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偽善者と還る理 十七月目
偽善者と緻密魔法陣 中篇
しおりを挟む今回の縛りは──ずばり魔法陣だ。
その種類は問わないが、必ず発動に魔法陣の使用を必要とするものでなければ、魔法はこの縛りの最中使用することができない。
まあ、裏を返せば魔法陣さえあればあらゆる行動を許可されるのと同意なんだけど。
だからこそ、先に『警戒霊』を召喚することができたし、先ほども高火力の魔法を発動できたってわけだ。
「うーん、やっぱり魔力がなー」
唯一の問題点は、やはり魔法陣は線が多ければ多いほど魔力を消費するということだ。
改めて、先ほどの魔法陣──“爆風爆弾”の術式がセットされたモノを掌で構築してみても、それを描くために使った線は多い。
「その数なんと数万超え……そもそも、使うための処理ができないよ」
魔法陣の中には、使いたい術式の詳細な設定が予め記されている。
そのため魔力を流すだけで、勝手に魔法陣側が術式を完成させてくれるという寸法だ。
属性・形状・対象・規模・威力……などの細かい設定があるため、自分の使えない魔法でも、知識にあれば描くことができる。
ただ、持っている魔法なら『あるスキル』によって──簡単に、そして瞬時に可能だ。
「さて、まだまだ頑張らないと」
俺はそんな魔法陣に、細かな設定を書き加えただけだ。
当然、線が多ければ多いほど発動せずに暴発する可能性も上がるが、それだけ成功した時の効果もより強大なものとなる。
そして何より、未来眼や眷属たちのサポートがある俺にとって……そういった心配は、ある意味無縁とも言えた。
「術式召喚──“永劫凍土”」
より上位の魔法であり、異なる属性の魔法である──氷河魔法の“永劫凍土”。
その少々術式を改竄したバージョンの魔法陣が、地面に描かれて発動する。
瞬間──世界が凍てつく。
大地を瞬間凍結させ、痛覚が悲鳴を上げる間もなく対象を固める。
その犠牲となったアンデッドたちは、揃いも揃って氷のオブジェと化す。
今回の場合、規模と威力を強化してある。
その部分の術式を描く線が複雑になっているし、より魔力を消費するように描いた。
そのため俺の魔力もごっそりと奪われ──先ほどの分と合わせて、もう五割しかない。
「まあ、最大のじゃないからいいんだけど」
魔力チートでは無いので、消費量は考えなければならない。
アンデッドたちを内包する氷がそれぞれ割れていくと、中から瘴気が噴きだす。
「術式召喚──“魔力変換・瘴気《マヤズム》”」
純魔法である“魔力変換”に、瘴気を正の魔力として変換する機能を搭載した魔法陣。
それを発動することで、辺り一帯の負の魔力をすべて糧とすることに成功する。
──よし、これで二割は回復したかな。
アンデッドたちは遠巻きに、俺の姿をジッと見ている……観察とかそういうことではなく、ただ瘴気が尽きた俺の一帯に、若干近づきがたさを感じているだけだ。
「術式召喚──“煌域顕現”」
そして、さらに魔法陣が『月の乙女』が居る辺りを除いた全域に発動する。
先ほど<千思万考>で演算した、少数のアンデッドのみが『月の乙女』を狙い、残りが俺に向かってくるよう構築した──巨大な檻。
光属性の魔力で編み込まれたソレは、外部にアンデッドを漏らさないが、内部に居るからといって影響が及ばないようにした。
そして、少しずつだけだが破邪の力を籠められるようにしたので、瘴気が減っていく。
「ふっふっふ……いつでもおいでー」
レベル四のエリアとはいえ、統率行動をとらせるアンデッドたちも存在する。
キングやジェネラル、といった名前を持つアンデッドたちは配下を強化できるのだ。
「術式召喚──“破葬燃焼”」
これってたしか燃え尽き症候群って意味らしいんだけど……この世界だと、火系統最上級である業炎魔法の一つとなっている。
つまりは燃え尽きる──炎に触れたあらゆるモノを一切合財燃焼し尽くすのだ。
これもまた、規模と威力を強化したうえで破邪……というより聖なる力が加わるように術式を改竄している。
変換はすべて魔法陣が行ってくれるので、魔力さえあれば何でも可能だ。
兵も王も関係ない、挑む者すべてを滅する真なる焔。
最上級火系統魔法の名は伊達では無いと、俺に証明してくれた。
「それじゃあ仕上げをしてあげよう」
これまで使っていた魔本[マゲイアス]の中でも、特別術式を描く線が多い魔法円を見つけ出し──地面にそれを描きだす。
「術式召喚──“万物塵化”」
塵属性の禁書魔法──“万物塵化”。
効果はシンプルで、魔法の影響範囲に在る術者以外のすべてを塵と化す魔法だ。
灰色の霞がゆっくりと周囲へ広がり、少女たちが居る辺り以外を侵蝕していく。
そしてそこの触れたアンデッドたちは、そのすべてが問答無用で灰となる。
──抵抗すらも灰にする、魔力をも喰らう禁術がこの魔法なのだ。
「よし、これで満足!」
あとはここら一帯の魂魄を回収だけだ、少女たちが戦いを終える前に、それらは完遂しなければな。
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