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偽善者と還る理 十七月目
偽善者と星の銀貨 その13
しおりを挟む夢現空間
あれから少々の時間が経過している。
少女──リラの世界は童話世界として別世界──『赤ずきん』であるシャルルの世界と接続した。
俺には<箱庭造り>があるので、それを上手く使って違和感の無いように地形を互いの環境に繋ぎ合わせることはかなり苦労したが。
眷属たちの案を受け入れながら、そんな面倒な作業もパパッと終わった。
「まあ、何はともあれとりあえず、今回の物語は幸せな結末ってことで」
「そ、そうですね」
「にしても、『星の銀貨』か……俺が貰ったのは『星屑の銀貨』だったのは、何か理由があるのか?」
「ど、どうなんでしょう?」
いつものようにコタツで後日談。
共に温もりを感じるのは──虹色に輝く龍の鱗を持つ、緑色の髪質の少女。
とても恥ずかしそうに体をコタツの奥深くへ突っ込みながら、俺との会話に応える。
「フー、とりあえず何か食べるか?」
「えっ? あ、はい」
「今日はそうだな……これにしよう」
日本のお菓子を出すことが多かったが、今回はこちらの世界のお菓子を並べてみた。
魔物の素材を使った物など、独特の味がして案外イケるのだ。
「……ふぉふぉれふぇフー。んぐっ、体の調子はどうだ? 竜は自分の力に魅了されて堕ちることがあるらしいからな」
「だ、大丈夫だよ。みんなが制御の仕方を教えてくれたし……そ、それに、わたしだってあなたの眷属だよ?」
「まあ、何もないならいいんだよ。心配するだけ損って言葉があるけど、フーことを気に掛けちゃダメなんて決まりもないんだ。少しぐらい心配したっていいよな」
「う、うん。わ、わたしは何も言わないよ。む、むしろ嬉しい……かな?」
フー──『反理の籠手』の自我が受肉した存在である彼女は、イアと同様『神竜』と呼ばれるドラゴンの力を受け継いだ竜人族として、肉体を形成した。
違う点と言えば、その血の濃度だろう。
彼女が設定的に薄まった血を引いているのに対して──フーはほぼ百パーセント、神竜としての力を扱うことができる。
何と言っても、神気を宿した『機巧乙女』に受肉しているんだからな。
フーの場合は自身のスキルに引っ張られた気もするが、見事最強の竜人族としてこの世界に来てくれた。
ただ、まさか性格がこういった風になるとは思っていなかった……予想外という意味であり、フーとしての在り方を否定しているわけではない。
──むしろ、ありと思っているほどだ。
まさか【憤怒】としての在り方も、籠手の力が反転させたのかな?
なかなかないだろうな、【憤怒】の力を持つ者がこんなにシャイなガールになるのは。
「童話世界が、また広がった……手元にある魔本はあと二冊。けど、そんなにすぐにやる気にはならないな」
「わ、わたしたちでやってみようか?」
「うーん……こればかりは自分でやってみたいからな。自分の世界に在ったものを、救ってみたいってのはわりと本音なんだ」
「そ、それなら応援するね!」
両手を胸の辺りでギュッと握る仕草が、物凄く萌えという概念を悟った気になった……どうにか{感情}頼りで精神を平常心に戻す。
うちの娘、めっちゃ可愛い……なんてお父さん気分になってしまった。
「いろいろとやることがあるな……けど、俺は凡人だからそれらを一気にこなせない。だからフーたちを創った、凡人が少しでも天才たちに届こうと足掻くために。まあ、まさか女の子になると、当時は思ってなかったが」
「あ、あなたは凄いよ?」
「そう言ってくれると嬉しいけどさ。実際、天才ってのは終焉の島に封じられていた奴らだろ? どいつもこいつも、何かしらの才能に目覚めているし。ああいうのだよ、本物の天才ってやつは」
しいていうなら、今の俺は『天災』でしかないだろう。
天才たちの人生──運命を奪い去り、自身の支配下に収めようとする【強欲】な者。
人々の命を掌握し、己の世界に押し込んでいく【傲慢】な者。
運営神がボス認定したくなるのも、正直分かってしまう経歴を持っている。
それでも凡愚である俺に、そんな大役は必要ないので断り続けるが。
「また話が逸れたかな? 童話世界にも、いろいろな環境があるんだと分かった。今回は運命の女神の干渉が少ない──つまり死に戻り以外の加護が見つからなかった」
「つ、つまり……?」
「率先して殺そうとしているわけじゃないってことだよ……チッ。あくまでもフェアに、加護を与えた者が祝福される未来があるって信じてんだ。そこに至るまでの過程を、完全に無視してな……むしゃくしゃする」
やり方が違うだけで、クソ女神と俺は救われない人々の幸福を願っている。
だが、やり方に問題があるのだ……だからこそリアは救われなかった、そして俺はそのやり方に【憤怒】を感じた。
「これからも、俺は誰かを救いたい。現実ならできなかったことも、こっちでならきっとできる。だけど、圧倒的に足りないモノがある──フー、手伝ってくれるか?」
「うん、もちろんだよ」
肯定されたかった、共に居たかった。
俺のこの在り方を、認めてくれる者がいっしょにいたい──それが眷属を求めた、理由の一つだろうな。
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