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偽善者と還る理 十七月目

偽善者とPK妨害 その07

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 二人があっさりと死んだ。
 ゴフッと吐き出された血液は刃を伝い、大地を赤く濡らしていく。

 倫理コードを外された今、その血も苦痛を叫ぶ悲鳴も間違いなく本物だった。

「どうすんだ? テメェが弱いからこうなった。テメェが選択を変えたからこうなった。テメェが力を使わねぇからこうなった」

「……あ」

「なぁなぁ、今どんな気分? 自分を止めてくれた女は血を吐き、苦しんでいる。なのにお前はどうした、ただそれをボーっと見ているだけ……何もしないってのは、お前にとって正しい選択だったのか?」

「……あ、あぁああ──あぁァァアアア!」

 今なお刃は少女たちの肉体を空で留め、心の臓を貫き続けている。

 声はとうに枯れた、血などもう尽きた。
 彼女たちという命の炎は、今や風前の灯火とも言えるか細い火しか宿していない。

「新しい[飛鮫]の力でレベルが恒久的に吸い取られている。それがレベル1から0になる分まで喰われた時──コイツらは死ぬ、文字通りこの世界から恒久的に」

「アァアアアアアアアアアアアアアアア!」

「……なんだかこのパターンが多いな。けどまぁ、精神を整えるだけが覚醒パターンじゃねぇからなぁ……」

「──二人を、二人を放せ!」

 フレイは大地を蹴り、瞬く間に少女たちの漂う空まで跳躍する。
 その際炎が彼を包み──脚から火を噴き、背中から翼を生やす。

「覚醒? いや……これは違うな。ただのコスパ度外視の救出作戦か。ったく、面白くもなんともねぇ考えじゃねぇか」

「うぉおおおおおおおおおおおおおお!」

「はい残念──“闇霧ダークミスト”」

 霧状の闇が辺りを覆う。
 視界を奪われたフレイは強引に霧を炎で晴らそうとするが──闇の中から突然現れたサメの尾に払われ、弾き飛ばされる。

 妖刀[飛鮫]には、『古代鮫』の討伐報酬である『影喰いの鮫革軍靴』の能力が使われており、進化したことで召喚されるサメもまた、影を操ることが可能となった。

 男が生みだしたのは闇だが、フレイが炎という光源を自ら持ち運んで来ていたため、そこから影を生みだしサメを直接その中へ召喚し、彼を襲わせたのだ。

「地に墜ちろ──ったく、あとは許可申請だな。さすがにここは闇魔法だけじゃどうにもできない問題……いや、それこそ闇魔法ってそういう用途がありそうだよな。うん、もしかしたらやれるかもしれないな」

 男は独りでにそう呟き、墜ちていくフレイの姿を見つめる。
 その手には闇属性の魔力を、向ける先──それは少女たち。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 暗く、昏く、沈んでいく。
 意識はどこまでも、ずっと奥底へ。

 間違えたのだろうか、誤ったのだろうか。
 何が正しかったのか、合っていたのか。

 分からない、判らない、解らない。
 知らない、識らない……変われない。

 怖かった、恐かった。
 だけど戦った、そして負けた。

 強かった、つよかった。
 二人を奪われ、苦しめてしまった。



 ──ここで終わるの?


 否定する、拒絶する。
 残滓が、想いが、それを否と告げる。


 ──ならどうするの?


 …………。
 勝てるのか、そう身を震わせる。


 ──勝てるよ、きっと。


 疑念、疑問、意味が分からない。
 一度として傷を付けられなかったのに、どうやって勝つというのだ。


 ──信じているから、頼れる貴方を。


 …………。
 そうか、信頼されているんだ。



 在り方は変わらない、強さも変わらない。
 だけど変わりたいという意思が、意志が、想いの丈が高まっていく。

 憎悪や憤怒ではない、誰かと誰かが寄り添い続けられるように。
 怨恨や傲慢ではない、誰かと支え合って紡ぐ未来を見るために。

 揺らめく灯火が辺りを照らしていく。
 ここは少年の心象風景──力と心の在り方が、示される世界。

 炎はいくつも燈っている。
 少年が紡いだ縁の数だけ火は輝き、それぞれが少年へ還元され力をもたらす。

 今、少年の意識が向く先には二つの火が揺らめている。
 とても弱く、今にも消えそうな炎たち。
 だがそれでも、少年に何かを伝えようとその輝きの中で温かな光を放つ。

 意識はそっと火を見つめる。
 温かさを感じるように意識を集中させ、その温もりの意味を感じ取っていく。


 ──決まったの?


 決意、決断、心を定める。
 戦おう、倒すためじゃなく取り戻すため。


 ──どうやって?


 不明、未知、確かじゃない。
 だけどそれでも、だからこそ、その先に答えを見つける。

 結んだ縁は、良くも悪くも紡がれる。
 関わり合いの数だけ、繋がろうと思った数だけ燃える炎は強くなっていく。

 そして今、少年は燭台を望む。
 それは少年の焔、想いが燈した希望の火。
 暗く澱みかけていたそれは、再び激しく温かく燃えて、赤く白く……黒く燃え盛る。


 ──もう一度、頑張ろう。


 視界は晴れ……世界は塗り替わる。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 ゆらゆらと立ち上がるフレイ。
 それを見降ろす男は、その様子をとても興味深そうに眺める。

「外部からの想念を燃料に火が点く。因果応報的な感じで善意には白い燃料が、悪意には黒い燃料が与えられる」

 その瞳は神々しく輝き、視界に映したフレイの力を彼以上に把握していく。

「救ったモノの数だけ白い火は輝き、代償としたモノの数だけ黒い火が澱む。罪過を忘れぬ咎の炎……ったく、カッコイイなぁおい」

 フレイの覚醒した力──『火縁』。
 縁の数だけ灯る炎は、再び決意に輝く瞳と共に少年に力をもたらした。

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