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偽善者と還る理 十七月目
偽善者と武技とは
しおりを挟む始まりの草原
とりあえず、初心者向けの魔物相手に無双してみる。
ティルとの修練の結果、一流を少しだけ超えた動きを学ぶことができた。
「けど、それを身に染み付けないとな」
対魔物と対人では、剣術にも異なる動きが求められる。
対魔物は大きすぎたり小さすぎる相手に使うことがあるが、対人の場合はある程度対象の大きさが定まっているからだ。
ティルを相手にしながら対人の剣技はある程度収めたつもりでいるが、小型の魔物に対する剣技を今学んでいる。
何より、小型の魔物であれば対人にも使えるからな。
「子供の暗殺者か……ミントしか浮かばないのはなんでだろう?」
ミントはそういう種族だからその選択肢しか取れなかった、故に暗殺者系の職業に就いているが……そういえば、見たことがない。
たまにPKギルドを襲っている俺だが、さすがに子供で暗殺者プレイのヤツとはまだ未接触だな。
「まあ、もし会ったときに対処できるようにしておきたいからな。自分よりも格段に背が低い相手にも使える剣技を磨かないと」
剣術と剣技、剣を扱う術と剣を使う技。
解釈に違いはあるが、どちらも剣を用いて強くなるために磨き上げるものだ。
武技を使わない己の腕だけで振るう技──その剣バージョンが剣技である。
「じゃあ、武技ってなんだろうか?」
特定のモーションに必要な属性と適合率を持ったものが、一定量のエネルギーを注ぐことで発動する必殺技。
世界に刻まれた動きをなぞり、過去の武芸者が振るった技術を再現するもの。
武技は武技と認められたものがどこかで登録され、後世に伝わっていく。
だからこそ、同じ武器種でも技名に言語の違いがあったり、明らかに意味が通らないような字が当て字になっていることがある。
「自動化された武器の技、それが武技。剣技にも、武技として認定された動きがあるからこそ宣言して発動する場合がある」
曰く、武神と戦神とその武器を司る神が認定するという伝承があったが……彼らが不活性状態にある今ではその説は微妙だ。
職業同様システムで運用され、登録されている可能性が高い。
そう考えると、かつてティルと話した流派のシステムにも納得がいく。
あれは登録した流派の武技のみを引き出せるようにしており、それ以外が使えないように設定すればいいんだからな。
「おっと──『切斬』っと」
武技ではなく、ただそれをなぞるだけだ。
普通に剣を振るうのではなく、最適な重心移動で余すことなくエネルギーを武器に届けるのが“切斬”をマニュアルで使う際に必要となる技術である。
襲ってきた魔子鬼をスパッと斬る。
国民と異なり品性の欠片も無い振る舞いをしているし、今ではまったくと言っていいほど罪悪感を感じずに殺せるな。
「なんの話だったっけ……そうか、暗殺者からだいぶ逸れたな」
傍から見るだけであれば、男として暗殺者という響きに興奮する。
やはり影で暗躍し、誰にも知られずに敵を殺すという行いはカッコイイと思う。
殺す、という部分にそういった琴線を引かれる辺りは問題かな?
今の現実では無いように思えるからこそ、ただ凄いと曖昧に覚えていることがそう考えられる理由かもしれない。
「暗殺者の育成か……迷宮で知性のある暗殺職系の魔物を用意して、教えさせれば簡単にできそうだよな」
人族と違い職業ではなく種族として、つまり変更できない力を宿す魔物。
だがそれ故に、自身の能力を完全な形で身に着けている。
そんな魔物たちに、迷宮は絶対的な支配権があるのでそういった指示も可能だ。
というか、あらゆる職種に対応した職業学校……なんてものも作れるな。
「職業システムに頼らない技術の習得。それはその先どんな職業に就こうとも役立つものになる……なんて感じで宣伝すれば、入学者もそれなりに来そうだな」
AFO世界に設立できたら、祈念者もそれなりにやって来そうだ。
一部の者が、小規模な国立学校を設立している国を訪れ始めたものの、祈念者を受け入れてくれる場所にはまだ行っていない。
たぶん、調査のために『ユニーク』たちが向かっただろう。
転移門もおそらく解放しているし……俺も俺で、眷属や国民が解放した転移門は使えるようにしてあるけどな。
それ以上に、本気でどこかへ行きたいと想う俺を阻む障害は存在しない。
そんな能力も存在するから、偽善はどこへでも行ける……たとえ別大陸だろうと、別の世界であろうと。
閑話休題
魔物を捌き続け、ある程度剣技を修めたかな? と調子に乗り始めた頃。
覚えのある気配を感じ、少し暗い木々の中へ移動する。
「さて、もう出てきていいぞ」
「……はっ……」
「わざわざ呼んだってことは、何か報告があるんだよな? いったい何が起きた」
「……こちらを……」
前に俺をPKしようとしてきた祈念者なのだが、いろいろとあって雇っていた。
裏関係の情報収集に役立っているが……解決できない問題があると、こうして俺の下に報告を持ってくるのだ。
「……そういうことか」
「……どうされますか……?」
「まあ、やるしかないだろう。先にギルドへ連絡して、周りに被害が及ばないように策を回しておいてくれ。報告が来たら、実行することにしよう」
「……分かりました……」
さて、小さい魔物相手の剣技はある程度磨けた──次は対人の練習かな?
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