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偽善者と還る理 十七月目
偽善者と赤色の脱出 その08
しおりを挟む赤帝の墳墓 十九階層
二十層のボスを倒し、上を目指す。
封鎖をすれば出れなくなるだろうが、そこは迷宮の理に反してしまうため行えない。
だからこそ迷宮は、搦め手を用いて俺たちの行く手を阻んでくる。
「また、ですか……」
「上に行くのは簡単でいいんだけど……たしかに何もなさすぎて、不安になってくるよ」
「ここは石造りの迷路を模しています。それ自体は変わっていないようですが、罠や魔物の配置が異なっているようですね」
「自然発生型だけってことだね」
魔物には、罠を作成する能力を生まれながらに有している種族が存在した。
彼らの罠は自分たちで作る物なので、迷宮側でポイントを使わずとも彼らが勝手に直してくれることもある(DPで再設置も可)。
この迷宮『赤帝の墳墓』にそうした魔物が勝手に出現する召喚陣があることを、脱出するまでの道すがら確認した。
迷宮内の魔力濃度が高いため、ランク1程度の雑魚魔物よりも強い種族が出るのだ。
「ですが、彼らの罠は見抜くのも簡単ですからね。……何より、この解除法でも被害を抑えやすいので楽です」
「普通に解除できないの?」
「私は見ての通り、ただの司祭ですので。いかにカカ様と言えど、さすがにそこまでの全能性はまだございません」
「……まだ?」
唯一神として君臨したならば、そういう可能性もあるかもしれない。
少なくとも火を使う事柄であれば、万能になることは間違いなしなんだよな。
「さて、そろそろ向かいましょう。迷路なので少々面倒ですが、“地図”を行使できるサランさんが居ればどうにかなるでしょう」
「う、うん、任せて!」
「それは頼もしいです。では、先ほどと同じように──“下級精霊召喚・火”」
大量の下級火精霊を召喚し、迷宮へ解き放つ──それをサランが妖精としての能力と精霊魔法によって支配し、“目印”を刻んだうえで“地図”の媒介にする。
「地図は浮かびますか?」
「バッチリだよ」
「さすがに妨害はしてきませんね。これまで防いでしまうと、さすがに迷宮として攻略難易度が高くなってしまいます」
「そういうものなの?」
俺という初めて現れた邪魔者は消したい。
だが、迷宮の糧となる探索者が来る可能性そのものをゼロにはしたくないのだ。
探索者がやることの一つは、迷宮の地図を作成することである。
なのでそれを行えなくすれば、その迷宮は危険視されて弱い探索者が来なくなってしまう……強い奴は厄介だし避けたいのだろう。
「──要するに、時空魔法による強行突破に比べると取るに足らないという結論に至っているのでしょうね」
「たしかに、メルスのは異常だし」
「……そこまでおかしいですか?」
「うん、はっきり言って変だよ」
人間、理解できないものにはそういったタグを付けて思考を放棄する。
常識に収まった存在は天才とされ、そうでないものは化け物と称されることになる……変人という称号は、その両方なのだろう。
なぜなら『変』とは普通でないことを意味し、正にも負にも受け止められる。
天の才能でもなく、化けた物でもなく……人の身である地点に達した異常性を評し、その称号『変人』は与えられるのだ。
◆ □ ◆ □ ◆
赤帝の墳墓 九層
熱く『変』についてサランに語っている間に、階層はとうとう一桁に至った。
十層のボスに変化が無いことでなんとなく悟ってはいたが……やはり、俺は半端なく迷宮に嫌われてしまっているようだ。
「……これ、最終層じゃないよね?」
「見た感じはそのように見えますが、たしかにここは『赤帝の墳墓』九層ですよ」
「いや、でもこれ……お伽噺に出てくる邪神の復活みたいなんだけど!?」
「さすがにここまでするとは、いやはや時空魔法は恐ろしいですね」
ジト目が向けられている気がするが、自覚はしているのであえて無視する。
なお、お伽噺に関しては──ある種のプロパガンダみたいな感じなので、詳細をここで語ることはない。
ただ、光景については説明しておこう。
膨大な数の魔物が居るわけでもなく、厳しい自然環境が猛威を振るっているわけでもない……ただただ広すぎるフィールドの中を、ある者たちが巡回しているだけだ。
「あれって……アンデッドだよね?」
「はい。そして恐らくは『赤帝』に仕えていた、もしくは仕えさせられていた者たちの末路でしょう」
「けど……冒険者っぽい人も居るよね?」
「この迷宮で殺された者が、吸収されずにそのままアンデッドにされたのでしょう。意図的にそうすることで、ポイントの徴収という使い勝手のよい人形を増やしていますね」
将軍っぽいヤツもいるので、統率して自在に操れると思われる。
さすがに一番ヤバい五十層に居るヤツは来ていないようなので、俺とサランだけでもどうにかなるだろう。
「九層から一層まで、すべてを繋げていますね。これによって一層分干渉するだけで、時魔法と空間魔法も禁じてきました」
「どど、どうするの!? こ、これってピンチな状況じゃん!」
「いえいえ、策ならございますよ」
「ほ、本当!?」
それはもう瞳を輝かせている。
サランから見て、この光景は絶体絶命な状態なんだろうか。
だからこそ、この作戦を実行する意味があるんだけどさ。
「題して──『勇者』覚醒作戦です!」
「……へっ?」
まあ、想像の通りだな。
俺は何もしない、活躍するのはいつだって『勇者』の役目なのだから。
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