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偽善者と還る理 十七月目

偽善者と赤色の脱出 その09

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「激しい戦闘の中で、眠る『勇者』としての才を目覚めさせましょう。全力でサポートさせていただきますので、サランさんにはただ目の前にいる敵を倒すことだけ考えていただければそれで充分です」

「えっ、でもそれって狂戦士バーサーカーじゃ……」

「ご安心ください。狂う勇者と書いて狂勇者ベルセルクと読む場合もございますので」

「安心できる要素が無いよ。ねぇ、そんな作り笑いを浮かべるぐらいだったらもうちょっとマシな説得方法を考えられないの!?」


 すでに俺たちの侵入に気づいたアンデッドたちが動きだし、亜竜のゾンビに跨ってこちらへ向かってきている。

 時魔法で自分たちの周囲だけを遅くして、作戦タイムを稼いでいるのが現状だ。


「特に考えていませんね。私はカカ様に仕える者として、彼のお方の神意をこの世界に伝えることを目的としておりますので……たとえこの身が潰えようと、第二第三の私がカカ様のご意志を伝えるでしょう」

「その場合伝わるのは、あなたの遺志でしょうけどね!」

「ははっ、これは上手いこと一本取られてしまいましたね」

「全然面白くなーい!」


 そうは言っていても、何もしなければこちらに兵が来てしまうのもまた事実。
 渋々ながら、作戦を立ててそれに従うことに関しては了承してくれた。


「それで、結局本当の作戦は?」

「変わりませんよ。私が空間魔法で保護をしますので、ただひたすら敵を倒してもらいます。数は多いですが、聖属性の付与もしておきますので確実に数は減っていきます。ですのでご安心ください」

「それでどうにかなるの? 聖属性があっても、倒せなきゃ意味はないんだよ?」

「壊れない剣、不屈の心、最大限の支援……この三つが提供できるすべてです。使っていない本来の能力を使ってくださいとはいいませんよ。ただ生き残ることだけを望み、そのためにできることをしてください」


 その言葉にピクリと反応する。
 うん、何度も進化しているサランだが、その力を全然振るっていないのだ。

 あくまで初期でも使えていた妖精としての能力のみ──その先は、一度もである。


「司祭らしいことでも言いましょうか。あなたの苦悩はあなた自身のものであり、それは神に打ち明けるものではありません。神は答えを与えるのではなく、その過程を見届けるものです……選択はあなたが決めます」

「結局、自分で決めないとダメなんだ」

「与えられた選択では、必ずどこかで疑念が生まれます。人は己が正しいと思い選んだ選択であれば、たとえ間違いであったとしても決して後悔しません」

「……そうだね」


 だから俺はAFO世界に来てから、自分が正しいと思った選択しか取っていない。

 何もしなかったからと後悔するより、やって自分が間違っていたと反省できる方が……数十倍マシだと思っているから。


「分かった、行ってくる」

「……よろしいのですか?」

「うん。『勇者』だって自覚は無いし、そもそも胡散臭い話し方をするメルスにもあんまり好感が持てないけど──」

「あははっ、これはまたずいぶんと辛辣ですね──“妖精の燐祝フェアリーブレス”」


 サランへ支援魔法を施していく。
 口頭では効果の高いものを複数施し、思考詠唱で細かい微々たる補正しかない魔法を一気に掛ける。


「やっていることに嘘は無いから。だから、とりあえず信じてみる。間違っていたら私が悪かっただけだからね」

「……後悔はさせませんよ」

「うん、よろしくね」


 サラン用にカスタマイズした、楊枝ほどに小さな剣を手渡す。
 こちらは魔改造に魔改造を施した人造の聖剣を、最大まで押し縮めた逸品だ。


「準備はできましたか? この場所は私が確実に守りますので、サランさんはできるだけこちらは気にせずアンデッドを倒してください。おそらく、この場のすべてを倒し尽くすまで出口は開かれません」

迷宮ダンジョンとしてそれってどうなのかな?」

「私たちを殺せば、トントン拍子です。特に私は……まあ、気にしないでください」

「それ、あとで絶対に吐いてもらうからね。胡散臭い口調も気持ち悪いから、倒したら普通にしてよ」


 なんだか毒を吐いて来たよこの妖精。
 本当、俺の演技ってまったく褒められないよな……誰でもいいから、心の底から俺の演技を上手いと言ってほしい。

 ──カグやミントも、そこは否定するし。


「さぁ、行きなさい『勇者』よ! あなたの行いにカカ様のご加護があらんこと──」

「うるさい!」


 せっかくのお見送りの言葉を遮り、一気にサランは九層へ向かう。
 十層と九層を繋ぐ階段から世界が反転し、俺たちが居る場所がもっとも高い場所に位置し九層に入った途端にそこは空だ。

 彼女は妖精の羽を煌かせ、そこに風属性の精霊を宿して力強く羽ばたく。
 上位種の妖精は、己の肉体に妖精を宿すことでその精霊の力を扱いやすくする。


「さてさて、本当に完全スルーで行ったな。まあ対処できるって信頼されているって前向きに受け入れておくとして……司祭は司祭らしく、迷える子羊を迎え入れますか」


 信仰心も無いのに十字架を握り締め、仕草と共に魔法を放つ。
 その先には、先ほど探知して発見した竜騎士たちが……。


「──“空間断絶ティア”」


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