──メルスは異世界の人族だ。

 最上位の妖精となったことで、不思議とそういうことが理解できるようになった。
 なんだかこう……アンデッドたちとの魔力の波長、その差異が分かるようになったみたいなのだ。

 そういった妖精的感覚と、メルスが語った異なる世界の話。

 それを知っている時点で、違和感があったし疑念を抱いた……私たちの世界でも知る者が少ないソレを、なぜ知っているのかと。


「ありがとう……けど、なんだか聖炎龍には勝てない気がしてきたよ」

「あればかりは仕方ありませんね。聖炎龍は本当の意味でこの世界の守護者、たとえ魔に堕ちようとその力は個人の武を超えます」

「……なら、メルス的に勝利するための方法とかはないの?」

「私自身にはありませんよ。ですが、サランさんにはそれがあります。もっとも、まだ戦闘経験が足りませんので、あまりお勧めはしませんけど」


 初めの頃だったら少しは反論をしていたかもしれないけど、それをする気力はもうとっくに失われている。

 ちゃんと訊ねれば戦い方に関するヒントもくれるので、完全な悪人でもないのだ。


「教えて。今のままじゃ、メルスが求める覚醒とやらもできないよ」

「……意見を変えることはできませんね。これまでは控えていましたが、実行すれば先ほどまでに味わっていた痛みなど忘れるほどの激痛が伴います。覚悟と逆境、この二つで窮地を乗り越えますが──よろしいですか?」

「なんだかメルスと会ってから、ずいぶんといろんな経験をしているからね。なんでもできることをやって、ここから出てやろうじゃないの!」

「……分かりました。では、さっそく始めましょう。少し準備が必要なことですので」


 そう言って、メルスは何やらむにゃむにゃと呟き始める。
 魔法の詠唱……というか、それを真似して適当に言っている気がした。


「……ねぇ、今までさんざん無詠唱で魔法を使ってたよね?」

「これは私の国に伝わる早口言葉というものです。それ自体に意味は感じられないと思いますが、まあ……準備が終わるまでの音楽代わりにしてもらいたくて行いました。さて、ちょうど準備も終わりましたよ」

「…………特に変化はないけど」

「すぐに分かりますよ。覚悟をしていてくださいね──これからサランさんを襲うのは、私への強烈な猜疑心うたがいです」


 自分に不利なことを言うメルス……その意図は分からないけど、言っておかなければいけないことがあるのかもしれない。

 それに少しだけ嫌な予感を覚えたけど、それでも私は再び戦場へ向かった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「…………」

「こうなることは分かっていました。何をしたのか……お分かりになりますか?」

「……痛みが強くなった。しかも、意識が無くなりかけても続く」

「その通りです。これまでは私の方で肩代わりしていたもの、またこちらへ戻ってくる際に消耗する活力がすべて本来のものとなりました。死地から帰る対価とは、こういったものなのですよ」


 死ぬほどの痛み、なんて言葉があった。
 だけど私が味わったのは、本当の意味でそれを長い時間味わうというものだ。

 あの感覚は……たしかにダメだった。
 最初に感じていたら──絶対に挫折していただろう。


「気怠さがあるでしょう。一時的なものですが、身体能力が低下しております。支援魔法の数で補っていくつもりですが、やはり少しずつ足りなくなっていきます」

「それを『勇者』の力でどうにかしろってこと? まだそういうことに力を発揮できるかどうかも、分からないのに」

「ふふっ、そこはカカ様に仕える使徒としての勘でしょう。仮定の話ではなく、あなたは『勇者』になれます」

「……胡散臭いよ」


 だけど少しだけ気が楽になった。
 ほとんどメルスのせいで、私がこんなことする必要もまったくない。

 訪れるのは『死』の恐怖、報酬は地上への帰還のみ。


「──すでにアンデッドを聖炎龍以外浄化したサランさんです。最後の試練を乗り越え、間違いなく『勇者』となれますよ」

「……裏を返せば、そこまで逝ってもまだ覚醒してないってことだけどね」

「だからこそ、最後の壁が険しいのです。超えてください、サランさん」


 応援を背に受け、再び戦いに挑む。
 この恐怖を乗り切って──地上に帰る!


 SIDE OUT


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...