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偽善者と還る理 十七月目

偽善者とレベル五初潜入

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 レベル五は本当に危険な場所だ。
 かつて侵入したとされる祈念者は、幸運に救われて処理の判断をされる前に中枢へ辿り着いたが故、『還魂』との接触を果たした。

 だが、『月の乙女』の少女たちは警戒をしているものの、その移動速度は並だ。
 アニワス戦場跡でもっとも負の魔力が濃いそこは、生息するアンデッドたちの強さがこれまでとは格段に異なる場所となっている。


「……うわー」

「何か分かったのですか?」

「ネタバレ……なんて言ってられないから教えておくけど──ここに居る魔物、最低でもレベル200は超えているね」

『ッ!?』


 ゲームで例えるのなら、ここはストーリークリア後に訪れるべき強者の居る場所だ。
 伝説や神話に語られるべき者たちが最期の地として選ぶ──アンデッドたちだけで構成された『終焉の島』とも言えよう。


「王様とか帝王とか、そういう種族名のアンデッドが多いけど……それより何より、位階ランクが高すぎるよ。これまでは最大でも8ぐらいだったけど、ここから先は確実に9を超えているからね」


 ちなみにだが、9は普通のレイドバトルで倒せる限界だ。
 位階は15まで存在するとされ、そこまで行くともう例の『超越種スペリオルシリーズ』である。

 分かりやすく言えば──生物としての限界が9、生命体として存在できる限界が12、導きなどで限界を突破した13、超常的な干渉によって限界を超えた14、存在そのものが理になっている15……みたいな感じだ。

 眷属を当て嵌めるのならば──クエラムが12、シュリュが13、ソウが15といったところだろうか?
 あくまで俺と会う前の話なので、ソウ以外は確実に位階が上昇しているだろうけど。


「ますたーたちが逃げられる限界は13、それ以上は遭ったらそれだけでゲームオーバーだからね。ちなみに、ちょっと前に話したあの『超越種アイドラプラズム』は15だよ」

「……少し、帰りたくなってきました」

「せっかくだから、見てから帰った方が今後の参考になると思うんだけど……まあ、どうしても帰りたいなら仕方ないよね」

「クラーレ、行くわよ」


 リーダー様は行く気が満々のようで……まあ、魔法陣の縛りなら10程度どうにかなるのでちょうどよかった。
 さすがに15を相手にするなら、眷属からすべての許可を得る必要があるわけだし。


 そんなこんなで移動を続ける少女たち。
 いちおう存在を偽装する魔法などをこっそり掛けているのだが、それこそ位階が13以上のアンデッドたちには通用しないだろう。

 本来であれば、数秒いるだけで不快感に押し潰されるであろう瘴気でできた霧の中を進み続ける。
 魔法と気功で補助はしているものの、耐性が低いためかあまり顔色はよくない。


「──報告するね、間もなくランク10程度のアンデッドが二体来るよ」

『……ッ!』

「気づかなかった……」

「そういうアンデッドだから、仕方がないと言えば仕方がないんだよね。魔法は準備、武器は握る程度にしておいて」


 そうして出迎えを待っていると、やがて俺の言った通り二体のアンデッドが現れる。
 日を浴びていない白磁器のような肌の色をした、ただの普人……そうとしか思えないほどに、知性的な瞳をしたアンデッドたちだ。


「──いらっしゃいませ」

「ああ、うん。どうもどうも」

「アニワス戦場跡、レベル五へようこそ。ご用件はどういったものでしょうか?」

「観光だよ。私とこっちの六人だけど……問題ないかな?」


 当たり前のように会話をしているが、少女たちは少々血の気が引いた顔色である。
 そりゃそうだ、彼らは吸血飢バンパイアの中でも最上位に君臨する種族のうえ、種族名に職業が付いた状態で職業にも就いているのだから。

 位階がただでさえ10、そして職業もまた最上位……いきなり遭うには早すぎたかな?


「我々に異論はございません。ですが、お連れの方々は……どうでしょうか?」

「ますたーたち、どうする? たぶん、戦う気が無いから大丈夫……なんて思っても、この存在感だけで押し潰されちゃうよ」

『…………無理』

「分かったよ。それじゃあ、みんなをちょっと送還するから待っててね」


 負の魔力で包まれたここでは、本来転移をすることはほぼ不可能に近い。
 俺たちが普段使う転移系の魔法は正の魔力でしか作動せず、作動させるためにはある程度浄化をする必要がある。


「行き先はレベル一の入り口ぐらいだと思うよ──“運参霧瘴ポータルミヌスト”」


 周囲とは異なる負の瘴気が少女たちを包み込み、渦のような軌跡を描く。
 それが最大まで達した時──渦は消え、中に居た者たちはそこから消え去った。


「さて……初めましてかな? 私はメル、ただの偽善者にしてますたーであるクラーレの従順な召喚物つかいまだよ」

「御冗談を。あなたのような方が召喚獣として呼びだされる世界であれば、そこは神々の世界でありましょう」

「ふふっ、そうなのかな? とにかく、私はますたーたちの分も観光をするよ……あっ、魔道具で映像を記録してもいいかな?」

「構いませんよ。ただ、撮影を控えてもらいたい場所がいくつかございますので、そちらは主との相談をしてからにしてください」


 そして、二人は歩を進める。
 瘴気の霧が晴れたその先には──アンデッドたちが過ごす街が存在した。


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