1,169 / 2,518
偽善者と還る理 十七月目
偽善者とPK妨害 その06
しおりを挟む男の握る妖刀[飛鮫]は、祈念者たちの持つ莫大な量の経験値を喰らうことでその形を新たなモノへと変質させた。
刀身を収める鞘──鋭い刃から外部を守るという意味を捨て、鮫肌のように鋭い材質へと造り変わる。
周囲のものを、そして自身が認めない担い手すらも傷つけてしまうそれは、まさに妖刀の鞘らしい逸品だろう。
そして刀身はより異質なモノと化した。
魔力を籠めることで刃全体にギザギザとした、歯のようなモノが生成される。
それはまさにサメの牙、何度折られようと無限に再生する不屈の刃であった。
だが、フレイはそうした妖刀そのものの変化にはまだ気づいていない。
彼らが見ているのは、男の周囲を漂う一体の鮫である。
それこそが、『古代鮫・飛刃種』とも呼べる変異をしたかつての『古代鮫』だ。
過去の姿と現在の在り方が混同して誕生したそれは、同時にその能力を行使できる。
「まあ、テメェらをオレとコイツでイジメるわけにはいかねぇからな。付与も強化もしてねぇコイツでまずはテストだ」
「レベルは……90!?」
「何回か進化もしているはず……気を付けて戦いましょう──“攻性付与”!」
援護職であるリリメラによって、いくつもの付与効果が与えられる。
職業の効果で、一度唱えた魔法は少し多めに魔力を消費することでパーティー全体に行き渡らせることが可能となっていた。
「“防性付与”、“敏性付与”、“巧性付与”、“耐性付与”、“幸運付与”!」
「いっくよー──“挑発”!」
「ハァアア──“火焔剣”!」
リリメラは能力値に補助を施し、クリムはサメに向けて敵意集中の能力を行使。
フレイは剣に最大限の力を籠め、燃え盛る炎を刃に宿した。
サメはただその様子を眺め、何もせずに準備が整うのを見守る。
「もう準備はいいか? ったく、全力を潰さねぇとピーチクパーチク騒ぐヤツがいるからよぉ。最初から全力でやらせるのが、オレのスタンスなんだ」
「……きっとあなたは、そう悪い人じゃないのかもしれません」
「そりゃ当たりめぇだろ。オレはオレの善意で、テメェの甘ぇ考えを直してやるんだよ」
「そういう部分が間違っているんだ。あなたの性根、こちらが直します!」
男の返事は無く、代わりにサメが咆哮をあげて突進してくる。
盾を構えたクリムはどっしりと地面を踏みしめ、鋭い歯が自身に食い込む直前に──武技を発動した。
「“反物防盾”!」
『!?』
サメは自身の歯に盾を噛み砕く感触以外のモノを感じ取り、すぐに悲鳴を上げる。
砕けたのは盾ではなく己の歯、鋭い刃のようなそれが砕けたことにより、口内がズタズタにされていたからだ。
盾スキルの中でも習得難易度の高いこの武技は──発動時間が短い代わりに、その時間に受けた物理攻撃をすべて反射できる。
より高位の武技も存在するが、斥候役を同時にこなすクリムにはまだ習得できていない武技であった。
「“重力増減”!」
自分たちに掛かる重力を減らし、同時にサメの重力を増大させようとする。
一つ目を達成したリリメラだが、サメの魔力抵抗力の高さから増大には失敗した。
だが、サメには一瞬の隙が生まれ、フレイは軽くなったことで空を飛ぶ。
そして、彼もまた武技を行使する。
「──“火炎斬・真”!」
フレイのレベルは50。
本来であれば、決して届かないであろうその一撃は……あっさりとサメの肉体へ食い込むと、そのすべてを燃やしていく。
「へぇー、面白ぇことすんじゃねぇか。どうやってやってるんだよ?」
「…………」
「正解。そこでネタバレするなんて、つまんねぇことすんなよ。それを暴くのが、対人戦の醍醐味ってヤツだろ!」
燃え尽き、その残滓を地に堕とすサメ。
その肉体は粒子となって妖刀に還元されると──再び宙に現界する。
その数を、三体に増やして。
『──ッ!?』
「おいおい、コイツ一匹を倒してご満悦とはずいぶんと余裕なんだおーい! その炎ならコイツらを倒せる、なら何度でも何度でも使えばいいじゃねぇか!」
フレイが振るう炎の力は、決して簡単に使える技でもない。
膨大な魔力を対価に振るう──いくつかの制限を解除したうえで、今なお重い代償が要求される一撃だった。
「フレイ、大丈夫?」
「う、うん……まだ一、二発ぐらいだったら使えるよ……」
「無茶をすれば、ですよね? あまり危険な行動ばかり取らないでください。あのときのことを……お忘れですか?」
「そう、だね……」
フレイの脳裏に死に戻り、という選択が過ぎったその瞬間──空を覆うように闇が生まれ、フレイの傍から二人の少女が消えた。
「生温いこと言うんじゃねぇよ。やっぱりアレだな、身近なヤツが死んだ方が実感が湧くよなぁ……そういうわけだ、痛がってくれ」
ありえないはずの悲鳴が、辺りに響く。
それは先ほどまで男がいた場所であり、その声は聞き覚えのある二つの声だった。
フレイはバッと上を見る。
するとそこでは、心臓から刃を飛びださせた二人のパーティーメンバーの姿が……。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる