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偽善者と還る理 十七月目

偽善者と死者の都 その04

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 夕方に町を訪れ、賑やかな街並みを拝んでいたわけだが……夜の街はさらに異なる様子であった。


「こ、これは……なんとも」


 アンデッドたちは夜に活性化する。
 それは肉体の中を巡る負の魔力が、夜の時間帯にこそ活発的になるからだ。
 剥落した魂魄を埋めるように、そりゃあ膨大な負の魔力が流れているわけだし。


「なんだか、アンデッドらしくないな……」


 要するに──彼らは昂揚状態ハイになるのだ。
 知性の無いアンデッドであれば、その種族に合わせた欲望に忠実となるのだが……レベル五に住まうアンデッドたちは、高度な知性とそれに見合う理性を兼ね揃えている。


「だから気分だけ高揚して、こうして夜の街でふらりふらり……あっ、お酒も飲むんだ」


 夜の街はネオンっぽい魔道具が輝き、杯が至る所で交わされていた。
 日中が賑やかな街並みと評することができるならば、夜の街並みは……騒がしい街だ。


「まあ、悪影響は無いみたいだし……楽しそうだからいいんだけどね」


 俺は酒を嗜まないが、普通に居酒屋らしき場所で何か食べるぐらい構わないだろう。
 そんなことを考え、街を練り歩く。





 ──なんて考えていたんだけど。


「どうしてこうなんたんだろう?」

「──大将、お代わりまだか!」

「はいはい、ちょっと待っててねー」


 夜、酒、つまみという三つの要素から俺が考えた至上の品──おでんを掬い上げて器に盛ると、位階ランク11相当のアンデッドの下に運び届ける。


「はいよ、玉子と大根とチクワ!」

「うぉおお、キタキタキタぁああ!」

「冷めないうちに、食べてってね」


 はふはふと息を漏らしながら、具を食べていくアンデッドの男。
 そんな様子を羨ましげに見つめる、席に座れなかったアンデッドたち。


「おい、早くしてくれよ!」

「いや、まだだ! 俺だってこんな美味いの初めてなんだぞ! 譲らねぇ、たとえ誰が相手だろうとここは譲らねぇからな!」

「なあ、メルさん。席を増やしてくれよ。せめて三席……いや、五席だけでも!」

「どうしよっかな……私はここに来たばっかりだし、他のお店に迷惑になるんじゃ……」


 そう言ってチラリと辺りを一瞥するが、残念ながらそう思っている者はいない。
 そもそも、彼らはアンデッドだからな──どれだけ時間がスキルを成長させようと、味覚などはアンデッドのものに変質している。


「メルさんの所の匂いが、もう絶対に旨いって教えてんだよ! というか、もうここに来ていないヤツなんて誰もいねぇよ!」

「……あ、あれ? いつの間に……」

「いつの間にじゃないですよ! ほら、どれだけここに居ると思っているんですか!」

「うーん、来たばっかりだから分からないんだよねぇ……」


 探知したアンデッドの数が、俺の開いているおでんの屋台周辺に集中していた。
 しかも、どちらかといえばおでんの香りが飛んでいく風下の辺り……嗅覚が優れている種族も多いからな。


「仕方ないなー。みんなー、ちょっとだけここから離れていてねー!」


 俺が何かすると分かったからか、その超人的な肉体で即座にこの場から離れる。
 ある程度距離が空いたと認識してから、その期待に応えるために叫ぶ。


「──“地形変化”!」

『ウォオオオオ!』

「さぁ、どんどん座って座って! 在庫をあるだけ解放しちゃうよ!」


 仕方が無いので、複製魔法を使って用意していたおでん屋セットとも呼ぶべき食材を複製してからおでん鍋へ放り込む。
 料理スキルと時魔法で時間を調整し、できた品から順に器へ盛って届けていく。


「みんなー、お代はちゃんと貰うからねー。私の欲しい情報を教えてくれたら──特別にこれをあげよう!」

『おっ、おぉおぉおぉぉおおおお!』

「そう、アンデッドですらも酔わせる特注のお酒──『霊酒』だよ!」

『ウォオオオオォオォオォオオオ!!』


 この街にとっくに存在しているはずだが、俺が持ってきたという点とこの場の空気に合わせて盛り上がってくれている。
 なおこれは、俺の世界に住まう霊体などへ振る舞うために作った物だ。


「どんなささいなことでもいいよ、だけど誰かの迷惑なるようなことはあんまり言わないでね。だからスキルとか職業とか種族とかを言うなら、弱点とかを言いすぎない方がいいからね」


 まあ、要するにそれが欲しいわけだ。
 酒で軽くなった口なら、概要ぐらい教えてくれるだろう。
 ここの住民たちは、言っただけで俺がその職業に転職できないと思っているわけだし。

 ──もちろん、無職な俺にはいっさい使えない情報なんだけどな!


「あんまりお代わりは無いから、みんな食べる速度に気を付け……って、遅かったね」

『お代わり!』

「もう、しょうがないなー。それじゃあ、あと一杯だけなんだかね」


 無限に食材を持ち合わせています、なんて怪しすぎることこの上ない。
 なので量を調整すれば、そこまで違和感を覚えさせなくて済むだろう。


「それじゃあ改めて──乾杯!」

『乾杯!』


 ちなみに、彼らは水か別の店から持ち込んだ酒を持ち込んで飲んでいる。
 しかし霊酒以外はそこまで彼らに影響を与えないので、大半の者が素面シラフだ──うん、場に酔っているだけなのだ。


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