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偽善者と還る理 十七月目
偽善者と赤色の脱出 その12
しおりを挟むあれから何度も挑み──死んで逝った。
その度にメルスから変な台詞を言われ、再び戦場へ駆り出されていく。
その大半の死因が聖炎龍だったけど、それ以外の理由で死ぬこともあった。
「くっ、強い……」
『…………』
妖精は種族として身体能力が低い。
それを補うように魔力が高いのだが、それでも素の能力値は人族に劣っている。
与えられた剣をそれでも振るい、アンデッドと化した剣士と打ち合う。
「魔法が、使えれば、勝てる、のに!」
『──“■■■”』
小さいこの体を生かして、隙を突く動きを何度も行っている。
メルスの渡してきた私用の剣──聖剣は、私の膂力でもアンデッドを簡単に切り裂くような不思議な剣なので、それで充分だった。
だけど、上位種のアンデッドにもなると、自分の意思で武技を使ったり、そもそも単純に剣技が冴え渡ったりしている。
現在戦っている相手もまた、武技を使える個体だった。
私が魔法なしで戦っているのは、魔力が切れたからでもましてや自分の意思でも無い。
メルスがせっかくだから剣を使ってほしいと、なんだか抵抗できない表情で説得してきたので仕方なく使っていた。
「ああ、もう! 武技が使えたら……」
『──“■■”』
まただ!
殺される中で憶えた軌跡を思い起こす。
剣士が振るう剣を紙一重で躱し、心臓の部分に埋め込まれた魔石を刳り貫く。
剣士は活動する動力源を失い、バタリと倒れて動かなくなる。
だけど私は剣を鞘に収めず、周囲の警戒を全力で行う。
──油断大敵、何度殺されたことか……。
「居た! なんちゃって“切斬”!」
影に潜んだ暗殺者のアンデッドに向け、死にながら学んだ剣の軌跡を喰らわせる。
相手は捨て身の特攻も行ってくるので、周囲の警戒も怠らない。
「って、あれ……?」
すると私の剣はぼんやりと光を放ち、勝手に体が動き暗殺者の肉体を真っ二つにする。
体からナニカが抜け落ちた感覚もあるのだが、そちらは本当に微々たるものだったのであまり気にならない。
「これが武技なんだ……水が無いから確認できないけど、もしかしたら剣術スキルが手に入ったのかな? ──って、しまった!」
『GUROOOOOOOOO!』
気を緩めたほんの一瞬で、アンデッドの聖炎龍──地中から現れる。
最初は空だけに注意していたのだが、今回のように地面から唐突に飛び出てくることがあった。
そしてそのまま、口の中に溜め込んだ魔力が吐きだされ……あっ──。
◆ □ ◆ □ ◆
何度も死んでいるが、それでも死の恐怖は拭えない……というか、慣れてしまってはいけないと直感が告げていた。
いつも通りメルスの小言を聴きながら、再び十層へ向かう階段の入り口で目が覚める。
「おおっ、サラン! しんでしまうとは なにごとだ! ……いやはや、お疲れ様です。今回の死因はまた聖炎龍ですか」
「……水は無い?」
「はいはい、ちゃんと用意してありますよ。水は水でも水鏡ですけど」
水でできた鏡に映った私に視線を向け、妖精の瞳が示す自身の情報を把握していく。
「剣術以外にも、いくつか武術に関する身体系スキルを習得しているようですね」
「分かってたの?」
「司祭たるもの、『勇者』の情報は把握しておりますので。ちなみに現時点での職業レベルの最大値まであと4ですね」
「……そっか、知ってたんだ」
まあ、なんとなく分かっていたけど。
妖精を超える魔力量があれば、鑑定かそれに属するスキルで看破ぐらい簡単にできるはずだし。
「また一歩、『勇者』への道を歩んでいただけたようですね。『勇者』には、あらゆる戦闘スキルに関する適性が与えられます」
「……妖精なのに?」
「こればかりは、仕方ありませんよ。それに実感しているのでは──己の肉体が最適化されていき、接近戦であろうと容易くこなせるようになっていると?」
「分かってて剣を使わせたんだ」
その通りです、とメルスは答えた。
そう悪気もなく言うのはいいんだけど……なんだか格闘術の練習がしたくなるな。
まだ習得はできてないけど、自覚して取ろうとすればイケる気がする。
「しかし、かなり使いこなしてきましたね。レベルの方がまだカンストしておりませんので、完全覚醒には至っておりません。ですがそれでも、適性に関しては先ほどの武技で分かるように覚醒を始めていますよ」
「ふーん、なら次は何をするの? 格闘術の練習をメルスでやってみる?」
「なぜそういった考えに至ったのか、とても謎ですが……それは遠慮しておきましょう。次は道中で話した通り、火系統の属性スキル習得を目指してみましょう」
「えー、生活魔法があればいいんだけど~」
ちょっとだけ、時空魔法って便利だなって思ったけど……そもそも適性があるとも思えないし、メルスみたいに魔力お化けでもないと使えない。
「火系統の魔法にも便利な魔法はございますよ。習得した暁には、そういった私オリジナルの魔法をお教えしましょう」
「オリジナルって……メルスっていろいろとおかしいよね」
「何がおかしいか分かりませんが、私が個人で開発した魔法ではありませんよ? 頼れる存在に助力を願ったのです」
「……メルスに? 嘘だ~」
うんうん、メルスに仲間が?
いったい何がどうなったら、こんな鬼畜に仲間ができるんだろうか?
なんだかこの後のメルスは、少しだけ冷たかった気がする。
怒らせちゃったみたい……ちょっとだけ、ほんのちょっぴりだけ反省してあげよう。
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