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偽善者と還る理 十七月目

偽善者と赤色の脱出 その04

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 再び同じことを繰り返したことによって、一気にレベルを上げたサラン。
 職業の変更をもう一度行ってもらい──現在に至る。


「……死んじゃえばいいのに」

「おや、いけませんよ。生者に向けてそのような暴言は……あなたは妖精ですよ?」

「死ぬような思いを二回も味合わせてくる相手に、同じ思いをさせたいって考えちゃダメなのかぁ……世界って、理不尽だねぇ」

「そうですね。そういった思いを晴らすためにこそ、我々カカ教はあるのですよ」


 俺がそう言うと、皮肉も通じないのかぁとため息を吐くサラン。
 いやまあ、気持ちは分からんでもないけどすべては脱出に必要なことだからな。

 時空魔法での転移がなぜかできないのだから、俺たちは自力でこの迷宮ダンジョンを突破しなければならない……単独で攻略するなら200は超えていないと正直厳しい。

 ──いや、念のためだよ念のため。


「お蔭で目的の200を超えました。これでとりあえず、肉体の強さだけであれば脱出に向けて行動できるだけの分は確保できたことでしょう……次は、妖精という種族に足りないものを補いましょうか」

「よ、妖精に足りないモノ?」

「──体力ですね」

「うぐっ……」


 妖精という存在そのものが、一般的にそういう弱さを持っているからこそ、他の分野が突出しているんだが……今回の迷宮で少しでも欠けている要素があると、命取りになりかねないので──どうにかする必要があった。


「と、いうわけで私が先ほどまでの暇な時間に作成しておいた魔道具です。これらで応急的に体力を補っておきましょう」

「……なにこれ、こんなのうちの宝物庫にも無いんだけど」

「宝物庫ですか? いえ、そういった大層な代物ではありませんよ。ただ、私には神のご加護がありますので。たとえこのような場所であろうと、この濃密な周囲の魔力を生かした作品を仕上げられるだけです」

「そ、それはそれでおかしい……けど、たしかにこれだけの効果があるなら、もしかしたら本当に……」


 妖精眼でその詳細を視たサランならば、こういう反応をしてくれると思う。

 生命力HP精神力AP、若干の攻撃力ATK耐久値VITの補正が入る装飾品の数々が、当座の間に合わせぐらいにはなるだろう。


「では、行きましょうか。おそらく道そのものはありますので」

「う、うん」


 まあ、そんなこんなで未覚醒の『勇者』を連れてこの世界でもっとも凶悪な迷宮を攻略することになった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 改めて、『赤帝の墳墓』について覚えていることを思い返す。

 この迷宮は一日単位で変遷が行われ、マッピングも何もさせてはくれない極悪難易度の迷宮……魔物レベルから、単独での攻略ならばレベル200がまず最低ライン。


「──そして、四十一層から四十九層はボスラッシュであり、五層ごとに出てきた階層守護者を相手にしなければならない……」

「ね、ねぇ……あんたはここを突破してきたはずよね? な、なのにどうして魔物がここに居るのよ!」

「あははは……この迷宮は一日経つと魔物も再配置されるのですよ」

「えぇーーー!?」


 四十九層のみ、これまでとは異なる魔物が出現する──『紅蓮禍竜カラミティクリムゾンドラゴン』という、禍々しい焔を纏った竜種ドラゴンの魔物だ。


「さて、どうしますか? 今のあなたの力を試すのに、最適な魔物だと思いますが」

「い、いきなり戦う相手じゃないと思うんだけど……か、格の差がありすぎてレベルが全然視れないよ」

「あの竜はレベル240。しかし魔に堕ちたとはいえ竜種にとっての240ですので、能力値でいえば『神鉄傀児オリハルコンゴーレム』よりもはるかに上な相手ですよ」

「こ、ここってやっぱりそんなに強い魔物が出てくる迷宮なんだ」


 サランは上に行ったことがないみたいなので、コイツと遭遇したことはなかった。

 ただ、五十層に漂う魔力濃度を視ることによって、現れる魔物の強さをある程度予測はしていたようだけど。


「では、とりあえず先ほどと同じように支援魔法は掛けておきましょう」

「! な、なーんだ、それを先に言ってよ。それならあんな奴コテンパンに倒してやるんだから!」

「では、お任せします──“魔力激強ドラスティックマジック”と“妖精燐祝フェアリーブレス”」

「よ、よーし、やってやるー!」


 なお、他の支援魔法は施さない。
 サランは自覚していないようだが、すでに支援魔法が無かろうとこの程度の相手であれば、それなりに対処できるだけの力を得ているのだから。


「──“放水アウトレット”!」


 激流が如き水が勢いよく、サランの掌から生みだされる。
 生活魔法も極めれば、通常の水魔法と同等の威力を発揮することができるのだ。

 そしてそれは人族の話。
 ただでさえ魔力の扱いに長け、そのうえ極めるほどにそれを使いこなす高レベルの妖精が放つ一撃は、災禍の焔であろうと使い方次第で消火してしまう。


「ただ、見栄えがなぁ……精霊魔法じゃなくて生活魔法で勝つって、妖精としてどうなんだろうか?」

「よっしゃー! ねぇ見た? 見たわよね、この私の活躍!」


 ……さてさて、あとは『勇者』としての覚醒が問題だな。
 どうやって解決すればいいか分からない問題だが、何をすればいいんだか。

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