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偽善者と還る理 十七月目

偽善者とPK妨害 その06

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 男の握る妖刀[飛鮫]は、祈念者たちの持つ莫大な量の経験値を喰らうことでその形を新たなモノへと変質させた。

 刀身を収める鞘──鋭い刃から外部を守るという意味を捨て、鮫肌のように鋭い材質へと造り変わる。
 周囲のものを、そして自身が認めない担い手すらも傷つけてしまうそれは、まさに妖刀の鞘らしい逸品だろう。

 そして刀身はより異質なモノと化した。
 魔力を籠めることで刃全体にギザギザとした、歯のようなモノが生成される。
 それはまさにサメの牙、何度折られようと無限に再生する不屈の刃であった。



 だが、フレイはそうした妖刀そのものの変化にはまだ気づいていない。
 彼らが見ているのは、男の周囲を漂う一体の鮫である。

 それこそが、『古代鮫テラロドン飛刃種フライングブレード』とも呼べる変異をしたかつての『古代鮫』だ。
 過去の姿と現在の在り方が混同して誕生したそれは、同時にその能力を行使できる。

「まあ、テメェらをオレとコイツでイジメるわけにはいかねぇからな。付与も強化もしてねぇコイツでまずはテストだ」

「レベルは……90!?」

「何回か進化もしているはず……気を付けて戦いましょう──“攻性付与エンチャントアタック”!」

 援護職であるリリメラによって、いくつもの付与効果が与えられる。
 職業の効果で、一度唱えた魔法は少し多めに魔力を消費することでパーティー全体に行き渡らせることが可能となっていた。

「“防性付与エンチャントガード”、“敏性付与エンチャントスピード”、“巧性付与エンチャントテクニカル”、“耐性付与エンチャントレジスト”、“幸運付与エンチャントラック”!」

「いっくよー──“挑発タウント”!」

「ハァアア──“火焔剣フレアソード”!」

 リリメラは能力値に補助を施し、クリムはサメに向けて敵意集中の能力を行使。
 フレイは剣に最大限の力を籠め、燃え盛る炎を刃に宿した。

 サメはただその様子を眺め、何もせずに準備が整うのを見守る。

「もう準備はいいか? ったく、全力を潰さねぇとピーチクパーチク騒ぐヤツがいるからよぉ。最初から全力でやらせるのが、オレのスタンスなんだ」

「……きっとあなたは、そう悪い人じゃないのかもしれません」

「そりゃ当たりめぇだろ。オレはオレの善意で、テメェの甘ぇ考えを直してやるんだよ」

「そういう部分が間違っているんだ。あなたの性根、こちらが直します!」

 男の返事は無く、代わりにサメが咆哮をあげて突進してくる。

 盾を構えたクリムはどっしりと地面を踏みしめ、鋭い歯が自身に食い込む直前に──武技を発動した。

「“反物防盾アタックリフレクト”!」

『!?』

 サメは自身の歯に盾を噛み砕く感触以外のモノを感じ取り、すぐに悲鳴を上げる。
 砕けたのは盾ではなく己の歯、鋭い刃のようなそれが砕けたことにより、口内がズタズタにされていたからだ。

 盾スキルの中でも習得難易度の高いこの武技は──発動時間が短い代わりに、その時間に受けた物理攻撃をすべて反射できる。

 より高位の武技も存在するが、斥候役を同時にこなすクリムにはまだ習得できていない武技であった。

「“重力増減グラビティ”!」

 自分たちに掛かる重力を減らし、同時にサメの重力を増大させようとする。
 一つ目を達成したリリメラだが、サメの魔力抵抗力の高さから増大には失敗した。

 だが、サメには一瞬の隙が生まれ、フレイは軽くなったことで空を飛ぶ。
 そして、彼もまた武技を行使する。

「──“火炎斬バーニングスラッシュ・真”!」

 フレイのレベルは50。
 本来であれば、決して届かないであろうその一撃は……あっさりとサメの肉体へ食い込むと、そのすべてを燃やしていく。

「へぇー、面白ぇことすんじゃねぇか。どうやってやってるんだよ?」

「…………」

「正解。そこでネタバレするなんて、つまんねぇことすんなよ。それを暴くのが、対人戦の醍醐味ってヤツだろ!」

 燃え尽き、その残滓を地に堕とすサメ。
 その肉体は粒子となって妖刀に還元されると──再び宙に現界する。

 その数を、三体に増やして。

『──ッ!?』

「おいおい、コイツ一匹を倒してご満悦とはずいぶんと余裕なんだおーい! その炎ならコイツらを倒せる、なら何度でも何度でも使えばいいじゃねぇか!」

 フレイが振るう炎の力は、決して簡単に使える技でもない。

 膨大な魔力を対価に振るう──いくつかの制限を解除したうえで、今なお重い代償が要求される一撃だった。

「フレイ、大丈夫?」

「う、うん……まだ一、二発ぐらいだったら使えるよ……」

「無茶をすれば、ですよね? あまり危険な行動ばかり取らないでください。あのときのことを……お忘れですか?」

「そう、だね……」

 フレイの脳裏に死に戻り、という選択が過ぎったその瞬間──空を覆うように闇が生まれ、フレイの傍から二人の少女が消えた。

「生温いこと言うんじゃねぇよ。やっぱりアレだな、身近なヤツが死んだ方が実感が湧くよなぁ……そういうわけだ、痛がってくれ」

 ありえないはずの悲鳴が、辺りに響く。
 それは先ほどまで男がいた場所であり、その声は聞き覚えのある二つの声だった。

 フレイはバッと上を見る。
 するとそこでは、心臓から刃を飛びださせた二人のパーティーメンバーの姿が……。

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