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偽善者と還る理 十七月目
偽善者と死者の都 その03
しおりを挟む需要に応えたニーズな『超越種』に邂逅した後は、宿を紹介してもらった。
来る人はいちおう居るらしく、一軒だけ街に宿屋が用意されていたのだ。
「ふー、疲れた……」
暇なアンデッドたちが作り上げた、それなりに品質のいい家具の数々……を、一時的にすべて空間魔法で片付け、自作の品と入れ替えるように並べていく。
俺、自分の家具じゃないと落ち着かないんだよ……とか言ってみたいけど、なんとなく品質なら自分の方が上などという、【傲慢】に至っているのでそうしただけだ。
「さて、これからどうしよっかな?」
変身魔法を長時間維持することは、本来精神構造に歪みをもたらしてしまう。
まあ、それは{感情}やら眷属の過保護で無効化できているのだが……問題は、そうしなければならない状況にあることだ。
「この街で<畏怖嫌厭>が発動すると、さすがにこっちも困るからね……」
レベル五に生息するアンデッドが、もしすべて俺と敵対したら……ただでさえ最強に近しい存在が住むのに、それよりは下だがそれなりに強い奴らとも同時に敵対するのは避けておきたい。
《もしもし、アン……繋がってる?》
《はい。一時期接続が途絶えていましたが、再接続できました》
《よかったー。もし危険だったら、情報の送信だけはしたかったんだよ──あっ、これがバレない範囲で集めた情報だよ》
さすがに神の気を解放していたら、ナニカしていますと言っているものだ。
隠せる範囲で行った鑑定や解析、またスキルに頼らない情報収集に必要な観察力で見抜いたこの街の全貌を伝えておく。
アンは俺の種族スキルが意思を持った存在なので、記憶を伝えたいとイメージすれば、だいたいのものは届けることができる。
そうして視られているとバレたくなかったので、先ほどまでは遮断してもらってたが。
《ほう、『アイちゃん』ですか……ずいぶんと仲が良さげですね》
《ツッコむとこそこなの? うーん、けどいい子みたいだったよ》
《……それより、いつまでメルを維持なさるのですか? まさか──ハマりましたか?》
《アイドロプラズムにバレるのはいいんだけど、それ以外の人にバレるのは避けたいからね。不意打ちで何が起きてもいいように、対策の一環としてやってるんだよ》
なぜなら俺は、『大根役者』でありいっさい演技系統のスキルが自動成長しない男だ。
眷属や国民のスキルの摸倣していくつか習得しているんだが、俺自身がそれらを使った際の演技力にまったく満足できていない。
まあ、そういう理由で続けていた。
クラーレによる召喚用に呼ばれる際はいくつか枷を掛けているので、精神的には違和感なくメルであることを許容している。
《そういうわけなんだよ。とりあえず、夜の街は絶対に何かある。だって、例の侵入者は夜の時間に入って排除されたんだし》
《リミッターを外されるのでしょうか?》
《うん、そうしてほしい。アイドロプラズムは強く刺激しないなら怒らなさそうだし、以降はアンもこっちの様子を視てて》
《畏まりました。ですが、完全にバレないようにというのは難しいですよ》
調べるためには鑑定や解析を使うのがもっとも手っ取り早いが、それは相手に魔力の籠もった視線を向ける必要があるため、あっさりとバレてしまう。
それを掻い潜って調べる方法はいくつもあるが、それでも強者は気づくものだ。
俺はそれが上手くできないが、アンならば行うことができる。
視界を介して調べてもらい、レベル五に住まうアンデッドたちのレアなスキルや強者に見合う動きを模倣してもらうのが目的だ。
《記憶に入ってるあの二人、いちおう視ておいたけど……どうなの?》
《かなり偽装された情報が多いですね。ですが、抑えられたメルとしてのメルス様であれば及第点でしょうか》
《うわ、辛辣》
《本音で向き合ってほしいと願われたのは、メルス様ですので。偽装した内容も含めて、こちらで情報を調査しておきます。また、該当する人物の情報も》
彼らは裏系の職業でも最上位の職業を持つような者たち……そしてその職業は、表の者たちでも知れるほど有名な可能性が高い。
稼業としてではなく『職業』として、何らかの方法で伝わっているからな。
《ありがとう。何かあったらちゃんと誰か召喚するから、そのときはよろしくね》
《承りました。魔本はいつでも使えるようにしてください》
《うん、分かったよ》
白にも黒にも、平時は魔力として体に還元しておくことができる。
その起点となる部分には刻印が施されているので、そこへ魔力を流せばいつでもどちらの魔本も呼びだすことが可能だ。
ちなみにこのシステム、割と使い古されている便利な収納術である。
体に刻みすぎると魔力の回路が複雑になって異常が起きるのだが、数が少ないならば必要に応じて武器が取りだせるのだから。
いちいち持ち歩かなくていいし、嵩張らない辺りが実に便利だ。
武器は脅しにもなるので身に着けておくのだが、魔本は一見すればただの本でしかなので晒してもいっさいの得が無い。
「さーてっと、そろそろ行こうかな」
うーんと体を伸ばして、部屋から出る。
今は魔法陣縛りをまだ受けているので、それに対応した短杖を腰に携えて──夜の街並みへ出かけていった。
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