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偽善者と還る理 十七月目
偽善者と緻密魔法陣 前篇
しおりを挟む帝国側としては、自分たちが進軍できるだけの浄化を行い、その道以外をアンデッドの溜まり場として維持したいんだとか。
そうすれば、そこは自動的に他を阻む壁として存在するからだ。
レベル四の攻略を時々高ランクの冒険者や帝国の騎士たちが行うため、帝国から算出される魔石量はそれなりに多い。
負の魔石なので、そのまま出すか浄化してから出すかで行き先は違うらしいが。
そんなこんなあり、悲願はレベル五に巣食う超高レベルのアンデッドたちから魔石を得ることらしい。
……さすがに『超越種』である『還魂』は討伐できないにしても、200程度ならそのうち祈念者たちが討伐するだろう。
「はーい、お疲れ様ー。そろそろレベル四に行くのー?」
「ええ。準備運動もできたし、クラーレ抜きでも問題なく倒せたわ」
「むぅ……それは、わたしが不要と言われているようです」
「レベル四だと、クラーレの補助魔法が鍵となるわ。頼りにしているわよ」
シガンたちも成長し、自分たちに足りないモノを補ったうえで長所を伸ばしていた。
俺もそのすべてを開示してもらったわけではないが、眼に見える範囲だけでもそういったものがすぐに分かるほど強くなっている。
クラーレの場合──苦痛耐性スキルを伸ばしていたが、体術を身に着けたうえでさらにシガンたちのサポートができるよう、使える補助系統の魔法数も増やしていた。
いったいどこを目指しているのか、と一度問うたことがあるのだが……どうやら俺と同じように、なんらかの創作物を元に自分のイメージを固めたんだとか。
……なぜかタイトルを教えてくれなかったのは、彼女のプライバシー云々もあるので気にしないでおく。
たとえ、それが趣味趣向に関するものであり、生殖できない愛のやりとりだろうとな。
閑話休題
レベル四に入った途端、とても禍々しい瘴気が少女たちを歓迎する。
レベルを一つ上げるということは、内包される瘴気量が一気に変化することを意味しているのだ。
「──“瘴気耐性強化”!」
クラーレの強化魔法によって、漂う瘴気に対する耐性が高まる。
魔力による強化なので、異なる方法を使えば重ね掛けも可能だ──
「──“活性功”」
そのため、俺が気力を使ってそれを行う。
誰もが持つ力を活性化させるという効果なので、肉体が備え持つ瘴気に対する抵抗力を促している……という仕組みらしいな。
「うん、それじゃあ頑張ってねー!」
「はい、見ていてくださいね!」
「応援してるよー!」
なんて会話をしてから、俺たちは少し離れて戦闘を行う。
俺も少し体を動かしたかったのだが、前回訪れた時と異なり縛りが協力プレイに向いていなかったので、別行動を取ったのだ。
「調査用に──“召喚・警戒霊”」
霊の中でも、騒々しい風属性系統の個体が進化するヤツだ。
ソイツに命令し、クラーレたちがピンチになったら報告するように伝えておく。
「さてさて、それじゃあやりますか」
レベル五からアンデッドがやってくる、などと主人公みたいなイベントは無いので、冷静に対処することができる。
しかし、レベル四とはいえ数で押し潰されてしまえば少女たちは全滅してしまう。
そういった理由もあり、少女たちを守るために動いた……と言えばさぞカッコイイんだろうが、実際にはなんとなくでしかない。
いや、たまには派手な攻撃でヒャッハーしたいだけである。
◆ □ ◆ □ ◆
一人で無双し始めるメルスの様子は、当然離れた場所でアンデッドたちと戦う少女たちからも把握できた。
方法は分からないが群がってくるアンデッドたちを一ヶ所に集めると──それを一度に爆発を起こして一掃する光景。
「うーん、魔法陣よね。一瞬だけど、チカッと足元で光ってたわ」
斥候担当でもあるノエルが、情報を共有するために報告する。
彼女が見たのは一瞬ではその全貌を知ることができないほど、巨大な魔法陣──複雑かつ緻密なそれは芸術の域に達していた。
「どんなのか~、分からなかった~?」
「さっぱりね。というかプーチは、見ただけでどんな魔法なのか分かるの?」
「ふふ~ん~、それなりにね~」
忌々しいけど、と心の中で呟きながら胸を張るプーチ。
それは件の妖女から提案されたことであったため、どうしても受け入れがたく心が拒絶していからだ。
「けど、あの火力は異常よね……完全に、頭がおかしい方の爆裂魔法じゃない」
「魔法陣であれだけの威力が出せるという事例は、まだ無かったのではないか?」
リーダーであるシガンの呟きに、盾役であるディオンがそう疑問を零す。
魔法陣は一定の威力を個人の才能に問わず出せるという売り文句を持つが、その代わりに威力が低いことを欠点としている。
しかし目の前の光景は、それを明らかに覆すものだった。
ドーム型に広がる膨大な熱の塊は、いっさいの抵抗を許さずアンデッドたちをこの世界から消滅させていく。
──そもそもとして、そうした光景を見せられて戦闘をできるはずがなかったのだ。
少女たちはアンデッドを寄せ付けないように魔法を構築したうえで、妖女が行う惨劇に目を向けるのだった。
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