1,144 / 2,518
偽善者と還る理 十七月目
偽善者と貫くこと
しおりを挟む天の箱庭
初志貫徹、とは難しいものだ。
人間は変わり変われる生き物であり、他者との関わり合いはそれを自然に促す。
人の数だけ出会いがあり、その分の変化があるだろう。
そしてそれは、時に信念を歪めてしまう。
物語でいうところの──『闇堕ち』といった概念はこういうところに通じている。
そこまで深くなかろうと、人としての在り方なんて変貌しやすいものだ。
通常、そんな変化は二十歳までに起きることが多いんだとか。
多感的な年頃というのもあるが、周囲の情報で成長していく時期だから、というのも理由なのかもしれない。
だがそれ以上の年齢になろうと、徹底的にこれまでの環境と異なった場所で生活をしていくと、強制的にそういった考え方や在り方に変化が起きていくんだとか。
えっ、何が言いたかだって?
要するに、そんな環境としてこのAFOという世界は最適だということだ。
「──よいしょっと」
「……全然当たりません」
「ますたーに仕えている私が、ますたーより弱いんじゃ仕えている意味が無いよ」
「そんなことありません。メルには……美味しいデザートを作るという、崇高な使命がありますよ」
あまり嬉しくない崇高な使命とやらだ。
偽善者ではなくパティシエを目指しているのであれば、知らない甘味が無数に存在するこの世界は宝の山だと思うんだろうが……俺は別に、ただ偽善をしたいだけだからな。
「あんまりやる気にならない?」
「強くはなりたいんですけど……相手がメルだからか、本調子になれません」
「むぅ、なかなかひどいことを言われた気がするんだけど……そうだね、なら頑張ったらご褒美に高級アイスを」
「──“気絶打”!」
唐突にやる気……いや、殺る気になったクラーレの棒の軌跡を、思考加速スキルを用いて躱していく。
武技を補正付きで使ってしまったので、動きがとても単調だ。
「ますたー……」
「ハッ! ち、違うんです!」
「何が違うのかな?」
ポコリッ、と俺も棒を持って軽くクラーレの頭を叩く。
音はそれなりに軽快なのだが──
「──~~~~~~~~ッ!?」
「“剛気功”に加えて、“貫魔功”も籠めているからね。痛みに抵抗はできないよ……もちろん、固有の回復を使っちゃダメだよ」
「……ひどいです」
「もう、強くなりたいんでしょ? だからこうして、二人っきりで修業しているのに」
さて、今さら状況の説明だ。
現在頭を抱えて痛みに苦しむクラーレが、突然俺を強制召喚した。
そしてこう言う──『強くなりたい』と。
俺はそれに応え、時空間の速度を彼女に影響が出ない程度に遅めて修業を始めた。
精神と日寺の部屋並みに修業ができる、そしてやるべきこともたくさんある。
ならば俺は主が望むままに、自分が教えられることを可能な限り伝授するだけだ。
「けど、私でいいの?」
「うー……何がですか?」
「私より教えるのが上手い人は、たくさんいるんだよ? そういう人たちに教わる方が、ますたーのためになると思うよ」
「そ、それは……そうです! わたしは、メルの何でも使える戦い方をやりたいのです」
まあ、それなら一番教えるのが上手いのは俺だろうな。
眷属はだいたい一点特化だし、武術特化ぐらいにジャンルが広い奴もいるにはいるが、それでも魔法を用いる方法ができていない。
「何でも、か……」
「はい、何でもです!」
「ふーん、なら搦め手も全部だよね?」
「……へっ?」
ニンマリと微笑む俺。
妖女姿でのスマイルがどう映ったのか分からないが、なんだかクラーレの表情が少し引き攣った気がする。
「た、戦い方ですよ!」
「ますたー、戦いとは武器を交えなくても戦いなんだよ? 弁論が言葉の戦いであるように、あらゆることが戦いに通じているの」
「むぅ、むむむむむ……」
妙に可愛らしい唸り声をあげ、俺の詭弁に悩み始めるクラーレ……俺もメルを続けるなら、いずれアレをやるのだろうか?
「け、けど、何をするんですか?」
「ますたーが交渉を上手くできるとは最初から思ってないし……」
「うぐっ」
「私と同じで少し不器用だし……って、どうしたのますたー、大丈夫?」
不器用、といってもいい意味でと追加で伝えようと思ったら、すでにクラーレのライフはゼロになっていたようだ。
ガックリと落ち込む様子に、少々やりすぎたかと思ってしまう。
「ますたーにやってほしいのは、料理だよ」
「料理ですか?」
「ますたーが料理をマスターしてくれたら、私はデザート係から解放されるからね。張り切って料理をマスターしてね」
「……どうして、料理なんですか?」
今、そのほとんどの理由を開示した気がするんだが……まあ、それっぽい理由もちゃんと用意してあるからいいけどさ。
「ますたーは回復職だからね。魔力が尽きた時でも回復ができるように、料理が作れ
るようにするべきなんだよ」
「……調合や錬金術ではなくて?」
「ポーションや薬よりも、料理の方が効率が良い場合が多いんだよ。何より、戦闘するする人ならバフ効果が多い方がいいでしょ?」
「むぅ、むむむむ……」
うん、なんだか押し切れそうだ。
戦闘訓練の次は、お料理教室だな。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる