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偽善者と還る理 十七月目
偽善者と赤色の捜索 中篇
しおりを挟む誰もいない空間。
ただ小さな珠だけが鎮座するそこで、俺は一人虚しく呟く。
「ここじゃないか……」
迷宮の中でも、あまり人に知られていない場所を中心に攻略していく。
踏破をするとどんな影響があるか分からないので、とりあえず核の地点までに『勇者』がいないかどうかを確認している。
「──“時空脱出”」
そして奥まで行ったら、時空魔法で即座に脱出している。
迷宮の中は時間の感覚も狂っているので、空間魔法では逃げ出すことができない。
そのために生みだしたのが、時空魔法として考案された“時空脱出”だ。
迷宮に設置されている脱出用の転移陣や、【迷宮主】が使える転移機能を劣化させて魔法化したモノである。
「さて、次に行くか」
今回は移動も多いということで──縛りは時魔法と空間魔法、そして時空魔法。
迷宮探知スキルが見つけた場所へ、即座に座標を把握して“空間転位”で向かう。
◆ □ ◆ □ ◆
名無しの迷宮
だいたいの迷宮は、こういった表示だ。
出てくる魔物や与えられた神の加護によって名が付くことはあるが、見つけるのが速すぎてしまった場合はそれすらもない。
「そもそも人の反応が無いんだから、多少は放置しても良い気がしてきたな」
さすがに飽きてきたというか……十個も同じレベルの迷宮だったし、もう少し難易度を上げないとやる気が湧いてこないか。
まあ、ここが探知できた名無し級の最後なので問題ないんだが。
「──“空間断絶”」
生まれたばかりといっても、防衛本能が魔物を出してくることがある。
迷宮が誕生する前から生息していた魔物などから解析し、死骸を取り込んだりして召喚できるようにしているのだ。
そうして出現した魔物に向けて放つのは、かつては防御結界として構築した魔法。
というか、あんまり直接的な攻撃魔法が無いので自分で工夫する必要がある。
引き裂かれた空間の狭間に呑まれた魔物たちは、そのまま肉体同士を繋ぎあわせることができずに死亡していく。
命中すれば大抵の魔物は死ぬ、そんな凶悪さも秘めた魔法である。
「“時間遡行”」
次に現れた魔物に向けて時魔法を使う。
受けた魔物はそのまま姿をパッと消し、二度と姿を現さない。
迷宮によって召喚された魔物のため、成長過程など無くそのまま存在を失うのだ。
まあ、これが普通の生命体であろうと、遡行に遡行を重ねれば似たような結末を迎えるわけなんだが。
迷宮の場合は、ポイントが還元されてしまうのだが問題だな。
「“空間転移”」
視界内のどこへでも向かえるこの魔法で、魔物の下へ向かい──再度発動する。
今度は自分以外を対象にして、壁の中へ強引に転移させた。
いわゆる[*いしのなかにいる*]状態にしたので、普通の魔物は抗うこともできずそのまま呼吸困難でお亡くなりになる。
例外は霊体などの物理攻撃が意味を成さない魔物だが……こいつらは肉体あるし。
「“空間歪曲”」
さすがに反撃してくる迷宮の意思……ここはこれまでの迷宮よりも、少しだけ自我が強い場所のようだ。
罠まで設置して、武器を放ちどうにか抗おうと迎撃してくる。
なので空間を歪ませて回避していく。
俺の前に生みだされた力場によって、空間の歪みが現れそこを通る武器の進路を強引に変更させる。
「“時飛ばし”」
点での攻撃は避けられても、面で圧殺されればどうしようもない。
至る所から放たれる武器の数々を、この魔法はあっさりと回避する。
この魔法の効果は過程の省略。
結果だけを手に入れるこの魔法によって、回避という行動を実行した未来へと移る。
もちろん、それができるだけの肉体を持たないと成功はしないけど。
「──“時空停止”」
弱らせたところで、とっておきの時空魔法で終わらせる。
ポイントを消費しすぎたのか、迷宮は抗うこともできずに完全に停止した。
時魔法よりも強力なこの魔法によって、時と空間の法則を歪ませられる迷宮そのものが時空の法則に呑まれたのだ。
たとえ自我が思考をできようと、罠や魔物の召喚ができないから意味ないだろう。
◆ □ ◆ □ ◆
これだけやっても、結局そこに『勇者』が居なければ無駄足と言えよう。
人が来なさそうな迷宮だったので、最後の迷宮の核だけはお持ち帰りしておいた。
──なんとなく、面白そうだったからな。
「となると、あとは人が来るような場所にある迷宮だけなんだよな……」
ここからは俺の存在を勘ぐられないようにしなきゃいけないうえ、『勇者』が他の者に害されないよう早急に動く必要がある。
まだその存在すら不確定な『勇者』だが、死なれると扉を開く時間が遅くなるからな。
「せめて『魔王』がしっかり覚醒していてくれれば、なんて思っても仕方ないからな。したらしたで、何か一波乱ありそうだし……結局はこれが最適解なんだよなぁ」
迷宮探知で検索してーっと。
あとはここから近い中でできるだけ人が少ない場所に……ここか。
(──“空間転位”)
再び掴んだ座標へ向けて、転位で即座に移動する。
どうせ見つからないんだろうな……俺、運が悪いわけだし。
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