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偽善者と還る理 十七月目

偽善者とPK妨害 その02

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「──もう少しでしょうか?」

 燃えるような真紅の髪を持つ少年は、レイドイベントに参加する別パーティーの代表者リーダーに声を掛けた。

 真っ直ぐな視線を向けるその瞳は、彼の性根を表すように真っ赤に燃えている。

「ああ。だが、油断するなよ。前にお前が話していたPKギルドの連中が、裏で何をしてくるか分かったもんじゃない。フィールドに入れば安全……かどうかは微妙だが、とりあえずそこまでは気を抜くな」

「はい」

「それにだ。アイツらには何度も煮え湯を飲まされてきたからな……今回はあの『死天』も介入してくるらしいから、絶対に油断はしない方がいい」

「あの『死天』がですか……」

 それは祈念者プレイヤーたちの共通見解。
 正面から正々堂々と暗殺行為を行った場合における、最強のPKが『死天』と呼ばれる祈念者であること。

 暗殺者であることに誇りを持ち、決して自身が介入せずに行う暗殺方法を取らないPKの在り方は、彼らのような表舞台で輝く祈念者たちからも認められていた。

「大丈夫だよ! きっと『フレイ』なら、危険になってもなんとかするって!」

「『クリム』、僕だってできることとできないことの区別くらい付くよ。世の中には僕より凄い人なんていくらでもいる、それに僕たちはまだ全然強くない。そのことを忘れちゃいけないよ」

「ぶー、フレイはいつもそうなんだからー」

 当たって砕けろ精神のクリムという少女の暴走を、幼馴染であるフレイが窘めて制御する……それが彼らの日常である。

 現実リアルならば、それで完結するのだが──この世界ではもう少し続きがあった。

「あら、クリムさんにはフレイ君の言いたいことが分かっていないようね。そんなことではフレイ君が愛想を尽かせてしまいますよ」

「そんなっ、フレイ!?」

「待って待って、そんなことしないから。それに『リリメラ』さんもあんまりクリムを挑発しないでくださいよ」

「そんなつもりはなかったのだけれど……ごめんなさい、フレイ君」

 フレイとクリムより少し年上な女性が、こうして二人をからかう。
 だがそこに不思議と違和感はなく、ごくありふれた日常の光景として溶け込んでいる。

 ──それがフレイ率いるパーティーの現在の在り方だった。



 フレイたちはある日、ひょんなことからレイドイベントに繋がるキークエストに遭遇することになる。
 だが、その際は人数の条件を満たしておらず、ルールなどを知るだけに終わった。

 そして今回、信頼できる知り合いに声を掛けて挑戦を決めたフレイ。
 規定人数となる十二人を満たし、レイドイベントに挑む。

 しかし、それを好まない者たちがいる。
 かつてフレイやその周辺の者たちを狙い、返り討ちに遭った者たち。

 彼らの憎悪は時間とともに増加し、溜まり切った思いはついに爆発する。


「──ハロー、善人たちー。復讐ついでに遊びに来てやったぜー!」


 それは突然の出来事であった。
 どこからともなく現れた黒尽くめの集団が彼らを囲い込み、空間魔法を使うことでこの場から出れないように隔離を行う。

「こ、これは……!」

「みんな、警戒しろ! どこかに『死天』が隠れている!」

 一瞬戸惑うフレイだったが、信頼する男の指示を聞いてすぐに意識を切り替える。

 武器を抜き、辺りの気配を探り誰かが隠れていないかを探る……そして、目の前の男が苛立ちを覚えていることに気づく。

「……おいおい、目の前の俺たちよりも別のヤツに気を配るなんてなぁ。こりゃあなんともビッチな奴らだぜ」

「お前ら全員を相手にするよりも、『死天』の相手をする方が厄介だからな。それとも何か? お前らの方が、強いって証拠でもあるのか?」

「ったりめぇだろう! アイツは俺たちの見届け人でしかねぇ、ただの狗だよ! そこのテメェ、テメェに復讐するための力を俺たちは得た! 見せてやるよ、PK職だけが持つ真の力ってヤツをよぉ!」

 闇色の輝きが集団を包み、放たれる威圧の力が増したことを肌身を以って感じる。
 震える手を抑えながら、フレイは自分の信念を貫くために武器を振るう。



 ──否、振るおう・・・・とした。



 どこからか、何かが割れる音が鳴り響く。
 ゆっくりと、しかしはっきりと……ガラスに罅が入り、侵食していくように。

「お、おい、どうなってやがる!」

「外部から、無理やり侵入してこようとするヤツがいるみたいです!」

「チッ、面倒臭ぇ。おい『死天』! こういうときこそテメェの出番だろう! さっさと邪魔者を排除してこいよ」

 そう男が叫ぶと、陽炎のように空間の一部が歪みそこから何者かが出現する。
 それこそが『死天』、かつては『陽炎』と呼ばれていたこともある暗殺者であった。

 その登場に警戒をより一層高めるフレイたちであったが、『死天』は武器を抜こうともせずにこう答える。

「……断る。与えられた依頼はあくまで見届けることだけ。その障害となるものの排除はいっさい行う必要が無い……」

「くそっ、使えねぇ!」

「……それにもう遅い。すでに破壊の九割が完了していた。そして今……」

「なんだと!?」

 ガシャーンとこれまででもっとも甲高い音が鳴り響き、空間の檻が外部から強制的に破壊された。

 そして降り立った怪しい男──ノイズを身に纏う者はニヤリと笑い挨拶を行う。


「ハロー、悪人たちー。遊びに来たぜー!」


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