1,170 / 2,518
偽善者と還る理 十七月目
偽善者とPK妨害 その07
しおりを挟む二人があっさりと死んだ。
ゴフッと吐き出された血液は刃を伝い、大地を赤く濡らしていく。
倫理コードを外された今、その血も苦痛を叫ぶ悲鳴も間違いなく本物だった。
「どうすんだ? テメェが弱いからこうなった。テメェが選択を変えたからこうなった。テメェが力を使わねぇからこうなった」
「……あ」
「なぁなぁ、今どんな気分? 自分を止めてくれた女は血を吐き、苦しんでいる。なのにお前はどうした、ただそれをボーっと見ているだけ……何もしないってのは、お前にとって正しい選択だったのか?」
「……あ、あぁああ──あぁァァアアア!」
今なお刃は少女たちの肉体を空で留め、心の臓を貫き続けている。
声はとうに枯れた、血などもう尽きた。
彼女たちという命の炎は、今や風前の灯火とも言えるか細い火しか宿していない。
「新しい[飛鮫]の力でレベルが恒久的に吸い取られている。それがレベル1から0になる分まで喰われた時──コイツらは死ぬ、文字通りこの世界から恒久的に」
「アァアアアアアアアアアアアアアアア!」
「……なんだかこのパターンが多いな。けどまぁ、精神を整えるだけが覚醒パターンじゃねぇからなぁ……」
「──二人を、二人を放せ!」
フレイは大地を蹴り、瞬く間に少女たちの漂う空まで跳躍する。
その際炎が彼を包み──脚から火を噴き、背中から翼を生やす。
「覚醒? いや……これは違うな。ただのコスパ度外視の救出作戦か。ったく、面白くもなんともねぇ考えじゃねぇか」
「うぉおおおおおおおおおおおおおお!」
「はい残念──“闇霧”」
霧状の闇が辺りを覆う。
視界を奪われたフレイは強引に霧を炎で晴らそうとするが──闇の中から突然現れたサメの尾に払われ、弾き飛ばされる。
妖刀[飛鮫]には、『古代鮫』の討伐報酬である『影喰いの鮫革軍靴』の能力が使われており、進化したことで召喚されるサメもまた、影を操ることが可能となった。
男が生みだしたのは闇だが、フレイが炎という光源を自ら持ち運んで来ていたため、そこから影を生みだしサメを直接その中へ召喚し、彼を襲わせたのだ。
「地に墜ちろ──ったく、あとは許可申請だな。さすがにここは闇魔法だけじゃどうにもできない問題……いや、それこそ闇魔法ってそういう用途がありそうだよな。うん、もしかしたらやれるかもしれないな」
男は独りでにそう呟き、墜ちていくフレイの姿を見つめる。
その手には闇属性の魔力を、向ける先──それは少女たち。
◆ □ ◆ □ ◆
暗く、昏く、沈んでいく。
意識はどこまでも、ずっと奥底へ。
間違えたのだろうか、誤ったのだろうか。
何が正しかったのか、合っていたのか。
分からない、判らない、解らない。
知らない、識らない……変われない。
怖かった、恐かった。
だけど戦った、そして負けた。
強かった、剛かった。
二人を奪われ、苦しめてしまった。
──ここで終わるの?
否定する、拒絶する。
残滓が、想いが、それを否と告げる。
──ならどうするの?
…………。
勝てるのか、そう身を震わせる。
──勝てるよ、きっと。
疑念、疑問、意味が分からない。
一度として傷を付けられなかったのに、どうやって勝つというのだ。
──信じているから、頼れる貴方を。
…………。
そうか、信頼されているんだ。
在り方は変わらない、強さも変わらない。
だけど変わりたいという意思が、意志が、想いの丈が高まっていく。
憎悪や憤怒ではない、誰かと誰かが寄り添い続けられるように。
怨恨や傲慢ではない、誰かと支え合って紡ぐ未来を見るために。
揺らめく灯火が辺りを照らしていく。
ここは少年の心象風景──力と心の在り方が、示される世界。
炎はいくつも燈っている。
少年が紡いだ縁の数だけ火は輝き、それぞれが少年へ還元され力をもたらす。
今、少年の意識が向く先には二つの火が揺らめている。
とても弱く、今にも消えそうな炎たち。
だがそれでも、少年に何かを伝えようとその輝きの中で温かな光を放つ。
意識はそっと火を見つめる。
温かさを感じるように意識を集中させ、その温もりの意味を感じ取っていく。
──決まったの?
決意、決断、心を定める。
戦おう、倒すためじゃなく取り戻すため。
──どうやって?
不明、未知、確かじゃない。
だけどそれでも、だからこそ、その先に答えを見つける。
結んだ縁は、良くも悪くも紡がれる。
関わり合いの数だけ、繋がろうと思った数だけ燃える炎は強くなっていく。
そして今、少年は燭台を望む。
それは少年の焔、想いが燈した希望の火。
暗く澱みかけていたそれは、再び激しく温かく燃えて、赤く白く……黒く燃え盛る。
──もう一度、頑張ろう。
視界は晴れ……世界は塗り替わる。
◆ □ ◆ □ ◆
ゆらゆらと立ち上がるフレイ。
それを見降ろす男は、その様子をとても興味深そうに眺める。
「外部からの想念を燃料に火が点く。因果応報的な感じで善意には白い燃料が、悪意には黒い燃料が与えられる」
その瞳は神々しく輝き、視界に映したフレイの力を彼以上に把握していく。
「救ったモノの数だけ白い火は輝き、代償としたモノの数だけ黒い火が澱む。罪過を忘れぬ咎の炎……ったく、カッコイイなぁおい」
フレイの覚醒した力──『火縁』。
縁の数だけ灯る炎は、再び決意に輝く瞳と共に少年に力をもたらした。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる