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偽善者と還る理 十七月目

偽善者と死者の都 その05

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 祭り騒ぎは延々と続く。
 夜という時間はとても長いうえ、彼らにはそれ以外にやることがほとんどないからだ。

 しかしいつの世も例外は存在し、それが俺の前に現れるのは必然とも言えた。
 そりゃそうだ、街の住民の大半を引き連れてどんちゃん騒ぎをしているのだから。


「──何をしているのでしょうか?」

『あ、アイドロプラズム様!』

「あっ、アイちゃん!」

『アイちゃん!?』


 夜を遠慮して俺が彼女との接触を切り上げた理由は、夜明けを前にここへ現れたことと関連している。

 護衛らしき数人のアンデッドを引き連れ、アイドロプラズム──アイは俺たちの祭り騒ぎにやってきた。


「アイちゃんアイちゃん。今はね、私の手料理をみんなに振る舞っていたんだ」

「まあ、メルちゃんの手料理を?」

「うん、そうだよ。──そうだ、アイちゃんたちもお仕事してきたんだよね? なら、仕事終わりに一杯……どう?」

「ふふっ、メルちゃん。それはもう、子供の言葉ではありませんよ?」


 いつものように<箱庭造り>を使って地面からテーブルとイスを生やし、座らせる。
 護衛は一瞬渋ったが、周りからの威圧感とアイの指示で大人しく座った。


「じゃじゃーん! メル特製のスペシャルおでんだよ!」

「おでん……ですか? たしか、極東の大陸に伝わるお料理でしたね」

「アイちゃんはもう分かっていると思うけれど、私はそれを知る機会があるからね。というわけで──食べてみて」

「では、いただきましょう」


 用意していた割り箸を綺麗に割ると、汁をたっぷりと吸った大根(のような物)を箸で小さく切って──口の中に入れる。

 このとき、ヴェールを少しだけ上に捲って場所を確保したのだが……口の造形だけでもなんだかいけないなまめかしいモノを見ている気がした。


「はふっはふっ……これは、これは美味しいですよメルちゃん!」

「ふっふっふっ……私は生産神の加護を授かりし、幻のお料理屋さんだからね」

「生産神様の!? なるほど、ですがそれだけではありませんね。メルちゃんが美味しく食べてもらいたいと思ったからこそ、このような味となるのですよ」


 どうやら『超越種』の彼女にとって、生産神とは『様』付けをすべき存在みたいだ。

 そして、発言には俺も納得している……眷属のためだと思って作った料理は、なんだか美味しく感じられるからな。


「今の私は、ここにいるみんなにおでんを美味しく食べてもらいたかったんだよ。そういえばアイちゃん、お酒は呑める?」

「大丈夫ですよ」

「なら、他のみんなも飲んでいる霊酒があるけど……ダメだった時のために、こっちに子供向けの霊水を混ぜたジュースがあるよ」

「……でしたらその、ジュースの方を」


 どうやら見た目同様のお舌なようで。
 俺特製の霊体系種族でも飲めるジュースをグラスに注ぎ、アイに提供する。

 同様に、護衛にも確認してからそれぞれ霊酒を渡していく。


「これも美味しいですね……マレンジの果汁から作ったのですか?」

「そうだよ。酸味をできるだけ抑えてあるから、子供でも飲めるんだ」

「あの……お代わり、できますかね?」

「うん、もちろんだよ」


 なんて会話をしていると、間もなく夜が明けるのか少しずつ霧の奥が晴れていっている気がした。

 もともと瘴気だらけの環境なので、あんまり太陽とか関係ないんだよな。


「ねぇ、アイちゃん」

「はい、どうかしましたか?」

「私がみんなに食べ物と飲み物をあげてこうなったんだけど……いつになったら、普通に戻るのかな?」

「あまり娯楽の無い街ですし……メルちゃんの料理の美味しさから考えて──二、三日はこのままだと思いますよ。もちろん、やるべきことは行ったうえでですよ」


 街に来た際は、それなりに楽しそうだと思えたのだが……まあ、その考えも夜になった途端に覆ったけど。

 しかし、そこまで娯楽が少ないのか?
 アイは『還魂』で、それが目的として創られたはずなのに。


「アイちゃん、少しだけ聞いてもいいかな?(──“防音結界”)」

「これは……はい、なんでしょうか?」

「アイちゃんは、この街の人たちをどうしたいの? それが知りたいの」


 与えられた使命が浄化と正常化であるならば、ここでアイが行っていることはある程度想像がついている。
 だからこそ彼女は夜に外へ出た、使命を果たすために。


「私に与えられた役割を、一部ではありますがご存知のようですね」

「うん、本を見たんだ」

「そうでしたか……おそらくその本には、私の使命が『魂の浄化と瘴気の正常化』とでも記されていたのでしょう」

「そこまで分かるんだ」


 はい、とにっこり微笑むアイ。
 リュシルが情報源となったその知識だが、彼女の持っていた本が元となっていたはずなので、禁忌系の情報のはず……ああ、だから特定できたのか。


「私の役割は、負の魔力に籠もる怨念の浄化と意思を持つことのないアンデッドの正常化となります。おそらくですが、伝聞故に内容が異なってしまったのでしょう」

「正常化……ってどういうこと?」

「負の怨念に囚われすぎたアンデッドは、暴走してしまいます。そしてそれは、意図せぬ厄災となってしまいます。私はそれを防ぐことを役割としているのです」


 要するに、在り方から外れた存在を排除しているってことだな。
 浄化の方はそのままだし、だいたい納得できた──けど、まだ謎が多い。


「うーん、難しくてちょっと分からないよ。ねえ、もっと詳しく教えてくれないかな?」

「構いませんよ。こういったことであれば、規定には反しておりませんので」


 いろいろと気になる単語はあったが、とりあえず今は情報収集に専念する。
 ……ちなみにこの間に、護衛たちは霊酒でハイテンションになっていた。


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