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偽善者と還る理 十七月目
偽善者と赤色の捜索 後篇
しおりを挟む火石の迷宮
名前の通り、燃える石で出来た迷宮だ。
ある程度人族の手でマッピングが済んでいるため、環境に合った対処方法さえ身に着けていれば攻略することができる。
「そしてその中を、対策もほとんどしないで入るヤツが……まあ、飲んでいるから平気だけれど」
クーラーなドリンクはいつだって、俺に清涼感をもたらしてくれる。
夏の茹だるような暑さも、マグマの燃え盛る熱気もすべて解決だ。
しかしそれでも、傍から見た俺は相当手抜きな格好で迷宮を彷徨っている。
ラフなTシャツとズボン、そして革靴……コンビニに行くような格好だ。
「偽装はしているから、問題は無いけど。そろそろアレにするべきか」
なんだか恒例になっている、赤色に染め上げた司祭服に着替える。
縛りの内容は変わらないが、ロールプレイがプラスされることで魔法が追加で使えるようになった。
「今回も武器は無しか……まあ、別に構わないけどさ」
そもそも魔法使いって、どうやって近接戦に対応するんだっけ?
創作物だと剣が使えたり、普通に近接用の魔法があるんだが……そうじゃない場合ってどうするんだ?
「さてさて、そろそろ行く……行きますか」
現れる魔物は無機質な系統のモノばかり。
基本的には傀児系が出現し、あることをしようとする侵入者を迎撃していく。
まあ、それをしなくても、ある程度奥へ行けば排除されるんだけど。
カツンカツンと音が鳴り響く。
それらは人の手によって打ち鳴らされているものであり、魔物たちの目を掻い潜って行われていることだ。
それは採掘。
火石の迷宮は壁の一部が採掘可能であり、そこから火の魔石やら火の力が籠められた鉱石などがゴロゴロと出てくる。
「付与魔法、付与魔法は要りませんか~?」
「おう、こっちにくれ! できるなら、攻撃力をあげてぇんだが……できるか?」
「はい、可能です──“攻性付与”」
「うぉおお! 力が、力が漲ってくる!」
そのため、“攻性付与”などの付与魔法が人気である。
採掘のために振るうツルハシのため、魔物と戦う前衛職のため、荷物運搬のため……筋力も強化されるので、使い勝手が良い。
迷宮の外で付与魔法を掛ける仕事は割とありふれているのだが、やはり長時間潜っている者はその効果を切らしてしまう。
そのため外に居る者より弱い効果でも、迷宮の中ならばそれなりに需要がある。
まあ、俺の場合は外でもやっていけるぐらいに効果があるんだけどさ。
それこそ、後衛職がワンパンでこの迷宮の魔物を倒せるぐらいには。
「兄ちゃん、お代はいくらだい? おっと、神官にはお布施だったっけか?」
「そうですね……銅貨三枚でしょうか?」
「……そりゃあ安すぎやしねぇか?」
「皆さまにカカ様の恩恵が届くこと。それこそが我らにとって重要なことですので」
金をいっさい貰わないというのは、外で儲けている者たちへ影響が及ぶ。
偽善者としては、気にせず施しても困らないのだが……それでもカカ教(笑)のためにお金を稼いでおいた方がいいだろう。
「おっ、マジかよ! な、ならこっちにも貰えねぇか?」
「ええ、いいですよ──“攻性付与”」
「……こ、こんなに上がんのか? 今なら余裕で竜種だって倒せそうだぜ」
「あまり長続きしませんので、お気を付けてくださいね」
短い分、安い……ただし効果は抜群。
こんな宣伝をしていたら、だいぶ儲かる気がするな。
そこまでする気はないので、一定量の付与が長続きするようにしてあるけど。
◆ □ ◆ □ ◆
赤帝の墳墓
かつての『赤王』にして、もっとも世界を支配した古の王者が造らせた深き墳墓。
眷属たちが向かったことのある『賢者』の迷宮を除けば、もっとも難易度の高い迷宮とも呼べるだろう。
「ここだけは来たくなかったな……」
すでにすべての迷宮を巡っていた。
念のため『賢者』に連絡してみたが、そもそも侵入者が一人もいないうえ、済んでいる者たちが『勇者』かどうかぐらい、姉弟のどちらでも分かることだ。
踏破自体、俺が本気でやればすぐできる。
だがそうではない……正当な方法で挑む場合、『赤王』の資格を持つ者が向かわなければならないのがこの迷宮なのだ。
「途中まではそれでも行けるから、『勇者』が居る可能性も…………ハァ」
迷宮の奥深く、通常の終点辺りで生命反応が一つだけ存在した。
仕方なく解放した探知スキルで探ってみたところ……そこでそれを発見してしまう。
「ここって、転位が使えないからな。自力で行くしかないか──“時空加速”」
戦闘は極力控え、超高速で進んでいく。
魔力濃度が高い迷宮の場合、転位のように遠くへ行く移動方法が防がれる場合が多い。
そうなったら自力で攻略し、目的の場所まで向かう必要がある。
「ふんふんふーん♪」
鼻歌雑じりに攻略する迷宮ではないが、俺が真面目に活動する方がおかしいだろう。
それが偽善ならまだしも、ただの移動にまで力を注いでやる必要などまったくない。
「よし、もうそろそろゴールだ」
詳細は省くが、“時飛ばし”で省略を続ければ五十層の迷宮もすぐに突破できる。
そうして視界の先には、巨大な扉が映り始め──『勇者』候補らしき存在も……。
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