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偽善者と還る理 十七月目
偽善者と赤色の捜索 前篇
しおりを挟む赤色の世界
「『勇者』、見つからねぇな……」
ようやく『賢者』を眷属たちが見つけてくれたというのに、肝心の『勇者』が見つからないのだから先へ進めない。
もう一つ必要な因子である『赤王』は、ほとんど用意できているんだけどな。
「『賢者』の捜索網にも引っ掛からず、かつ生存自体は分かっている……ハァ、答えが一つしか浮かばない」
オンゲーでもあるだろう。
ログインしていることは分かるが、具体的にどこにいるかが非表示な設定って。
今回の場合、『賢者』はそれを強制的に開示するので……『勇者』自体に問題は無い。
──問題は、その所在地だ。
「一時的に赤色の世界から外れた、異層とも呼べる場所に居るのか……さて、どっちに居るのかな?」
考えられる場所は二つ──迷宮か異界だ。
迷宮はそのまんまだから端折っておく、異界とは異世界よりも小規模な世界。
ごく一部の種族だけが住まう世界や、特殊な環境の場所などが該当する。
「『勇者』が異界に住む種族から誕生したならあっち、普通に人族なら迷宮の可能性が高いんだよな……ただ、この世界の迷宮はそう多くないから行っている可能性は低い」
少なくとも、超高難易度の類いはほとんど存在していないと『賢者』が言っていた。
魔力の溜まり場が変質し、魔物を自動的に生みだす生産工場になった……ぐらいのレベルでしかないんだそうで。
「場所とか入り口だけなら訊けるんだよな。ただ、この世界限定ってのがちょっと残念な部分だ。AFOの世界でもそういうのが分かるなら、主人公候補たちの活躍を拝みに遊びに行くってのもできるのに」
だいたい主人公ってのは、普通の人がいけない場所でも活躍をする。
だが、モブがその場にふらりと現れる可能性なんてないわけで……強引に見つけださなければならない。
「というか、『勇者』は覚醒してないから気づかれないのか。けど、『勇者』っぽいヤツという点で探せないかな?」
俺が赤色の世界を訪れる前に『勇者』が誕生していたのなら、居なくなるまでの経緯があり邂逅した誰かが居るはずなのだ。
だけどそうじゃない、暇潰しに時々やっていた過去眼での捜索がその根拠である。
「……うん、考えるのを止めよう。真面目に考えたって、分からないモノは分からない。眷属が手伝ってくれるし、分からないモノもいずれ分かるさ」
あるべき事柄に真剣に対処すればいい。
俺の目的を叶えるために武具っ娘は協力してくれるし、眷属たちもちょっとであれば手伝ってくれる。
──まあ、火のせいで不信はあるけど。
あとで考えたが、あの火ってフレイ君に対する絆限定なのかもしれない。
それなら俺とフレイ君の接点である黒い火だけが出てくるのは、ある意味納得とも言えるからな。
◆ □ ◆ □ ◆
前にユラルが赤色の世界にも、精霊界が存在していると言っていた。
時折人族がそこへ迷い込み、精霊たちと契約を交わしたりレアアイテムを貰ったりするのだが……望んで向かうのは難しい。
「次元魔法で抉じ開けるのは簡単だけど、バレたら不味いからな……というか、それを最初から使っていいなら、次の世界に行くのも簡単にできただろうな」
侵入は座標や入り口を用意されたうえでのモノだったが、次元魔法が使われていた。
だがそれ以上の使用は控え、抑えに抑えていっさい使用せずここまで来たわけで……。
「よし、やっぱり迷宮だな」
──と、ここまでが回想のようなものだ。
うちの世界には迷宮が無数に存在しているので、それに関する研究も進んでいる。
そしてその一つが、迷宮の在りかを探知するというものだ。
迷宮核なんて共通の設置アイテムがあるのだから、それを利用しないわけがない。
迷宮核が放つ固有の波動をキャッチし、魔道具がそれを発見するのだ。
なお、これには俺がかつて手に入れたスキル(迷宮感知)も使われており、それを魔道具として転用したわけだな。
迷宮都市では時々しか現れない迷宮を探すために、探索者が使う必須アイテムである。
「さて、探すか」
これだけ魔道具云々の話をしていたが、それでは探す範囲がある程度狭められてしまうので今回は使わない。
その代わり、(迷宮感知)の上位スキルである(迷宮探知)を使いって広範囲を探索する。
──他のスキルも併用して、一気に一大陸ぐらいの広さで探せるぞ。
「それなりに数はあるんだな……ただ、その一つひとつの規模が小さい。魔道具で調べてたら、分からなかったかもな」
小さすぎる反応が誤差ということで認められないように、生まれたばかりの迷宮をすぐに発見するのは難しい。
というか、若すぎる迷宮は核が小さすぎてただの穴にしか見えないんだよな。
「その中で、俺がこっちに来てからの時間よりも成長した迷宮を探すわけだ。『勇者』が居るのならば必ずそのどこかなわけだし」
けど、その中でさらに行方不明者が出ているような場所なんだよな。
そうなると難しいな、そういう情報が開示されていない場所もあるわけだし。
「やっぱり考えるのは面倒だ……分身系の許可が出てれば、それを使って一気に調べるでもよかったかもな」
だが、そんな便利なスキルに縛りが入らないわけがないし……虱潰しに行くか。
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