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偽善者と還る理 十七月目

偽善者と赤色の脱出 その01

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『──もういい、こんな所出てってやる!』

 そう言ってから、どれだけの時が過ぎ去っているだろうか。

「ふぁあぁ~……」

 私──カレッド・サランの朝は遅い。
 日が昇らない場所だし、起こしてくれる人も居ないからこうなるのは仕方ないだろう。

 ぐっすりと熟睡したからか……ちょっとだけ嫌な夢を見たけど。

「ん~……“放水アウトレット”」

 この生活が始まってから習得した生活魔法で水を準備して、顔を洗ったり髪を整えたり喉を潤おしたり……。

 ここには精霊があんまりいないから、習得せざるを得なかっただけだけど。

「“微風ブリーズ”……あぁぁぁぁ~」

 風を起こして顔を乾かす。
 火の精霊が多かったら温めながらできたけど、ここではそう上手くもいかず、温い風しか届かない。

「ふぅ~……“清浄クリーン”」

 仕上げにこれを使えば、すべて奇麗さっぱりと拭い去れる。
 最初からこれを使えばよかったんだけど、段階を踏むと気分も整うんだよね。

「うーん~……“浮遊フロート”」

 寝ている時に床へ敷いていた布を広げて、その上に乗ってゆっくりと浮かぶ。

 本当は荷物を浮かせるための魔法だけど、私の体ぐらい・・・・・・なら布を浮かせる分の力だけでいっしょに載せられる。

「今日は何をしようかな~? 生活魔法はマスターしたし、そろそろ別の魔法の練習でもしようか」

 水を鏡代わりに映した瞳からステータスを調べてみるけど、生活魔法のレベルはたしかに最大値に達している。

 どうせなら、他の魔法みたいに次の段階があればよかったのに……。

「無魔法か空間魔法、どっちかを育ててみようかな? あれはあれで楽だって、誰かがうわさしてたし」

 たしか……そんなこと言ってたっけ?
 だいぶ前のことだからうろ覚えだけど、たぶん合っていると思う。

「じゃあさっそく──“身体強化ボディブースト”」

 これを維持し続ければ、勝手に魔法の熟練度は上がっていくんだから楽だよね。
 熟練度が上がっていけば、ついでにレベルも上がる……一石二鳥だ。

「それじゃあ、レッツゴー!」

 あとはこの場所をグルグル歩き回って、歩き疲れたらそこで寝る──それがこれまで過ごしてきた、私の一日だった。

「──おや、可愛い妖精さんですね」

 ……そう、この日までは。
 誰も来ないと思っていた領域に、ズケズケと踏み込んできた真っ赤な司祭。

 ソイツ・・・のせいで日々は大きく変貌する。

  ◆   □   ◆   □   ◆


「だ、誰!?」

「初めまして。私はメルス、カカ教に仕える敬虔な信徒です」

「……物凄く胡散臭いのはなんで?」

「この姿を見てそう思われますか」


 小さな妖精は俺に訝しむ視線を向ける。
 そしてその視線には、物凄く覚えのある魔力の波動を感じた。


「視ようとしても、見れませんよ」

「な、なんで!?」

「あらゆるものを見通す妖精の瞳でも、神の加護を受けし私を視ることはできません」


 単純な格の差だ。
 妖精が持つ妖精眼は他者のステータスを除くことができるが、さすがに神様のステータスまで覗くことはできない。

 そして、俺は神のエネルギーを操ることができる……それを隠蔽に籠めれば、な?


「妖精のお嬢さん、よければ私に名前を教えてはくださらないでしょうか?」

「……サラン」

「サランさんですか、よろしくお願いしますね。ところでサランさんは、なぜこのような場所へ?」

「別に……なんでもいいしょう」


 小さな妖精と称した彼女──サランだが、オブリよりもはるかに小さい。
 マスコットとも呼べるようなミニサイズ、見た感じでは一寸法師と同等のサイズだ。

 だからプイッと顔を背ける動作も、なんだか育成ゲーで好感度が落ちたみたいな感じの認識しか覚えられない。

 その赤い髪色とミントのように変化する瞳の色も、特殊なマスコットっぽいからな。


「では、構いません。サラン、あなたはここから出たいですか?」

「えっ、出れるの?」

「こう見えても私は、正規の方法でここまで辿り着いたのですよ? それなりに戦闘力もありますので、あなたを送り届けることは可能です」

「そう、なんだ……」


 この感じからすると、まだ『勇者』の候補だという自覚すらないみたいだ。
 まさか正解が──迷宮ダンジョンに迷い込んだ、妖精種だとは思っても居なかったな。


「ご安心ください。カカ教はその行いを以って信徒の敬虔さを証明します。救うためにお布施を要求などせず、行いそのものを己の糧とします」

「……つまり、どういうこと?」

「助けたいから助ける、それだけですよ。私自身がそう望み、誰かに手を差し伸ばしたいだけ……あなたにはありませんか? こうしたいから、その想いに従ってしがらみを超えて動いたことは」

「それは……ある、けど……」


 改めて俺の瞳を覗き込むサラン。
 真意を探っているようだが、なぜだか顔をポッと赤くしてまたすぐに顔を背けた。

 ……妖精の高すぎる魔力感知能力が、俺の保有する魔力量に酔ったのか?


「とりあえず、外に出てみませんか? 私には時空魔法が…………あれ?」

「ど、どうしたの?」

「どうやら迷宮に対策されたようで、時空魔法が使えなくなってしまいました。すぐにここから脱出という案は不可能になりました」

「えー……」


 まあ、ボス戦も発生する前に強行突破していたからな。
 さすがに迷宮の意思とやらも、我慢できなくなったんだろう。

 ──そんなこんなで、迷宮脱出作戦も俺の目的に追加されるのだった。


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